四 夜話1

 三百十八号室は(おら)の部屋がら先に進んで左に曲がる廊下の突き当りの右手前になる。途中にあった自動販売機がら一合入りの酒コを三個買った。

 ノックをすっ(る)と、先生本人が顔を()す(し)た。ドアを支えでくれだのでワゴン車をそのまま上り(かまず)に入れだ。

 「お邪魔すんべ(します)」

 部屋に上がるど、窓辺の方に二組の布団が丸めであった。お風呂に入って来てがらしばす(しばらく)身体を横にする。(おら)も誰もが万年床だべ(だろう)。部屋の真ん中(あだ)りに置がれだテーブルの上には二組のお(はす)と茶碗、お椀が揃えられでいだ。それで二人の座る位置(いづ)が分がった。奥様が部屋の出入口を背にす(し)て、その左隣の真ん中に先生の分があった。二人の席の間には前にも女房(にょうぼ)ど見だごどのある炊飯器が置かれていだ。米や野菜、味噌等と一緒に何時(いづ)も車に炊飯器を積んで来るど聞いでいる。奥様と相対する(かたつ)で奥に(おら)が座る位置だった。新聞紙が何枚が重ねで()いであったテーブルの真ん中に鍋を置いだ。先生の正面になるテレビはニュースを伝えていだげど、消音にされていだ。字幕がニュースの内容を伝えでいる。

 奥様がそれぞれのお椀に鍋の身を取り分げる。それを見ながら(おら)は誘った。

 「酒コ買って来たべ(来ました)、乾杯すっぺ」。

 口広のガラス瓶に入った酒だ。三っ一遍に酒っこの(くづ)を開けでそれで乾杯すっぺ(しよう)ど思っていだげど、奥様が立って食器棚からコップを三つ取り出す(し)てきた。俺は何も言わないごどにす(し)て奥様が席に戻るど、先生、奥様、俺のコップに一合を小分けにす(し)て()いだ。(おら)が先生に乾杯の音頭をと頼んだ。

「今年は良がった。来年も豊作であるように。そす(し)て健康であるように。カンペャ(乾杯)」。

(おら)と奥様が少す(し)遅れで唱和す(し)た。湯治場(とうずば)もいいもんだなど改めで思う。

(おら)が味はどうだべがと口にする前に奥様が汁を啜って、いい味だべと言った。それだけで(おら)は満足す(し)た。卓上コンロはねャ(無い)。しゃぶしゃぶがしゃぶしゃぶで無くても、肉が柔らかくて良いと言う先生の言葉が嬉す(し)かった。やっぱす(り)女房(にょうぼ)も来れば良がったのにど思った。

 「野菜もそれぞれ味がす(し)みでいで美味す(し)い」。

 奥様の言葉だ。それを聞きながら(おら)自分(ずぶん)で作った鍋に舌鼓を打った。

 「ご飯はまだ良いべが?」

 先生も(おら)もまだ()がす(良いよ)と応えだ。

 「(おら)は先に御飯もらうべ(食べます」。

 奥様の言葉に頷いで先生も(おら)も酒を優先させだ。三つ目の小瓶を開げで先生のコップに注ぐ。酒をもっと買って来た方が良がったべがどふと思った。

「「酒コも(むかす)みだいに飲めなくなったなァ」。

先生が言う。

「なに、まだまだ」。

(おら)相槌(あいづつ)に、先生の言葉が若い頃の(はなす)になった。