ハルの母親はこう言っているのだ。
「阿部先生は、他にもう一人と一緒だった」と……。
警察は、この点について黙秘を続けるエロ河童を徹底的に尋問したそうだ。
「エロ河童と一緒にいた奴って誰だったんだろう?」
健司が正司に小声で聞いたが、正司は人差し指を自分の口元にあて、お父さんの話を聞け!と目で合図するだけだった。
すると、今度はあさが「へぇー、やけにエロ……っじゃなくって、阿部先生、素直に答えてるわね」と独り言のようにつぶやいた。
あさは以前、エロ河童とやりあったことがあるので、素直すぎるエロ河童に人一倍不審を抱いたのかもしれない。
当時の警察官は、威張っていてとても威圧的だった。
「おい!」とか「こら!」などと言って市民を呼び止めるのは当たり前。
しかし、このような権力を振りかざす言い方はやめよう、と大正2年(1913年)に改められ、それから18年が経過してはいたが、長年の習慣はそう簡単には抜けなかった。
特に取り調べの時には、どんな乱暴な言葉が飛び交っていたか、はかり知れなかっただろう。
エロ河童も相当厳しい尋問を受けたことは想像に難くない。
エロ河童は、誰かが一緒だったことを認めはしたものの、今度はそれが誰であるか口を割ろうとはしなかったと言う。その人物に迷惑がかかると言って黙り込んでしまった。
エロ河童は一睡もさせてもらえず取り調べられた。そして、やっとでその連れの名前を口にしたのが今日の明け方。
「阿部先生と一緒にいた人物、それは……とても今この場では言えない」と辰五郎は言った。
しかし、その人物は社会的にも信用のおける人なので、警察はすぐにその人物のところへ事情を聞きに行った。
そして、ハルとエロ河童が別れた後、その人物と二人で少し離れた二葉〈ふたば〉町の蕎麦屋で一杯飲んでいたと裏が取れ、蕎麦屋の主人も確かに二人が酒を飲んでいたというアリバイを実証した。
その時間は、ハルが行方不明になった時間と一致するため、エロ河童の無罪は証明されたのだ。
「玉秀校長は、阿部先生の無罪をずっと信じておられたよ。警察署にいる時もこれは何かの間違いだ、と私たちにずっと語っていた。だから、阿部先生が今回の事件とは何も関係がなかった、と知らされた時の校長の喜びようといったらなかったよ」
辰五郎はその時の光景を思い出すように、少し笑みをこぼした。
「でも、お父さん。阿部先生は自分が以前、不祥事を犯したことがあるとよく正直に喋りましたねぇ」
いつもならば辰五郎が話している時に絶対に口を挟まないきせが呟く。
「そう思うのも無理はない……。あとで警察の人に聞いたんだが、阿部先生は最初、何を聞かれても黙秘を通していたそうだ。しかし、玉秀校長が来たことを取調官から告げられると急に話を始めたと言うんだ。きっと、これ以上、校長に迷惑を掛けられないと思ったんだろう」
(だが、取調官に喋ったという内容は警察から出てきたエロ河童に、校長や辰五郎が直接聞いたものなので、警察の調書通りでない可能性もある。真実か虚偽かは不明だ)
一晩中続いた取り調べで疲れ切ったエロ河童を帰宅させた後、校長、教頭、有田さん、辰五郎はその足で朝美台小に向かったそうだ。
すべての先生を集めての職員会議では、校長から今回の事件の説明と今後の対応、エロ河童が重要参考人となってしまった件、それに対する処置などが話されたという。
まず、現時点での警察の発表では、ハルがいなくなった経緯と、世田谷で発生した5件の人さらい事件のケースが一致していること。
いずれも商店街、もしくは公園など人通りの多い場所で発生しており、いまだにその手口がわかっておらず、さらわれた子供たちは依然行方不明だそうだ。
よって、警察は今回の事件を「大井町少女失踪事件」として世田谷の警察と連携して、今後の捜索を続行すると今朝決定したそうだ。
また、朝美台尋常小学校を始め、城北尋常小学校、大井町尋常小学校などこの近辺の六つの学校の校長が集まり、今後の対応、休校とする日数、保護者会の日、今後の授業について話し合いが行われる。
今、この時間にもその会議が始まっている筈だ、と辰五郎は柱時計を見ながら言った。
そして、阿部先生については、今回の人さらい事件には一切無関係であることが証明された。しかし、少女をつけ回すという行為は、教師にあるまじきことであり、よって一ヶ月の自宅謹慎が言い渡された。
以上のことを、辰五郎はお茶も飲まずに30分間しゃべり続けたのだった。
ワカバのよもやま話コーナー
(53)
《フィッシング詐欺》
先日、結婚したお友達と彼…というかご主人とワカバと3人で会うことになったの。
でも、予定の時間を過ぎても来ないし、連絡もないし〜
車で来るから途中で何かあったかと心配してたら、来たのはお友達だけ…
「あれ 彼は…
」って聞いたら、フィッシング詐欺にやられたらしくて、口座からお金が引き落とされて…って言うの〜
「えぇ で、被害額は…
」
「わからない…私たち、給料振り込み、別の銀行にしてるから…」
ムムム…一体どんな手口を使ったのかしら…
「ごめん だから、ワカバに連絡する余裕もなくて、彼を警察署に降ろして私だけ来た…」って
あぁ、騙されたお金は戻って来ないわよねぇ
こういう時に「クロサギ」の平野紫耀くんがいてくれたら…
あとでわかったんだけど、彼がネットバンキングで本人確認登録をしている時に「口座番号は」みたいな、メールが来たんですって。
間が悪かったのねぇ 彼はネットバンキングのメールと思い込んで、そのまま打ち込みを続けてしまい…
ワカバは前夜、NHKで放送された木村文乃さん主演の「サギデカ」の録画を見てたの〜。
何だか、彼が騙された時間と一致してドキッとしたわ
皆さまも……気をつけていても、タイミングが悪い時もあるので、より慎重にいきましょう
今日はお約束のワカバのAI 公開だわさ
さあさあさあ、見て驚け
(おまえ、上から目線でもの言う立場か?)
どうか、ご覧になってください
お母さまに言われたの…
「ワカバは正面より、後ろが綺麗よね〜」って
だから、後ろ姿の写真が何枚もあるぅ
これでは皆さま納得されないと思うから、男になったイケメン・ワカバをご覧くだされ〜
なんか、ちょっと胸が…
あっ タトゥーがバレたわ
いえいえ、タトゥーはありません
これはAI が何かの影を感知したのかも…
第11章「新しい家族」③ へつづく
※ SNS からお借りした画像があります
「およねさん」
今回の主な登場人物…
土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。
土志田 辰五郎 (たつごろう)… よねの父親。下駄屋を営む。よねの小学校に風紀委員。
土志田 きせ …よねの母親。土志田家を陰になり日向になり支え続ける。
阿部 定九郎(さだくろう)… 問題を起こしたことがある図画の先生。通称・エロ河童。
(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)