「でも、先生は坂口君の体操着を見て、何か気持ちに変化が起こったことは確かのようね」
サチがそう一言洩らした後、しばらく沈黙が流れた。
そんな静寂を一番嫌う聡が、伸びをしながら口を開いた。
「でもよ、アルドボールを俺たちは5年生から習うのに、闘馬がいた横浜じゃあ4年生の時にもう習ってたのか?」
「うん、俺は小学校に入った時から、やってたよ。なにせ、アルドボールは、横浜が発祥の地だからね」
「ええっ! そうだったんだ!」
みんなはまた、顔を見合わせた。
「何だか、坂口君は私たちの知らないことをいろいろと知っているようね」
サチが不思議そうな顔をして闘馬を見た。
「でもよぉ、もっといろいろ聞きたいけどよぉ。あんまり、ここにいたら先生に怒られるよなぁ」
聡が残念そうな顔をしている。
「あと10分くらいだったらきっと平気よ。私も何だか、いろいろ聞いてみたくなったし……。先生がいらしたら、取り繕うから」
よねがみんなに目配せした。
「そうよ、そうよ、そうしましょうよ。……はい、では、坂口君に何か質問がある人!」
「何だよ、ふみ! おまえが仕切るのかよ!」聡の笑顔はちょっと可愛い。
そんな二人の会話を無視するように「それじゃあ、私から聞かせてもらうわ」とサチが口火を切った。
「その体操着の説明をしてくれる?」
「ああ、これかい? これは、実は学校の体操着じゃなくて、横浜にいた時に入っていた『アルドボール・キッズ・倶楽部』のユニフォームなんだ。ところで、みんなはアルドボールのルールに詳しいの?」
4人は、再び首を振った。
「じゃあ、ボールを投げて相手にぶつけるのは、ドッジボールと似ているけど、キックをして相手にぶつけて、ダメージを与えるというのは知ってる?」
4人は顔を見合わせて、再び首を振った。
「それじゃあ、アルドボールを相手のゴールに入れれば、高得点になるというのは……?」
闘馬は矢継ぎ早に聞いた。
聡が「アルドボールは、ぶつけるだけじゃないっていうのは、何となくわかっているんだけどよぉ」と、小さな声でぶつぶつ呟いた。
よねもふみも、聡の言葉にただ頷くだけだ。結局サチが、みんなを代表してアルドボールの知りうる限りの知識について答える形になってきた。
「さっきも言った通り、朝美台では大してこの競技に力を入れてないわ。だから、キックをしている光景や、ゴールをしている場面をあまり見たことがないし、大会も見学に行ったことがないからわからないわ。
まあ、大会といっても品川区では始まったばかりだし、そんなにレベルが高いとは思えないし。きっと、坂口君は練習や試合を見たら、ガッカリするんじゃないかしら」
「うん、それに俺さ、金カクと銀カクが『もっと、思いっきり蹴りたいよなぁ』って話してるの、聞いたことがあるぞ。」
聡が言う、金カク、銀カクとは、一年上のいじめっ子のことだ。
「ふーん、それじゃあ、あまり気合いの入った練習はしてないんだね」闘馬は、ちょっと肩を落とし気味につぶやいた。
「それじゃあ、坂口君が練習のやり方をみんなに教えればいいんじゃない?」闘馬にはっぱをかけるつもりで、ふみが言う。
また、しばらくの沈黙が流れた。養護室独特のアルコール消毒液の匂いが、よねの鼻にツーンときた。
サチが、静かに流れる時間の空間を破るように、口を開いた。
「ところで、さっきの私の質問に戻っていいかしら? その体操着のことだけど」
「ああ、ごめんごめん。これは体操着じゃなくてアルドボールの練習用のユニフォームなんだ。勢いのあるボールに当たって関節が外れないように、肘と膝に衝撃吸収パットがついている」
そう言って闘馬は、みんなに肘と膝の部分を触わらせた。さっきのドッジボールでつけた肘当て・膝当てよりも、弾力性がありしっかりしているし、直接ユニフォームについているので、ずれる心配もなさそうだ、とよねは思った。
「はい、今度は俺が質問!」と言って、聡が元気よく手を上げる。
