鍋は手っ取り早くて良え(良い)。旅館据え付けのアルミナイトの大鍋に各野菜等を適当に切って適当に並べだ。それでも先生の所に持って行くのだ。女房のを思い出す(し)ながら食材ごどに並べだ。食材が隠れる程に水を入れ粉末状のダシの素を振りかけようとす(し)で、そうだこの前に焼き豆腐と糸コンニャクを買って入れねばど思った。
とりあえず生ごみを捨てでど後に並ぶプラスチック製の青い大きなごみ箱を開げで、今日は炊事する(湯治)客が少ねャ(少ない)のがなど思った。生ゴミの量がら湯船には人が多がったのになど思った。
食材を入れだ大鍋と豚肉の包みを調理台の上にそのままにす(し)て売店に近い方の側の出入り口を出ると、エレベーターの前で及川さん夫婦に出会った。
「今来たばかりだ。俺達は四階だ」。
「元気でまだ会えたね、何よりだべ」。
挨拶す(し)た。横で奥様が言う。
「奥さんも来たがんべ?(来たんでしょう)、後でご挨拶に行ぐがら、何号室?」。
「申す(し)わげねャ(ない)。今回は俺だけだ。何、女房も元気にすてる(している)。孫の嫁入り支度にしゃしゃり出で、何だかすん(するん)だど。嫁さんの方がかえって困っていんべ(いるだろう)。三百十号室」。
役立たない返事を苦笑いす(し)ながらす(し)た。
「お孫さん、もうそんな歳だべが(歳なのでしょうか)、なんぼ(何歳)になった?。」
「二十二。大学終わって就職す(し)たばがりなのに、学生時代がら付き合っていだ男ど一緒になん(なるん)だど。めでてャ(めでたい)事だからこればっかりは反対も出来ねャ(ない)。孫の気持づに任せるす(し)かしょうがねャ(ない)。」
「んだ、んだ(ええ、そうですよ)目出度いごどにケチつけてなんねャ(つけてはならない)。おめでとうさんだね。ひ孫が見れるっしょ(見れるでしょう)。良えごったべ(良いことだ)。」
「あんがどう(有難う)」。
エレベータが下から上がって来て止まった。中に誰も居なかった。二人を見送った。孫が学生時代がら男と付き合っていだのは嘘ではねャ(ない)。ん(そう)だけども相手の男も学生だっつう(だと言う)訳ではねャ(ない)。言う必要もながった。
三坪ばかりの小さな売店に行くど、黄金風呂からの帰りだべ(なのだろう)あの三人のご婦人がお土産漁りをす(し)ていだ。今度は三人ともマスクをす(し)ていだ。俺は目にす(し)た日高昆布も買うごどにす(し)たけど、好物のさつま揚げに焼きちくわも買うごどにす(し)た。鍋に少し入れで残りは冷蔵庫に入れでおいで小腹が空いだ時のつまみ食いに良え(良い)。家にいる時のいづもの習慣だ。女房が側に一緒に居だらまだ笑うかも知んねャ(知れない)など一人で思って苦笑す(し)た。レジに回るど、俺の手にす(し)た物を見ながらご婦人の一人が少す(し)ばかり笑いながら言った。
「あら、本当に料理をするの?。共同炊事場を見てみたい」。