選択肢
やりたいと言う
夏輝さんに連絡する
昨日の山田さんとの約束で、事務所に顔を出したんだけど‥‥なかなか来ない。
来ないなんて珍しいな‥と思ってたら、社長と一緒に登場。
「お疲れ様。今日はCMの撮影だったって?」
「はい」
頷くと社長はうれしそうに笑った。
「そうかそうか。‥いやあ、○○ちゃんもいよいよ一流だなあ。まさにうちの看板タレントだ。‥なあ、山田くん?」
「‥‥そうですね」
「いえ‥私なんて、まだまだだと思いますけど‥」
「いやいや、謙遜しなくてもいいよ」
山田さんがちらりとこちらを見て、なぜか口元を緩ませた。
「昨日に比べて元気がいいように思えるが‥‥何かいいことでもあったか?」
夏輝さんに久しぶりに会ったせいだと思われますw
主人公は今朝のことを思い出した。
まだ明けやらぬ空。
主人公はライブ会場に戻るという夏輝さんを見送るために、新幹線のホームへとやってきていた。
発車の時間が近づくごとに少なくなっていく主人公たちの時間。
(このままずっと夜が続けばいいのに‥)
思わずそう思っていると、ぐいっと夏輝さんに抱き寄せられた。
「ごめん、俺のわがままにつき合わせて」
時間が早いため、ホームにはぜんぜん人がいない。
「今日、少しだけど一緒に過ごせてよかった」
「私もうれしかったです。夏輝さんとこうしていられて」
笑顔を浮かべる夏輝さんの瞳の奥は切なげ。
「本当はもっと一緒にいたいけど‥」
(そうだ‥‥また、会えない日が続くんだ‥)
さっきまでのうれしい気持ちが一転し、悲しみが襲ってくる。
「この手を離さなければならないのは辛いけど‥‥でも、近いうちにまた一緒に過ごせるだろうから‥」
「え?」
(ツアーが終わったら、ってこと‥?)
そう思いながら夏輝さんの顔を見ると、彼は主人公の頬に手を添え、おでこに軽く口付けた。
「今、俺からはこれ以上話せないけど‥‥○○ちゃんがいい返事をくれますように」
「それってどういう‥」
聞こうとしたら、新幹線のベルが鳴り響いた。
「あ、じゃあ、また‥‥連絡するね」
慌てて夏輝さんが乗り込むと、ほどなくして扉が閉じる。
窓越しに見える夏輝さんの姿が、少しずつ遠ざかっていく。
(夏輝さん‥)
主人公はキュッと締め付けられる胸を抱えるように、自分を抱きしめた。
まるで、抱きしめられたときの夏輝さんのぬくもりを逃さないように。
(そういえば、あのときの夏輝さんの言ったことって‥なんだったんだろう)
その時、山田さんの声が飛んできた。
「今日、お前を呼んだのはスケジュールの相談があったからだ」
新しい仕事が入ったって言うのに、山田さんの顔は冴えない。
「実は、JAEDサイドから連絡があってね。期間限定で新ユニットを組まないかという打診があったんだ」
「新ユニットって、私と‥JAEDが‥‥ですか?」
「そうだ。○○ちゃんと神堂春の、ツインボーカルらしい」
うわー‥責任重大だぞ、こりゃ;;
「急に持ち上がった話だからいろいろあるんだが‥‥まず、アルバム制作をしなければならない。で、アルバム発売と同時に全国ツアーを行う計画だ」
アルバムの制作期間は半年。
いいものを作れるようにイギリスにあるJAEDの専用スタジオで制作するんだって。
主人公も渡米することになるし、この仕事を請け負ったら、しばらく日本でのほかの仕事ができなくなる。でも、それだけ大きい仕事とも言えるって。
山田さんは最初反対しようと思ってたけど、今の主人公があるのは春さんのおかげといっても過言じゃないし、この企画を通して主人公の集大成が見られるんじゃないかとも思ったらしい。
「お前の返答次第だが‥どうする?」
もちろんやりたいですと言うと、山田さんと社長はうれしそうに目を細めた。
これで夏輝さんと一緒にできるんだ‥とも思ってたら、山田さんが他の仕事を断ってまで引き受けるんだ。仕事だってこと忘れるなと言われてしまう。
(そうだよね、これは仕事なんだから。‥もっとちゃんとまじめに取り組まなくっちゃ‥)
でもひとつ問題が。
まーくん‥一人でお留守番‥orz
とりあえず、家族みんなに相談することに。
家に帰ると、まーくんが笑顔でおかえりって‥‥おかえりって‥
頃合を見て、イギリスで仕事するって言ったらどうする?と聞くと、目を丸くした。
「え‥お姉ちゃんが?」
そして首をかしげる。
「‥どうしてそんなこと聞くの?」
「うん、実はね‥」
事務所で聞いた話を使えると、まーくんの表情がみるみる複雑なものへと変わって行った。
そうだよね‥ただでさえ寂しい思いしてるのに‥‥普通だったらグレちゃうよ、繊細なお年頃だし。
「それって‥どのくらいの期間なの?」
「えっと‥最低、半年はかかるって‥」
その言葉にまーくんはばっと立ち上がった。
「半年も‥?」
なんと言っていいか分からず、まーくんの顔を見つめてると、まーくんの表情が少しゆがんでいく。
「日本じゃダメなの?どうしてもイギリスに行かないといけないの?今までは、JAEDとの仕事も日本でずっとしてたのに‥‥どうして急にそんな‥」
う‥(´□`。)
「まーくん‥」
主人公のつぶやきにまーくんははっとして、ごめん、お姉ちゃんは仕事で行くのに‥って。
まーくん、君はもっと甘えていいと思うよ!
