「俺も正月は勿論、田んぼも畑も作業が一段落つくどそん(の)度に手伝いの皆と車座になって酒コを一杯飲んだ。お目出度いと言っては搗ぐ餅を一杯食べたもんだ。」
「俺も一升瓶抱えで飲んだもん(の)だ」。
俺がそう言うど先生の口がら酒の席での失態、恥ずかす(し)い思い出が飛び出す(し)た。東京の大学を終えですぐに岩手に帰って高校の先生になった事は前にも聞いでいだげど、先生でも酒の席での失敗談や恥ずかす(し)い思い出があん(る)のがど俺は話コを期待す(し)た。聞いでいで面白がった。
「先生方の忘年会は毎年あったべ。その席で余興が当たり前だった。教師になって初めでの忘年会は北上夜曲を歌ってごまかせたけど、二年目の冬、先輩教師に教え込まれで、ちゃんとパンツは履いていたけど上半身裸にネクタイだけす(し)て一緒に裸踊りをす(し)た。三年目には安来節のレコードに合わせで旅館の浴衣を尻に端折って頬かむりす(し)て鼻に半分に折った割りばしを挿す(し)て踊った」。
聞いでる奥様も初めて聞ぐ、知らなかったと言い俺を見る。先生本人は時代が変わって今だったらパワハラだの、セクハラだど言われるかも知んねャ(知れない)。同僚の女性教師もその場に居たん(の)だがらど言う。
酒コが入ってっから(入っているから)俺はこの際だと思って、奥様とのなれそめを初めで聞いだ。先生は、何、親の勧めだお見合いだったと言う。奥様は父の農作業を手伝いに来ていた遠い親戚に当たるのだと言った。
「めんこくて(可愛いくて)、可愛いがったから二十五の歳に結婚す(し)た。」
「当時は珍す(し)い東京帰りだべ(でしょう)。学校の先生でもあっぺす(あるし)、先生という職業に憧れもあったがら二十二(歳)の時の縁談話にすぐOKしやした(した)。ほほほ、この歳になって聞かれで話すのも恥ずかしいもんだべ」。
奥様はそう言いながらも笑みを作った。続けて言うには、先生の休みの日に一緒に農作業をす(し)ながらのデートだったと言う。一日の農作業が終わって汗をかいだ(た)まま田んぼの畔で夏の夜空を見ながら将来のことを語り合ったのが一番の思い出だど語った。
「結婚す(し)ても苗字が変わんないしょ(変わらないでしょ)、三十三の女の厄払いの時の中学校の同級会で久す(し)ぶりに会った友達がら、なんでまだ結婚しねャんだ(しないんだ)?って聞かれだ。その時にはもう三人も子供が居だのに」。
そう言って笑う。聞くと子供は女、男、女なのだと言う。息子さんの話は前に先生がら聞いでいだげど、娘さんが二人いだとは初耳だ。奥様の話だど、三人は東京の大学に進学しそのまま勤めに出で(て)娘二人は東京で知り合った男と結婚す(し)て今は長女が横浜で次女は名古屋に居るのだと言う。二人ともサラリーマンの旦那で、次女の方は旦那の実家の方に帰ってから小学校の先生になったど語った。
「息子さんは確か東京で公務員だべ?(だよね)」。
俺が聞くど、先生は息子さんのごどより自分のごどを言い出す(し)た。