「童謡『赤とんぼ』と赤とんぼ論争」
日本書紀や古事記の記述では、日本のことを「おおやまととよあきつしま(大倭豊秋津洲)」といっています。「あきつ」とはトンボの古い呼び名で、「あきつしま」は日本の異名の一つで、トンボの島を意味します。日本神話では、神武天皇が国土を一望してトンボのようだと言ったことが由来とされています。ところで、三木露風作詞・山田耕筰作曲の童謡『赤とんぼ』は、多くの人が知っていることと思います。『夕焼け小焼けの赤とんぼ 負われて見たのはいつの日か 夕焼け小焼けの赤とんぼ とまっているよさおの先』という歌詞のように、日本各地で8月から9月には「赤とんぼ」が数多く見られます。しかし実は、「赤とんぼ」という名前の種のトンボはいないそうです。「赤とんぼ」とは、赤い色やオレンジ色など赤みがかった色のトンボ全てを指す俗称で、狭い意味はトンボ目トンボ科アカネ属に属するトンボの総称、いうトンボのみを指すのだそうそうです。
そこで、この歌の「赤とんぼ」とはどの種なのかという真面目な論争が、長年にわたり行われてきました。というのも、赤とんぼの代表であるアキアカネは夕方にはあまり飛ばないという習性があり、「夕焼け小焼けの赤とんぼ」という歌詞とは矛盾するとの指摘があったためです。夕焼けの中でよく飛ぶギンヤンマなどが夕日を浴びて赤く見えたという説も主張されましたが、一方で、夕焼けが早く訪れる東北などでは、夕焼けの時間帯とアキアカネの群飛が一致し、そのような風景が見られる、という反論もなされ、「やはり赤とんぼの歌のトンボは日本特産種のアキアカネがふさわしいし、きっとそうにちがいない」と論争は終止符を打ったかに見えました。ところが「このトンボはウスバキトンボではないか」という説が浮上しました。三木の故郷の兵庫県龍野など西日本では、アキアカネよりもウスバキトンボが一般的で、秋に群れをなして飛ぶのを見かけるのはウスバキトンボで、西日本ではごく一般的に見かける中型の薄オレンジのトンボで、これも赤とんぼといわれるトンボなのです。しかし、ウスバキトンボは物にとまるときに何かの先端に体を水平にしてとまるのではなく、枝の途中や葉などにお尻を下にしてぶらりとたれさがってとまることが多いため、「止まっているよさおの先」という歌詞と矛盾すると指摘されました。そのほかにも多くの説が出て論争となったのです。この論争は、作詞した「三木露風本人が『赤とんぼ』に関しての回想を発表したことで決着しました。「あるとき、さおの先端に止まっている赤とんぼ(アキアカネ)を見て、子供の頃に夕焼けの中見たトンボが飛んでいる様子を思い出しこの歌を着想した」と三木が回想していることから、さおの先にとまるトンボと、夕焼けに飛ぶトンボが別のイメージの組み合わせであることが明らかになったのです。つまり、「目の前のさおの先に止まるアキアカネをきっかけにして、遠い昔の子供時代に見たウスバキトンボの群舞を思い出し」、歌詞が出来たということです。
さて、最近全国的にトンボが減少しているそうです。そういえばあまり見かけなくなったかもと感じます。トンボの生息環境の変化など様々な原因があるようです。三木露風の出身地の兵庫県たつの市では、いつまでも詩に唄われた赤トンボが飛んでいる原風景が見られるようにと「たつの・赤トンボを増やそう会」が設立され活動しています。また、宮城県の大崎市でも、水田で羽化したアカトンボや屋敷林「居久根」にいるアカトンボなどにマーキングをし、アカトンボがどこに移動してくらしているのか探すイベント「大崎耕土」アカトンボ見っけ隊事業が行われていました。童謡『赤とんぼ』の唄のようにこれからも赤とんぼがいつまでも見られる「あきつしま」日本であってほしいと思います。
- 前ページ
- 次ページ