行きたいなら言ってきなよって‥‥泣くよ!?←
「その代わり‥‥約束!後悔しないくらい‥全力でお仕事するって」
「まーくん‥」
「だったら僕も全力で応援するから。‥そして、お姉ちゃんが帰ってくるまで、ちゃんとこの家を守っておくから。だから‥安心して行ってきて」
まーくんがいい子すぎて、ここまでの文章まーくんばっかりだよ‥もう、どうしたら‥
「でも‥いいの?」
その言葉に大きく頷いた。
「うん!だって僕は‥‥お姉ちゃんとJAEDのファンだよ」
彼の笑顔にもうためらいはない。
「うん‥わかった。お姉ちゃん、がんばるね!」
もうバトエン見れないね、これ。←
両親にも承諾をもらって部屋で落ち着いてると、夏輝さんのことが気になって電話してみる。
数コールの後にすぐ出てくれた。
「あ‥今、大丈夫ですか?」
「うん。もうホテルの部屋に戻ってるから。‥どうかしたの?」
新ユニットの件、引き受けることにしたって言うと、携帯越しに彼の笑い声が聞こえてきた。
「そっか‥‥実はさ、今日のリハ‥かなり調子がよかったんだよ。朝まで○○ちゃんと一緒にいられたからかな‥って思ったんだけど‥」
「え‥それは‥」
「新ユニットでずっと一緒にいられたら、毎日が調子いいかも」
冗談めかした言葉に、主人公も思わず顔をほころばせる。
「もう、夏輝さんってば‥お仕事なんですよ?」
そういうと、夏輝さんは少し真剣な声色で返事をした。
「‥ごめん、わかってるよ。でも、○○ちゃんといられるのはやっぱりうれしいし、一緒に曲を作れるのは楽しみだから」
その素直な言葉に主人公の胸も熱くなっていった。
「確かに、それは私も楽しみです」
それから時間が許すまで、電話を続けた。
ふと気がつけばもうかなり遅い時間。
名残惜しいけど、そろそろ切らないと‥ってなっても、主人公も夏輝さんもまだ切りたくないご様子。
「それじゃ、同時に切ろうか」
「え?同時にですか?」
それだったらいいかも‥と声掛けして電話を切ろうとする。
「せえの‥」
ボタンを押す指に力を込めた瞬間。
(やっぱり、切れない‥!)
主人公はボタンを押せなかった。
それでも途切れるはずだった電話はなぜか繋がっている。
(あれ‥?)
「‥‥○○ちゃん?」
「はい」
「電話、切らなかったんだね」
(切らなかったというか‥)
「切れなかったんです」
「俺も。やっぱり俺たちって似てるね」
電話の向こうから聞こえる穏やかな笑い声に、思わず笑ってしまう。
「ふふ、そうですね」
「でも、このままだとずっと切れなさそうだから‥‥俺が切るよ」
そういうと、夏輝さんの声がささやくように告げた。
「おやすみ、○○ちゃん‥‥大好きだよ」
「あ‥」
突然のことに声を上げたときには、電話はもう切れてしまっていた。
(もう‥夏輝さんったらずるい)
夏輝さんの笑顔を思い浮かべながら主人公は携帯を手にごろんと横になる。
そして新ユニットのことを思い、JAEDのファンはどう思うかなとか考えながら意識を手放した。
数日後、バラエティ番組のゲストで局入り。
モモちゃんにメイクしてもらっていても、考えることは新ユニットのこと。
日が経つにつれて、自分で大丈夫だろうかとか不安に思っちゃってるみたい。
それを見透かしたモモちゃんは、「初めての仕事は誰だって不安よ。だけど‥大切なのは気持ち。そんな風に不安がってたら一緒に組むJAEDに失礼だ」って。
「‥春くんが‥JAEDが認めた○○ちゃんなんだから、もっと自信持ちなさい‥ね?」
(そうだよね‥こんなうじうじしてたら、リクエストしてくれたJAEDにも、ファンの人たちにも失礼だよね‥)
そう思い直し、テレビ番組の収録後、正式に新ユニットの件を引き受けると社長たちに進言したのだった。
(‥もちろん不安がないといえば嘘になる。それでも、みんなの期待に応えられるように、もっとがんばりたい‥)
なんか、この主人公の前向きな考え方好きだなーw
今までは何かとうじうじした考え方が多かったのかもしれんがw←