「私達も高橋旅館に行くの」。
振り返るど補助椅子を入れで横に三人、同ず(じ)年齢恰好のご婦人がマスクをす(し)て目じりに皺をよせでいだ。微笑んでいるはずの口元が見えねャ(ない)。座るどぎに少す(し)ばがり目のふず(端)に入ったご婦人方だった。訛りの無い語り口ど、あか抜けだ装いに遠ぐ都会の方がら来たんだべ(だろう)ど思う。
「高橋旅館は何が良いんですか。特長は何ですか」。
一人のご婦人が聞ぐど、知り合ったばかりの同輩だった。
「湯川温泉は初めてだべが?(ですか?)」。
「はい。コロナコロナ騒ぎで、やっと他県移動の制限が無くなりましたものね。旅行会社に行って、湯治場に行きたい、予約したい、遠く離れた山間が良いって言ったら、なんと、受付からコロナ患者の出ていない岩手県の湯治場はどうですかって言われて、思わず、それ良いって言ったんですよ。湯治場は近くの栃木にも群馬にも有るし、私達の住まいから二時間も行けは秩父の方にもその宿が有るのに担当者も話が上手いですね。人をその気にさせるのが。ちょっと驚いたけど三人で話し合って遠出も良いかって、この際、旅行をしてみるかってなって、岩手まで来ちゃった。」
笑いながらマスクのままの口元を抑えだ手の甲はくるぶしを境に色が変わっていだ。手袋で日焼けを防いだのだべげど(だろうけど)、指の節々は勤め人の女性のそれよりも太ぐ見える。少す(し)日に焼げだ小麦色の顔と半袖の腕は手、指の白さを一層引き立ででいだ。
タクス(シ)ーの運転手はこの時間にもう後がら来る客は居ねャ(居ない)と判断す(し)たんだべ(したのだろう)。車の頭を左に切り返すど、まっすぐ走り出す(し)た。俺も隣の席の同輩も前に目を向げだげど、後ろがらご婦人の声が続いだ。
「何だかんだ言っても一都三県、北海道はまだコロナ騒ぎは収まっていないものね。田んぼも終わった、サトイモにサツマイモ、ネギなどの植え付けも終わった、夏野菜は出荷するほど植えていないからもう骨休めも良いだろうって話し合って決めたの。三人とも同じ地区の農家で寄り合いも一緒の仲良しです。朝から晩まで一緒に働いている旦那は、同じ仕事して頑張っているんだもの、少しの間の農閑期は温泉も良いだろって、六十過ぎの私達を文句も言わず送り出してくれましたよ。」
「文句は言わせない。」。
横がらもう一人のご婦人の言葉だ。皆の中に笑いが生ず(じ)だ。
「どっから来たんだべ?」。
前を向いだまま俺が聞いだ。バスは順調に進んでいる。
「埼玉県行田市。大宮に出て北上駅まで東北新幹線なら一本でしょ、北上からローカル線に乗り換えて四十分と説明受けて、良いとなったんですよ、降りるほっとゆだ駅が温泉を併設している駅だって聞いて、なおのこと行って見たいとなったんですよ」。