「こんばんは!
今日は来てくださってありがとうございます」
山本さんの隣には、ご主人と二歳になる息子さんの姿もあります。
「こんばんは
この前はベビー用品店でありがとうございました」ご主人も笑顔で
「またお会いできましたね」
と声を掛けてくださいました。
息子さんもわたしたちを見ると、小さく手を振ってくれます。
「覚えてくれてるのかな?」
そう言うと、山本さんは笑いながら
「どうなんでしょう
でも今日はご機嫌みたいです」
と嬉しそうに話してくれました。
席に着くと、美味しそうな料理が運ばれてきます。仕事の話や休日の過ごし方、息子さんの最近の成長など、話題は尽きません。
山本さん夫婦の自然なやり取りを見ていると、本当に仲の良いご夫婦なんだなと伝わってきて、わたしまで温かい気持ちになりました。
そんな和やかな時間が流れる中、山本さんがスマホを見ながら言います。
「あっ、もう一人来る予定なんですけど、仕事が押しちゃってるみたいです」
「そうなんですね」
「もうすぐ着くと思います」
その時のわたしは、まさかこのあと驚くような偶然が待っているなんて、想像もしていませんでした。
数分後。
「すみません!遅くなりました!」
そう言いながら、一人の男性がお店へ入ってきます。
何気なく顔を上げた、その瞬間でした。
⋯え。
思わず息をのみます。
どこかで見たことのある顔。
記憶をたどった次の瞬間、一気によみがえりました。
マッチングアプリで、以前わたしに「いいね!」を送ってくれた男性。
プロフィールのニックネームは――『裕太』。
本名ではないかもしれません。
実際に会ったことも、やり取りをしたこともありません。
でも、プロフィール写真は何度か見ていたので、顔だけははっきり覚えていました。
まさか⋯。
こんな場所で再会するなんて。
心臓がドクンと大きく鳴ります。
マッチングアプリでいいね、なんてきっとたくさんの女性に送ってるだろうし、きっとわたしのことなんて覚えてないだろう。
覚えていないで⋯。
お願い⋯。
気付かないで。
そう願いながら平静を装っていると、その男性は山本さんたちに「遅れてすみません」と挨拶をして席へ着き、わたしには初対面のように軽く会釈をしました。
その様子を見る限り、どうやら向こうはわたしに気付いていないようです。
ホッと胸をなで下ろした反面、わたしだけが相手を知っているような、不思議な感覚になっていました。
次回へ続きます。
