⋯⋯え。

やめて。

その話題は⋯。

笑顔を作りながらも、胸の中は大焦りです。


佐藤さんは少し照れたように笑って

「たまたまですよ」

と答えます。


すると榎木さんは苦笑いしながら首を振りました。「たまたまじゃないって、俺なんか全然ダメだったもん」

その場にいた全員が笑います。

「いいね送っても返ってこないし、マッチングしても全然続かないし」

「結構送ったんですか?」

山本さんが笑いながら聞くと

「うん、それなりには送ったよ」

榎木さんも笑っています。

「でも、全然ダメ、返信も来なかったりさ」

その何気ない一言に、わたしの胸はザワッとしました。


その"いいね"の中に、わたしもいた。

もちろん、榎木さんはそんなこと知るはずもありません。


マッチングアプリでは、毎日たくさんの女性を見て、たくさん「いいね」を送っていたのかもしれない。

だから、わたしのことなんて覚えていなくて当然です。

そう自分に言い聞かせます。


でも⋯⋯。

もし。

「あれ、この人どこかで⋯」なんて思われたら?

そんな考えばかりが頭をよぎります。


お願い。

思い出さないで。

気付かないで。


グラスを持つ手に、じんわりと汗がにじみました。周りは笑っているのに、わたしだけ心臓の音が聞こえるんじゃないかと思うくらい緊張しています。


それでも榎木さんは、何事もなかったように佐藤さんへ話しかけ続けました。


「佐藤は運が良かったよな、本当にいい人と出会えたじゃん」

そう言って、ちらっとわたしの方を見て笑います。その視線に、一瞬ドキッとしました。


⋯気付いた?

思わず息を止めました。

でも榎木さんはすぐに視線を戻し

「俺もそろそろ彼女ほしいわ」

と笑いながらビールを飲みました。


どうやら、本当に気付いていないようです。

胸をなで下ろした反面、こんな偶然があるんだと、不思議な気持ちにもなっていました。


次回へ続きます。