その日、わたし達は身体を重ねませんでした。
妊活の話をしたから。
子どもの話をしたから。
だから今日すぐにそういう流れになる。
そんな感じは、何だか違う気がしたんです。
佐藤さんも何も言いませんでした。
ただ、いつも通り穏やかに笑って
「今日は来てくれてありがとうございました」
そう言ってくれました。
その一言だけで十分でした。
焦らなくていい。
急がなくていい。
そんな空気が自然と流れていたんです。
帰りは佐藤さんが車で送ってくれました。
「わたしの最寄り駅の駐輪場までで大丈夫です」
そう伝えました。
一時間に満たないくらいの時間です。
車の中でも、今日食べたハンバーグの話をしたり。今度はどこへ行こうかと話したり。
終始、明るい雰囲気でした。
不思議でした。
昔の恋愛は、帰り道になると寂しくなっていました。
「また会えるかな」
「次はいつ連絡が来るかな」
そんな不安ばかりだったんです。
でも今日は違いました。
また会える。
そう自然に思えたんです。
駐輪場へ着くと、佐藤さんは穏やかな笑顔でいいました。
「気を付けて帰ってくださいね」
「今日は本当にありがとうございました」
わたしも笑って手を振ります。
「こちらこそ、ありがとうございました」
車が見えなくなるまで見送ってから、自転車へ向かいました。
家へ着いてしばらくすると、スマホが震えます。
佐藤さんでした。
『今日は来てくれてありがとうございました😊』『すごく楽しかったです』
『また次に会える日を楽しみにしています』
思わず笑顔になります。
わたしもすぐに返信しました。
『わたしも楽しかったです😊』
『ハンバーグ、とても美味しかったです』
『またお願いします😊』
送信すると、胸がじんわり温かくなりました。
こんな穏やかな気持ちになる恋愛もあるんだ。
そう思ったその時でした。
スマホがもう一度震えたんです。
佐藤さんではありません。
画面に表示されていた名前を見て、わたしは思わず固まりました。
Fさん。別れた元彼でした。
どうして今⋯?
次回へ続きます。
今回も読んでくれてありがとうございます。
Fさんは何の用があって今頃連絡してきたのか⋯。
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