※本作品はフィクションです。登場する人物・団体・企業・名称等はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。
■Side A:桑原智花
先日、学生時代の旧友、大塚みゆきに街でばったり再会した。3年ぶりだった。久しぶりにお茶をしながら、お互いの近況を話し合う。あれこれ話しているうちに、みゆきはあまり変わっていないな…と感じた。
みゆきは細やかで優しい性格だが、周囲に気を使いすぎるところがある。久しぶりの再会でも、こんなことを言っていた。
「LINEってさ、“既読”って出るじゃない? 読んでも忙しくて返事を返す余裕がない時もあるけど、そうすると“既読スルー”とか言われて『無視された』…みたいに思う人がいるんだよね。だから、なるべくすぐ返さなきゃ、と思って…」
LINEひとつでも、相変わらずあれこれ考えている。私は内心呆れながらも言った。
「そんなに気を遣ってたら疲れちゃうんじゃない?」
いちいち細かく考えず、もっと大らかな気持ちで人と接すればいいのに…。みゆきは引っ込み思案で自分の殻に閉じこもりがちなので、少し心配になる。そんなことを思いながら、また会おうと約束し、LINEを交換して別れた。
周囲に気を遣っているという話を聞いたせいか、通りを歩いていくみゆきの後ろ姿は、少々疲れているように見えた。これから、ときどき、声をかけてあげるようにしよう。
■Side B:大塚みゆき
智花と再会した後、ちょくちょくLINEメッセージが届くようになった。でも、自分勝手な独り言みたいな内容ばかり。職場の上司に対する不満や、買い物先で感じた憤り…正直なところ、私にはどうでもいいような愚痴ばかりで、返信するのが面倒だ。それでも「既読」になってしまったら、なんとか言葉をひねり出すか、適当なスタンプを選んで返していた。
少し前から体調が芳しくなかったので「念のため…」と軽い気持ちで、専門医のいる病院を受診した。すると、重病の可能性があると言われ、詳しい検査を受けるため入院することになってしまった。
医師の口調は穏やかだったけれど、どうやら楽観視できないものらしく、告げられる言葉のひとつひとつが、胸の奥に冷たい石のように沈んでいく。予想外のことに動揺したが、早く見つかれば治療できるから…と自分に言い聞かせた。
検査入院の日。にわかに膨らむ不安を抱え、病院の待合室で待っていると、智花からLINEが届いた。またしても愚痴めいた独り言。今は世間話をする気持ちの余裕などない。どう応えればいいやら…。
病気のことは伝えたくないので、適当なスタンプで対応し、入院の間はケータイの電源を切ることにした。検査入院は一泊の予定だ。
翌日、退院してスマホを開くと、智花からのメッセージはどこにも見当たらなかった。ホッとしたが、よく見ると、友だちリストにも名前がない。私とのLINEは解除されたらしい。
しばらくして、別の友人から智花の様子を聞いた。「みゆきがLINEを無視した」と怒っていたそうだ。私が電源を切ったあとも、何度かメッセージを送ってきたようだった。もちろん、どれも急を要することではなかったみたいだけど…。
智花は学生時代から、人の気持ちや事情を確認せず、自己中心的に行動するところがある。悪気があるわけじゃないのはわかっているが、無神経なところは少しも変わっていないな…と思う。
検査入院の結果は無事だったけれど、智花のことを聞いて、私は、なんだか気分がもやもやしてしまった。ふと、彼女と再会した時の言葉が蘇る。
「そんなに気を遣ってたら疲れちゃうんじゃない?」
そして思った。
――あなたみたいな人がいるから疲れるのよ。
*毎週金曜21:00更新
