ニ 風呂
エレベーターで二階に下りるど、先に大風呂の方を選んだ。左に行けば大風呂、露天風呂等のある方で、右に行けば黄金風呂に行ぐごどになる。突き当りの素ガラスの入った大きな窓がら数件の人家と乗り合いタクス(シ)ーがUターンした道路の先が見える。秋田の横手方面に抜ける道だど聞いだごどがある。窓から目の前に見える小さな花壇には何の花だべ(だろう)、小さな花が咲いでいる。その真ん中辺りに人工的に幾づがの石が積み上げられた間から滾々と温泉水が湧き出でいる。ご近所の人なんだべが(なのだろうか)と思いながらポリタンク二つに温泉水を汲み上げでいる所(ところ)をす(し)ばらぐ見でいだ。軽自動車が傍に停められで有る。
「あら、先ほどはどうも」。
声の方に振り向くど、タクス(シ)ーで一緒のご婦人方だった。旅館の浴衣姿に変わっている。三人ともマスクを手にしていた。
「先に湯をいただきました。いい湯ですね。これから黄金風呂の方に行くの」。
女湯の大風呂を示す暖簾が彼女たちの後に見えだ。何を見でいるのがど問いながら近づいで来だ。湯の匂いが微かにす(し)た。窓の外を見で気づいだらす(し)く、
「あら、温泉があんな所からも出ている。あれをポリタンクに入れて持ち帰るの?、自分の家のお風呂に使うのかしら」。
「ポリタンク二つではお風呂にならないわよ」
「何に使うか分かんねャ(分からない)げど、胃に良いって。健康のため少す(し)ずづ飲む人も居るって聞いだごどあっぺす(有るし)、料理を作るにも使うべ(使う)、勿論、自分家のお風呂の足す(し)にする人も居んべ(居るでしょう)。」
「誰でも汲んで持って行って良いのかしら?」
「ん(そう)だ。良えべ(良いでしょう)。ここの旅館は毎分一トン、八十度の温泉が湧いてるべ(湧いているよ)。ただ(無料)で皆が利用す(し)ても困んないべよ(困らないよ)」。
三人は俺の説明に振り返るごどもなく外の男女、二人ずれの動作を感心す(し)たように見でいる。
「俺も入って来んべ(来る)」。
そごを離れで階段を下った。男湯の大風呂は女湯の下、一階にある。
脱衣籠の空いでるのを探すのに手間取った。なんぼあんだべ(いくつ有るのだろう)体重計に乗るのは冬に来た時以来だ。二キロ太っていだ。その分また腹が出だなど思う。腹をたたくと、ポンと音がす(し)た。