「おーっ、つい長居をしてまったのォ」
老婆はそう言ってよねの小さな手の平に10円札1枚をのせた。※1
「釣りは、いらねぇがらな。オラのくだらねぇおしゃべりにつぎ合ってくれた駄賃にとっとげよ」
よねは驚いた。この下駄は8円70銭だったが、当時こんなにチップをくれる人などいなかったし、こんな汚い格好をしているお婆さんが10円札を持っていることにも驚いた。
当時は、10銭スタンドといって洋酒をコップ1杯10銭で飲ませてくれる店ができるほど景気が悪かった。
因みによねの大好きだった江崎商店(現・江崎グリコ)のビスコも1箱10銭だった。
「こんなに……困ります」
当惑するよねに向かい、老婆は「困ることはねぇべよ。金はいくらあってもいいべ。ただし、使い方ば間違えんなよ」と言った。
そして、いつの間に入れたのだろう。履いて来た草履を、やはりどこから出したのかわからなかったが、藍色の薄汚れた巾着袋にしまい、いま買ったばかりの下駄を履いて店を出て行った。
すると裏から、茶々丸が店の横を抜けて飛んできた。老婆の着物の裾の匂いを「クンクン」と嗅いでいる。
「チャチャ!失礼なことしちゃダメ!」
そう言うよねに、いいからいいからとでもいうように老婆は首を振ってそのまま屈み(……といっても腰が曲がっているので、すでに屈んだ格好になっているが)持っている杖の方で茶々丸の頭を軽く撫でた。
「クゥーン、クゥーン……」
茶々丸は丸い尻尾を思いっきり振って、店の前をグルグル回りながら、老婆を見送った。茶々丸がこんな素振りを見せるのは初めてだった。
よねは慌てて表に出て、「ありがとうございました!」と大声で頭を下げた。
老婆はそんなよねの姿を振り向いて見ようともせず、ただ草履をぶら下げた巾着袋を少し上にかざしてユラユラと振りながら、ゆっくりゆっくり歩いて行った。
まもなく、下駄の「カランカランッ」という音と「カツンカツンッ」と杖を突く音が遠ざかって行った。
よねが「フーッ」とため息を一つ漏らして店の中に入ると、健司がダンボールを抱えて、裏から戻ってきた。
「あっ、にいさん、今頃ー! もっと早く戻ってきてよ」
「何だよ、よね、やぶからぼうに……」
「だって、いまお客さん来てたのよ」
「それなら、正司兄さんが……って頼むほうが無理か」正司の方を見ながら、健司が苦笑いした。
「でもね、すごいのよ。ほらこんなに……」
そう言ってよねは、ポケットに入れた10円札1枚を取り出して健司に見せた。
「えっ、どうしたんだよ、こんなにたくさん! 一体何点売れたんだ?」
「あそこに掛かっていた桐の下駄一点よ」
よねは、向こうの棚を指差した。
「あっ、こいつ、値段間違えたな。おまえ、あれは10円もしないぞ」
「ちがうわ、間違えてないわ。8円70銭なのに、後はチップだってくれたのよ」
よねは間違えたと言われ、心外だという顔をして頬っぺたを膨らませた。
「へぇー、そんなにチップをくれる人がいるんだ。見たことある人かい?」
よねは首を振った。その通りはじめて見るお婆さんだった。
健司からどんな人だったと聞かれ、大体の特徴を言うと「そのお婆さんなら知ってるぞ!」と言うではないか。
「たまに寺町とかあっちこっちの神社で見かけるんだよ。何だかきったない婆さんでさ、お乞食さんかと思ってたよ」
※1 お詫びと訂正… 「およねさん/虹の迷宮 第14章「謎の老婆」④」で、最後の文章に〈老婆は……1円札を3枚のせた〉としましたが、当時のお金の価値を間違えていたことに気づきました。あらためて、今回〈老婆は……10円札を1枚のせた〉に訂正すると共に、お詫び申し上げます。
ワカバのよもやま話コーナー
(67)
深大寺に行って来ましたぁ
手を清めてしっかりお参りしてきました
おみくじのネット解説をお借りしましたぁ…
我が国の「おみくじ」の創始者は、元三大師さまです。
(中略)
深大寺の「おみくじ」は古来のままなので、凶が多いことで有名です。しかし「凶」は「吉」に好転する力を秘めています。
日本屈指の元三大師寺院である深大寺で「おみくじ」を引くことは、まことに意味があるのです。
との事なので、ワカバは社会人になって初めておみくじを引きましたぁ
謂れの通り「凶」よ出ろと引きましたが…「吉」でしたぁ
鬼太郎茶屋…
早速、大好きなガチャガチャをやったら…
鬼太郎が出ましたぁ
さて、ここで問題です。鬼太郎はなぜバンザイをしてるのでしょう
ヒントは…何かをのせるためです〜答えは、最後に〜
おぉ 鬼太郎とねずみ男…
茶屋の横にたくさんの妖怪がいました
硝子に彫った貴重な1枚だそうです
さっきの答えは、鉛筆置きでしたぁ
ちゃんと立ってるんですよ〜
ミッキーと鬼太郎
バランスとるのが、難しいけどねぇ…笑
第14章「謎の老婆」⑥ へつづく
※ SNS からお借りした画像があります
「およねさん」
今回の主な登場人物…
土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。
謎の老婆…そのまま、謎の老婆です。
土志田 健司(けんじ) …土志田家三男。17歳。お喋りでオッチョコチョイだが憎めない存在。
(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)