「何っ? するってぇと、おめえは今までハルのことをずっと捜してたって言うのかい?」
米寿は頷いた。
その途端、惣八の力が少しづつ萎えていくのを辰五郎は感じた。
「ほら、ごらんなさい。親方の勘違いですよ。この米寿さんが親方に向かって恩を仇で返すようなことをするわけがないじゃないですか」
しかし、惣八は辰五郎の言葉が耳に入らないように「じゃあ、聞くが……、おめえは例の件はもう一切関わってねえんだな?」と、米寿を再び問いただした。
米寿はこっくりと頷いた。
それを聞いて、惣八はヘナヘナっとその場に座り込んでしまった。
よねは地面に座り込んでいる惣八をチラッと見ながら「ねぇ、お父さん。例の件って何?」と小声で聞いた。
辰五郎は「いや、わからんなあ」と腕を組んでいる。
米寿は座りこんだ惣八の肩に腕を回し立たせながら言った。
「親分、申し訳ありやせん。自分が挨拶にも伺わず、勝手に捜し回ってたばっかりに、変な疑いを親分に抱かせちまって……。今日からは、一緒に捜しやしょう。自分も、一人で見つけようなんて功を焦らず、親分と一緒に捜しやす。それがご恩返しだと今やっとでわかりやした」
米寿の言葉を受けた惣八は顔面蒼白になりながら「いや、……米寿、申し訳ない。……お前にとんだ恥を掻かせちまった」と突然、米寿に向かって深々と頭を下げた。
そんな惣八の姿に慌てたのは米寿だ。
「親分! 親分がそんな姿を……! もったいない!」
米寿は急いで、惣八の二つに折れた体を起こしに掛かった。
急に惣八は辰五郎の方に顔を向けた。
「辰五郎さん、とんだ所をお目にかけちまって……。面目ねぇ……。どうやら大分ボケちまったようだ……。こいつにひどいことを言っちまって……」
そう言う惣八に向かって、米寿はほんの少しうな垂れながらも、とんでもないという風に頭を横に振った。
「およね坊、ごめんよ。おじさんの変なところを見せちゃったなぁ。せっかくお荒神様に来たのに……」
よねも頭を横に振りながら、それでも喋り方がいつもの惣八に戻っていたのでホッとした笑顔を見せた。
その後惣八は、米寿のあまりにみすぼらしい格好に、私の家に来て風呂に入って飯を食え、と言いながら歩き出した。
米寿も辰五郎に会釈をしながら、惣八の後ろについて行く。それにしてもいい加減「親分」と呼ぶのはやめておくれ、と言っている声が微かによねの耳に聞こえ、そして二人は人の波の中へと消えて行った。
よねは辰五郎を見上げながら、聞いた。
「お父さん、米寿さんって惣八おじさんのお友達?」
「ああ、そうだよ。惣八さんが親分をやっていた頃の『手嶋七人衆』と呼ばれる子分の内の一人だ。……それにしても、ずいぶんやつれていたなあ。あれじゃあ、人さらいなんてできるわけがないさ」
よねは、もう一つ気になっていることがあったので、口を開いた。
「さっき、おじさんが米寿さんのことを『名前の通り、鬼のような……』って言ってたけど……」
「米寿さんはな、鬼田米寿というんだよ。鬼という字に田んぼの田と書いて、キダだ。だから子供の頃は、鬼だ、鬼だ、鬼が来た!と言ってよくいじめられたと言ってたなぁ」
そんな話を聞いたら、よねは米寿が何だかかわいそうになってきた。子供の目から見てもみすぼらしい格好をしているし、人さらいには間違えられるし……。
ちょっと感傷的になってるよねに向かってふみの大声が……。
「ちょっと、よねちゃーん! もうすぐ順番来ちゃうわよー! 早く来ないと知らないわよ!」
よねは急いで顔を上げて「今行くー!」と一目散にみんなの列に向かい駆け出した。
空は青くどこまでも澄み渡っている。まるで何事もなかったかのように、ただ静かに……。
そして、辛い思いを掻き消せとばかりに、海雲寺の桜が4人のいた場所にハラハラと舞っていた。
ワカバのよもやま話コーナー
(78)
映画が好きなワカバは、ちょっとした時間を見つけて観に行くんだけど…
この頃、大事なところで寝ちゃう〜
菅田将暉くん好きだから、観に行ったけど〜
トリックを暴く大事なシーンで目がトロ〜ンとしちゃうんだよねぇ
特に友達と行くと、後で教えてもらえばいいかぁ…なんて…考えてないよ〜
でも、結局そうなっちゃうんだよねぇ
つまらないから寝るんじゃないからねぇー
菅田くん、ごめんねぇ🙏
この映画も良かったわぁ
福原遥さん、好きだから余計に感動したぁ
ここまでは、昨年の9月〜12月に観た映画ね
次週は、2024年になって見た映画をご紹介しますね〜🎬
※ 一部 SNS よりお借りした画像があります。
「およねさん」
今回の主な登場人物…
土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。
土志田 辰五郎 (たつごろう)… よねの父親。下駄屋を営む。よねの小学校の風紀委員。
手嶋(てじま)惣八(そうはち)…よねの家の裏手で材木屋を営む元やくざの親分。昔、手嶋七人衆を抱えていた。この物語の鍵を握る。
鬼田(きだ)米寿(よねじゅ)…手嶋七人衆の一人。定職を持たず、いつもら薄汚れた格好をしている。
(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)