第一章 夜話 一
一 再会
ホームに降りるど初夏の風が頬を撫でる。空は薄曇りで雨が落ずで(ちて)きそうだ。田や畑には良いべ(良いだろう)。そう思いながら久す(し)ぶりに見る周りはいつもど変わりねャ(ない)。町屋根が少す(し)続いで見えん(る)のど、その後ろに小高い新緑の山が見えるだけだ。乗ってきた横手行ぎの電車はもう見えなぐなった。
いづも来ているのだ。周りを気にせず、木製の狭い改札を通り小さな待合も通り過ぎで表に出だ。駅前は広場と言うほど広くはねャ(ない)。直ぐ左手の葉桜の木の下で待っていだ湯川温泉行ぎ乗り合いタクス(シ)ーにすぐ乗り込んだ。
腕時計を見るど午後二時半を指す(し)ている。いづもの料金箱に表示通り百円玉二個を入れで運転手の背中に奥の湯の高橋旅館と声を投げだ。先客は五人居だ。補助椅子を入れでも七、八人の客す(し)か乗れねャ(ない)マイクロバス型のタクス(シ)ーの中は手荷物を持つ人も居でいつも狭ぐ感ず(じ)る。俺も背中の荷物を膝の上に置いだ。少す(し)重いな。
「何処から来たんだべ(来たのでしょうか)」。
七十は過ぎだべ(だろう)。横に同席す(し)た他人がら声を掛げられだ。白髪の混ず(じ)る鼻髭ど顎鬚は手を入れでいるのだべ(いるのだろう)、整えられでいだ。
「俺も高橋旅館だ」。
俺の返事の前に先に付け加えだ。同ず(じ)歳ぐらいだべ(だろう)。
「一関の大原でがす。摺沢の駅までバスで出で大船渡線で一関。そっ(こ)から本線(東北本線)の在来線で北上を回ってここに来たべ。何時も来てんのがすか?(来てるのですか)」。
「んだ(そうです)。この時期は田も畑も苗っこ((苗を)植えで、一応、一段落だものねャ(ね)。後は少す(し)ばがり贅沢させでもらって、温泉でゆっくり骨休みさせでもらうべ。俺は北上がらだ」。
「俺も骨休めだべ。六十五過ぎでがらここ数年は若い家族に何時もそうさせでもらってる。何時もは女房も来ん(来るん)だけど孫娘の結婚式の準備を手伝って嫁はんと一緒に自分も何がすん(る)んだど。今回は来ねャ(来ない)。良えすね(良いですね)近ぐて。電車でここまで四十分ぐらいのもんだべ」。
不意に二人の肩越す(し)に声がかがった。