(お断り)
今日の記事は関東在住灘積極受験派の方には不快に感じるところもあるかも知れないので、ご留意下さい。
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2 どうしたら灘中受験者を増やせるか?
さて、関東ベースで関西に校舎を持たない塾にとって、灘中合格数を増やすということが合理的な戦略とした場合、塾としてどうすればいいだろう?
もちろん優秀な生徒を集め、それを育てるのが王道である。ただ、関東ベースの塾の場合、指導によって受験生が優秀になっても、ほっておいたら灘中受験者は増えない。なぜなら関東にも多くの進学校がある中で、家から通える進学校ではなく、あえて灘中に入寮させてまで通わせよう、通いたい、と思うのは、何か事情がある場合に限られるからだ。
では塾としてどうすべきか。単に「費用はうちが出しますから、塾の実績向上のため協力してください」といって最優秀層の受験者に声かけをする、というのは一つの方法である。しかし、それだけでは受験者側の動機付けとして弱い。塾側にメリットがあるのは分かるが、受験生側のメリットが乏しいからだ。受験の費用負担だけなら灘中受験しなければそもそも発生しないものだ。
そうすると塾としてはどのような戦略があるだろうか?
それは、「灘中受験には、それでも受験生にとって意義がある」ということを優秀層に広く浸透させることである(洗脳とも言えるかも知れない)。これが浸透すればするほど、「費用は負担しますよ」と言えば受験してくれる優秀層は増加するだろうし、中には塾が費用負担しなくても受験する者も出てくるだろう。
そのための方策としては以下のとおり。
①灘中受験対策が開成・筑駒対策として有効と宣伝する
②算数好きだろ?なら入試最高難度の灘中にチャレンジするべきじゃないか?と煽る
③三冠こそ中学受験最高の栄誉だ。男なら『三冠』とってこい!と煽る
④保護者に対し、優秀な息子さんなら三冠とれますよ、これは凄いことですよ、と煽る
⑤もし不合格でも本命校入試に向けて良い経験になりますよ、とデメリットのないことを強調する
⑥その気になりそうな優秀者に対しては、「費用はこちらが出しますよ」といって背中を押す
以上は塾の立場から見ると合理的な戦略である。①~⑤は目に見えるようなコストもかからないし、⑥も1人あたり10〜15万円くらいだろうか。50人でも500〜750万円、付き添いだとかもろもろの費用入れて600〜900万円と考えても、広告宣伝費の一部と思えば大した金額ではない(ちなみに某塾の有報を見ると、昨年の広告宣伝費は約14億円。600〜900万円で灘の実績が増加できるなら安いものだ)。
とにかく保護者会、個人面談、普段の授業など、事ある毎に①~⑤の内容を繰り返して「灘中受験の意義」を浸透させていくことが重要なのだ。⑥の費用負担は最後の一押しである。
3 批判的立場から
塾側の何とかして灘中受験生を増やそうという戦略について、批判的な立場から今一度考えてみよう。
①はまあその通りだとは思う。しかし、先日の記事にも書いたように、実際に受験しなくてもよいはずだ。灘中過去問や灘中対策プリントをやればいいのである。
②③は受験生への煽りである。確かに「受験生をその気にさせて、勉強を頑張らせる」というのは塾の重要な機能だと思うし、煽り文句の全てがよくないというつもりはない。実際その気になって成績が伸びる子も多々いるだろう。しかし、それは受験生の負担になる灘中受験に向かわせなくてもできるのではないだろうか。「絶対開成行くぞ!」や「筑駒目指せ!」ではだめなのだろうか。
④は保護者への煽りである。受験生だけその気になっても、保護者がついてこなければ意味がない。当然保護者にもその気になってもらう必要がある。なお、稀な例かも知れないが、受験生本人がさほどその気になっていないのに、保護者が先走って塾に煽られてその気になる、というのが一番よくないと思う。子供の意に沿うものではない負担を強いることになることになりかねない(子供はそれを親には見せないだろうが)。保護者として安易に塾の煽りに乗せられないよう注意したい。
⑤は、灘中に合格すればまだしも、不合格だったら本命校の受験に悪影響があるのではないか、と危惧する保護者に対するものである。これに対しては、例えば不合格者を含めた灘中受験者の開成・筑駒合格率などを出して、それが一般の合格率(つまり開成なら約33%、筑駒なら約20%)よりも高いことを示しつつ、「(たとえ不合格でも)そもそも受験することに意義がある」などと説明することが考えられる(実際にそのような説明があるかは知らないが)。
しかし、数字の意味をよく検証する必要がある。そもそも関東から灘中受験をする時点で、開成・筑駒の一般の受験者よりも母集団は優秀層に絞られている可能性が高い。なぜなら開成・筑駒合格があぶないレベルの受験者は、普通に考えて灘中受験どころではないからだ。であれば、灘中が不合格だったからといって、開成・筑駒に合格する割合が一般受験者より高いのも当然である。灘中の受験経験が(不合格でも)プラスに作用したという理由付けとしては説得力を欠くことになる。
数字は雄弁なので、説得力を持つように見えてしまうことがある。数字上の根拠についてはきちんと検証して鵜呑みにしない態度が必要だ。
ちなみに本当に「灘中は受験するだけで意味がある」と説得的に数字で示すならば、模試の平均偏差値が同等の受験生集団について、灘中受験者と非受験者のそれぞれの開成・筑駒の合格率を発表してくれればいいのだ。それで前者の開成・筑駒の合格率が有意に上回っているのであれば、確かに灘中は受験するだけでも意味がある、という主張の説得力は増すというものだ(ただその場合も擬似相関の可能性は否めないが)。
また、先日も書いたが、本命校の入試の2週間前に、2日間に亘る旅行を伴う入試を受験させることにはコストもリスクもあるということに注意したい。
⑥は保護者を灘中受験に踏み切らせる仕上げである。①から⑤を繰り返して「灘中受験の意義」について浸透させた後に、「費用は出しますから受験しましょう」は効果が高い。費用を出す=特待生的扱い、ということで、特別に選ばれた感も出るし、タダなら受験するか、となりやすい。
しかし、上記のとおり、経済的にはタダでも、それ以外のコスト・負担にも思いを巡らせるべきである。
4 それでも受験を決意する場合
実際に使用してお勧めできる参考書・問題集