花門前先生の声を聞きながら、よねはフラフラッと立ち上がった。何だか目の前がクラクラする。
自分はしっかり立っているつもりだが、周りの景色が少しづつグルグルと回っているのを感じる。
よねの身に何かが起き始めている前兆か…?
それでも、よねはいつもの列の順番まで足を運んだ。すると、自分だけほんの少し頭が前後の人より出ているのに気がついた。
「あら、よねちゃん! 背が伸びたんじゃない。だったらもっと後ろよ」
小野沢貴美(きみ)にそう言われ、みんなの背と比べながらよねは3人ほど後ろにずれた。以前盲腸で入院したことがある真家(まいえ)の前だった。
そして、男子の列を見るとなんと闘馬が横にいるではないか。
「あれ? おんなじになっちゃったね。といってもまだ俺の方が少しは高いよ」
闘馬は小さく笑った。
よねもはにかみながら笑い返したが、背が高くなるのはそんなに嬉しいことではなかった。ふみとサチとも5人以上離れてしまった。それに、まだ頭がフラフラするし。
目を開いていると、景色が回ってくる。それじゃあと目をつぶれば、自分の体がグルグル回っているように感じられた。
下駄箱で運動靴に履き替えるため、列が動き出すのにしばらく時間が掛かった。それを見計らうかのように闘馬がよねに話しかけてきた。
「それにしても、山村さん残念だったろうね……」
「えっ、何が?」
よねは何のことかわからず、少しズキズキとしてきた頭を右手で押さえながら聞き返した。
「だって、さっき先生が言ってただろう。音羽先生は所属事務所の都合で今日の就任式には欠席だって」
(あっ、そうか! 私、さっき先生のブレザー姿や自分の洋服のことを考えていたからボーッとして、うっかり聞き逃しちゃったんだ)
「山村さん、この間の映写機屋さんで食い入るように木箱の中を覗きこんでいたからなぁ。それに、霊媒学の先生も休みだなんて、まったくどうしたんだろうね」
闘馬の話を聞きながら(えぇ? 霊媒学の先生も来ないなんて……。私そんなことまで聞き逃してたの? ボーッとしてたのは、ほんの一瞬と思っていたけど……)よねがそう思った瞬間だった。
よねはよろけて闘馬にドッと寄り掛かってしまった。
「おい、どうした? 大丈夫か!」
慌てたのは闘馬だ。すぐによねを支えながら、立ち止まった。周りのみんなも歩くのをやめた。一瞬にして列がフワッと膨らむ。
後ろにいる真家が「すぐに先生、呼んでくるね」と言って駆け出しかけたが、運良く養護の太田先生が列のそばにいたのですぐに来てくれた。
「どうしたの? 土志田さん、頭が痛いの? ……大丈夫?」
太田先生はよねを抱きかかえるようにして列から連れ出した。みんなの視線がよねと太田先生に集中している。
「ほらほら、みんな! 土志田さんは大丈夫だから、列を崩さないように先へ進みなさい」
太田先生の指示で、みんなは取り合えずそのまま校庭へと向かった。
心配そうな顔をしながら振り返り振り返りよねを見ているふみとサチ、闘馬と聡の顔がだんだんと小さく遠ざかっていくのが、よねにはおぼろげながら見えているだけだ。
何人もの生徒が中庭の端に太田先生と座り込んでいるよねをチラッ、チラッと横目で見ながら通り過ぎて行った。よねはそんなことは気にせず、校庭から吹くやさしい春の風を心地良く受けていた。
「もう大丈夫そうね」
太田先生は、よねの顔色を見ながらそう呟き、そっとおでこに手を当てた。
先生の手の平がヒンヤリとしていてよねにはとても心地良い。
「熱もないし、頭痛でもなさそうだし……。土志田さん、あなたもしかして酔ったんじゃない?」
「えっ? 私お酒なんて飲んでません」
よねは慌てて左右に手を振った。しかし、まだ少し気持ちは悪かった。
「ううん、そうじゃないの……。何て言うのかしら。機関車や船に乗るとね、揺られたりして気分がとても悪くなるのよ。先生はいつもそうなのよ。だから、わかるのよ。土志田さんが乗り物酔いの症状に似ているっていうのが……」
よねは、機関車にはそんなに長い時間乗ったことがなかったし、まして船には一度も乗ったことがない。だから、乗り物酔いという言葉自体知らなかったので首を傾げるしかなかった。
ワカバのよもやま話コーナー
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(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)