海雲寺境内が近づくとともに、人通りも一層激しくなってきた。
御札や御宮を風呂敷にくくって首から提げ、帰りを急ぐ人々の数も増えてきたようだ。そしてもう一つ、出店の種類も遊技場へと変わってくる。
射的に輪投げ、的(まと)当てといった店が何軒も並んできた。中でもひときわ大勢のお客を集めていたのは、映写機屋だった。
これは小さな木箱の真ん中に眼鏡のような形をした穴が開いていて、そこを覗き込むといろいろな無声映画が約1分間観ることができた。
料金は4銭。木箱は全部で7個置いてあり、普通の屋台が三軒並ぶほどの場所をとっていた。
それにしてもどの木箱も長蛇の列だ。お爺さんとお婆さんが二人でやっているが、あまりの人気ぶりにてんてこ舞いの様子だ。
そんな状態を眺めていたサチの目が突然輝きだした。
「ねぇ、見て、あそこ! あの垂れ幕!」
「うーん、風でなびいてよく見えない。……えーと、音羽……?」
よねが伸び上がって読み出した。
「そうよ! 音羽よ、音羽っ! 音羽時次郎の無声映画をやってるのよ!」サチが今にも走り出しそうな勢いで叫んだ。
「きっと時次郎が出演した里見八犬伝と弁慶の名場面を見せてくれてるのよ。あぁ、見たいわぁ」
「さっきから何のわがままも言わず、ずっと歩いてきたから……。よし、それじゃあ、みんなで見ることにするか」
辰五郎がそうひとこと言うと、サチは飛び上がって喜んだ。
(まったく……。いつだかは音羽先生のことをまるで人さらいの犯人扱いしてたのに、今日はこんなに舞い上がっちゃうし……。一体頭の中、どうなっちゃってるのかしら?)
よねは何だかおかしくなった。ふみもよねを見ながら、やれやれという仕草をしている。
「えーっ!俺は射的がやりてえなぁ……」
聡が大きな頬っぺたを膨らませてそう言った。
すると闘馬も「俺は輪投げが得意なんだぜ。なあ、ミチ!」と背中におぶった美千子にウインクした。
「よしよし、それじゃあ、これを見たら射的と輪投げをやりに行こう。今日は、みんなバラバラにならないで一緒に行動をしなくてはな」
辰五郎は笑いながら振り返って二人に話しかけた。二人が返事をするのを確認して、辰五郎たち九人は列の最後尾に並んだ。
しかしここからでは、20分は並ばなくてはいけないのではないか……。よねはそう思いつつ、空を見上げた。
海雲寺の境内はすぐそこだ。門前に咲く大きな桜の木からチラチラと何枚かの桜の花びらが舞っている。
よねは花びらの行方を目で追っているうちに、桜の幹の陰で隠れるように身を潜めている惣八を見つけた。
「お父さん、惣八おじさんがあそこに……」
辰五郎もよねの声で気づいたらしく、小首を傾げながら「うん……、何をやっているのかな」とよねに言うでもなく呟いた。
惣八は二人から10㍍ほど離れた場所にいる。境内に出たり入ったりする人の波に、惣八の姿が見え隠れしていたので、声を掛けたくても掛けられない状況だ。
すると、突然惣八が人を掻き分けて表通りに飛び出し、こちらに向かってやってくる。
ものすごく恐い形相で……!
よねは惣八のあんなに恐い顔を見たことがなかった。列に並んだまま、体が固まってしまった。
惣八は目の前のよねと辰五郎に気づきもせず、いきなり二人の斜め前にいる男の人の襟首を掴み叫んだ。
「この野郎!とうとう見つけたぞっ!」
あまりの大声に、行き交う人々の視線が惣八とその男に集中した。よねと辰五郎はもちろんのこと、闘馬も聡もふみもサチも、そして麻美も……まだ幼い幸司と美千子もみんなの目が一点に集まった。
惣八はその男の胸ぐらを掴んだまま、わけのわからないことを叫んでいる。
男は、40代半ば位。背丈は惣八とそんなに変わらなく小柄だったが、その姿はお世辞にもきれいとは言えなかった。
ざんばら髪に土色の顔、落ち窪んだ目にこけた頬。色の判別ができないほど薄汚れたよれよれのコートを羽織っている。
その男は、惣八の剣幕に驚いているのか、両手をダランと下げたまま、身動き一つできないでいた。
すると、辰五郎が口を開いた。
「あれは、米寿(よねじゅ)さんじゃないか!」
そう言ったかと思うと、すぐに二人の所にとんで行った。
「惣八さん、一体どうしたっていうんですか? こんな人通りの多いところで……。さぁさぁ、ちょっと落ち着いて……」そう言いながら二人の間に割って入った。
「おお、辰五郎さん……! ちょっと余計なことはしないでくれ! 俺はこいつに話があるんだ!」
ワカバのよもやま話コーナー
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今回ご紹介する100歳さんは〜
なんと、ご夫婦で100歳さんだよ〜
100歳さんのルーティン…
とても、お元気な100歳さん
奥様のトミ子さんは足腰丈夫〜
お二人とも、仕事ひとすじ〜
自転車で病院へ〜(オドロキ)
ナニ、ナニ この数値〜
ご主人の武さんも歩くの大好き〜
戦闘機のパイロットになりたかった武さん…
戦地は、何と戦死率96%の硫黄島
母の存在は大きいのね〜
お母さんが守ってくれたのね
武さんのような志願兵以外にも、赤紙一枚で戦地へ行かされる人達…
武さんが帰国出来たから、生まれた家族の輪
戦地の貴重な体験談…
お母さんが出て来て助けてくれた…
100歳さんの人生最高の日って…
ちゃんとまとめる、100歳さん…
今は銀行振込だけど、昔は給料手渡し…
100歳さんは、今回で終わりだよ〜
皆さん(ワカバも含め)、100歳さん目指して頑張りましょう〜٩( •̀ω•́ )ﻭ
※ 一部 SNS よりお借りした画像があります。
「およねさん」
今回の主な登場人物…
土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。
手嶋(てじま)惣八(そうはち)…よねの家の裏手で材木屋を営む元やくざの親分。昔、手嶋七人衆を抱えていた。この物語の鍵を握る。
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