「アルドボールって品川じゃあ、あまり有名じゃないぞ。でも、横浜じゃあ、有名なのか?」
「そうだねぇ、確かに日本でこのアルドボールを盛んにやっている地域は、4ヶ所しかないし……横浜と函館、そして神戸と長崎! でも、歴史は古いんだぜ。もしかしたら、野球やラグビー、サッカーよりも早く日本に入って来てたかもしれない」
「それなのに、あまり広まらなかったのはなぜ?」よねは不思議そうな顔をして尋ねた。
「うーん、わからない。でも、じいちゃんがこんなことを言ってたよ。アルドボールは、今だに酒好き、喧嘩好きの船乗りの遊びとしか思われていないって」
「えっ、それってどういうこと?」よねが不安そうに聞く。
ワカバのよもやま話コーナー㊹
先日、親友ちゃんの勤めている会社に遊びに行って来ましたぁ
行ったのは東京ミッドタウンですぅ
ギャーッ見上げると首が…
ワカバの住んでいる篠竹村と言えば、一番高い建物はこれ
えっ 建物じゃない
いえいえ、篠竹村のジィジやバァバは、昔から「立派な建物だんべぇ」と自慢しています
親友に何だか分からない建物に案内されて「ここは私の奢りだからね」って言われて喜ぶワカバ
なんか、サラダだけ出てきたわ
ずっと待ってたら、やっとで親友の魚介類がいっぱいのスパゲ…じゃない…名前が分からないパスタがきましたぁ
それから、すぐに野菜盛り沢山のやっぱり名前が分からないワカバが注文したパスタが
竹の子で育ったワカバは、竹の子大好き
だから大きい竹の子をお願いしたら、ちゃんと大きい竹の子が入ってました。言って見るものね
デザートは、バナナが好きなワカバはこのケーキ 名前はやはり不明…だけど美味しかったなぁ。
親友は、クリームたっぷりという名前のケーキ 親友はレモンティーでワカバはあったかい珈琲でした
突然、運転手さんがワカバに「お嬢さん、ここの地名が何で青山になったか知ってるかい」なんて聞いてきたよ。
いきなり「お嬢さん」って言われたことに興奮してるワカバは「えっ、えっ…」って言うのか精一杯よ〜 こりゃ、チップ沢山あげなきゃ
その運転手さんによると、徳川家康に仕えていた青山忠成が家康から「馬で乗り回した全ての土地をあげちゃうよ!」って言われたんですって。
いいなぁ
喜んだ青山は馬を乗り回してここいら一帯を走り回ったって。でも可哀想に馬は疲労で死んじゃったんだって
ホントかなぁ
あっ、そんな話してるもんだから、写真取れなかったじゃないの
タクシーでひと回りしたワカバと親友は、東京ミッドタウンのそばにある「ジャニーズ事務所の本社ビル」に行って記念写真を撮ろうとしたら、警備員さん👮🏻♀️が大きな声で「写真撮っちゃダメダメ〜!」って手でバッテンしてる🙅🏻♂️
恥ずかしかったぁ
写真を撮っちゃいけないビルがあるなんて、知らなかったワカバはしばらく東京に行くのが怖くなったわ
でも親友が自分の休憩時間を延長して、ワカバを案内してくれたことに感謝感激だわぁ
別れる時にわざわざ親友の上司が見送りに来てくれたのでお礼を言ったら、親友の方が上司だって 笑
みなさんも東京で写真を撮る時は気をつけてくださいね
第9章「アルドボールへのいざない」⑦ へつづく
「およねさん」
今回の主な登場人物…
土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。
坂口 闘馬(とうま)…横浜から転校して来たよねの同級生。今後の物語の鍵を握る。
平山 ふみ …よねの同級生。鼻ぺちゃのお喋りで明るい性格。
山村 サチ …よねの同級生。インテリ眼鏡で冷静沈着。いつも低音で論理的に喋る。
岩田 聡(そう)…よねの同級生。図体がでかく勉強は大の苦手だが、人情に厚い魚屋の息子。
(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)