↑前回のブログはこちらからです。



家へ帰った頃には、もうすっかり夜になっていました。

玄関のドアを閉める音だけが、静かな部屋へ響きます。


「ただいま」

返事が返ってくるはずもない部屋。

いつもと同じ景色なのに、今日はまるで別の場所のように感じました。

バッグをソファへ置いて、そのまま力が抜けるように座り込みます。


頭の中には、一本だけ浮かんだ線。

何度目を閉じても、あの検査薬の判定窓が浮かんできました。


もし、あの時もう一本線が出ていたら。

今日という日は、全然違う一日になっていたんだろうな。

そんなことばかり考えてしまいます。


お風呂へ入る気にもなれず、テレビもつけないまま、ぼんやり天井を見上げていました。


スマホを見ると、検索履歴には相変わらず妊活の文字ばかり。

「妊娠検査薬 陰性 その後陽性」

「フライング検査 陰性 妊娠していた」

「一本線 後から陽性」

昨日まで何度も見ていた画面です。


分かっているんです。

今日使ったのは、きちんと判定できる日に使った検査薬。

もう結果は変わらない。

頭では理解しているのに、心だけが受け入れられませんでした。


気付けば、スマホを握ったまま眠ってしまっていたようです。

翌朝、目覚ましが鳴るより少し早く目が覚めました。


一瞬だけ、昨日のことを忘れていました。

でも次の瞬間。

「あ……」

一本線。

昨日の出来事が一気によみがえります。

胸が重くなりました。


布団から起き上がろうとした、その時です。

違和感がありました。

嫌な予感がして、ゆっくりと立ち上がります。

そのままトイレへ向かいました。


そして

「あ……」

思わず小さな声が漏れます。

生理が始まっていました。


昨日、心のどこかで

「もしかしたら検査が早かっただけかもしれない」そんな小さな小さな希望を捨て切れずにいた自分がいました。

でも、その希望は、静かに確実に終わったんです。


便座へ座ったまま、しばらく動けませんでした。

昨日は泣き疲れて、もう涙なんて出ないと思っていたのに。

気付けば、また涙がこぼれていました。

「やっぱり……」

誰に言うでもなく、小さくつぶやきます。



次回へ続きます。