先生の代わりに俺が言葉を掛げだ。その右横の窓際にある小さな神棚に明がりが灯っていだ。手前には大きな丸鉢に入った青木が置かれであり、その側にはこの湯治場の由来を書き表す(し)た縦一メートル横一メートル五十程の板で出来た額が目の高さに据えられである。改めて見っ(る)と、この温泉の湯の発見は先代が昭和六年に発見す(し)たものど有った。タクス(シ)ーで同席す(し)たご婦人三人に間違って教えだなど思う。
「皆さん聴いでけろ(下さい。)。今日は買う人も多いがら移動販売車の前が混雑す(し)ては危ねャ(危ない)。ん(そう)だから五人ぐらいずつ誘導すっ(る)から譲り合って、俺に従ってけろ(下さい)。ご協力お願いす(し)ます」
女将が集まっている皆に呼びかげだ。誰も文句を言わねャ(言わない)。黙って頷いている。
午後三時半ピッタリに移動販売車は玄関前の小さなスペースに停まった。クラクションを鳴らす(し)て到着を告げる。聞きつけで、これから自分の部屋から出てくる人も居っぺ(居るだろう)。女将が気を使って声を掛げでくれだげど、俺も先生も最後で良え(良い)と伝えだ。有るもので予定のものを買えば良え(良い)のだ。
買ったものをビニール袋に入れでぶら下げで来る湯治客はソフアーに戻るごどなぐそのまま自分の部屋に向がった。二十分程過ぎで女将が声を掛げでくれだ。表に出るどまだ二人の男客が品物を選んでいだ。鳥が両翼を広げだような格好の屋根の二トン車で三方向に品物が搭載されでいる。後部にトースト用のパンやバターロールが並び、その側にお菓子、ノド飴、チョコ、うどんと蕎麦等の乾麺、インスタントラーメン、カップヌードル等がある。左側面の半分以上を占めで冷蔵・冷凍ショーケースが並んでいだ。冷蔵ケースの中に魚は塩サバ、アジとサンマの干物、真鯛と鮭の切り身、真イワシ、鮎、まこカレイ、シジミ等が並ぶ棚と、鶏肉や豚肉、牛肉が並ぶ棚と餃子やワンタン、焼きちくわ、さつま揚げにソーセージ、豆腐やコンニャク等のある棚に分がれでいる。冷凍の方にはイカやタコ、マグロの刺身がそれぞれにパックになっていだ。イカ、エビ、マグロ、ぶりの四点盛も有る。ショーケースの右端の上の設定温度に目が行った。冷蔵は0度、冷凍はマイナス五度と有る。
俺はメモに書き出す(し)ておいだ通り鮭の切り身、三陸刺身わがめど豚肉の小間にお買い得と有った豚ロースの薄切りを買った。三百グラムとある薄切りは佐々木さんご夫婦と今晩にでもしゃぶしゃぶ鍋を一緒に囲むのに良いど、とっさに思って買った。鶏肉はみづ(ち)のく製とある。モモ肉二百グラムと手羽先が六本入ったものを買った。モモ肉は家から持たされた根菜類等と一緒に煮す(し)めにす(し)ようど思う。女房の言うとおりに多めに作っておけば、出来た煮す(し)めを鍋ごと冷蔵庫に保管す(し)て何日間は食べられる。調理の手間ひまが省けっぺ(省けるだろう)。