「今日はみなさんに是非会いたいということで演劇学の講師の先生がお見えです」
   校長先生は、そう言って体育館の後ろの二階に目をやった。

 「みなさんにとって素晴らしいお年玉になるでしょう!さあ、音羽時次郎先生、壇上にどうぞ」




   「えーっ!」と言ってみんな一斉に後ろを振り返った。するといつの間にいたのだろう。体育館の奥の二階の席に男性が座っている。


   おもむろにスッと立ち上がったその男性は、みんなに向かってどうやら手を振っているようだ。  

   しかし丁度太陽を背にしているため、みんなの瞳にはその姿が光り輝く黒い影のようにしか見えなかった。だがその姿、背格好はどう見ても音羽時次郎だ!そうよねは思った。もちろん、体育館にいる生徒全員も。


  そうとわかれば、話は早い。体育館中が、「ワーワー、キャーキャー」というもの凄い歓声に変わってしまった。

   両手を大きく振る者、飛び上がって万歳をする者、友達同士抱き合う者……、これには、先生たちも大慌てだ。予想をはるかに上回る大騒ぎとなっていった。


    それもその筈。この頃は、時代劇スターの全盛期で、阪妻(ばんつま)こと阪東妻三郎(ばんどうつまさぶろう)、片岡千恵蔵(かたおかちえぞう、大河内傳次郎(おおこうちでんじろう、市川右太衛門(いちかわうたえもん)、長二郎(はやしちょうじろう)…【後の長谷川一夫(はせがわかずお)】といった時代劇の大スターが揃っていた。


   そこへ名乗りを上げたのが、若干23歳の新鋭・音羽時次郎だ。

   一昨年、映画「武蔵坊弁慶」の牛役で華々しく銀幕にデビューをし、昨年は映画「南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん」の犬塚信乃(いぬづかしの役で妖艶な剣術使いを演じ、若手ながら今や押しも押されもせぬ時代劇のホープとなっていた。


   プロマイドの売れ行きはすでにベストテンに入っているし「八犬伝」で、玉(たまずさという怨霊と戦う特撮シーンが大いに受け、子供の間でも時次郎人気は鰻上りだ。




(左が犬塚信乃、右が怨霊に変身する前の玉梓)



    背がスラッと高く、その甘いマスクからはまるで似つかわしくない男くさい演技で、女性のハートもしっかりとつかんでしまった。


   当時は、無声映画から声の出るトーキーへ切り替わった時代だったので、時次郎の凛とした口跡も当り、映画館は連日超満員になっていた。


   時次郎が街を歩けば、女性ファンで道が塞がってしまうと言われるほどの人気スターになっていた。


    その時次郎が、今この朝美台小の体育館を歩いている。予想をはるかに上回る子供たちのはしゃぎように、先生たちは防戦一方になってしまった。

   それでも必死の掛け声で、生徒たちもやっとというか少しだけ平静さを取り戻してきた。


    体育館の脇の通路を、時次郎はみんなに手を軽く振りながら校長のいる壇上へと向かっていた。  

   みんなが思い切り手を伸ばして握手を求めるが、先生たちが必死でバリケードを張り、それはもう大変なことになっていた。


    しかし、ここでただ一人、音羽時次郎の大ファンであるくせに必死で自分の気持ちを押し殺している少女がいた。そう、もちろんサチだ。


   「ねぇ、せっかくだから時次郎に握手してくれば!」とふみが余計なことを言った。

   「いえ、せっかくだけどいいわ。ここからは遠いし……」

   サチは真っ直ぐに前を見たまま唇を少し震わせている。


  「ねぇ、ふみちゃん、……何だかさっちゃん、カチンカチンに固まっちゃってるみたいな気がするんだけど」よねがふみに耳打ちした。


    そう言えば、サチは直立不動の姿勢で、さっきから身動き一つしていない。顔色は血の気もなく、真っ白に近かった。瞬きもしないで、視線は校長先生の方を向いている。


   「まさか、さっちゃんの夢、正夢だったんじゃ……」

   そうふみが言った途端、サチはふみをじっと見ながら「やっぱり、そう思う?私もさっきからその事ばかり考えていたのよ」と白い顔で言った。


   「どうしましょう。私……、本当のことになるなんて思ってもいなかったわ。この後どうすれば……」


   「あぁ、さっちゃん!」

   よねが気づいて手を差し延べようとした時には、もう遅かった。

   サチは直立不動のまま大きな地響きを立てて体育館の床に転がっていた。それを見た女子生徒が「キャーッ!」と叫んだ。


    大きな物音と叫び声に、バリケードを張っていた先生も、握手をしようと手を伸ばしていた生徒も、そして、みんなに手を振って愛想を振り撒いていた時次郎も、みんなが音のした方に注目した。


   「大変だ!誰か倒れたぞ!」

    みんながワーッとサチの元へ走り寄る中、花門前先生はすぐに自分のクラスのサチが倒れたことに気づき「誰か、担架をはやく!」と指示している。

    すぐに6年生の救護委員が担架を持って飛んできた。


    困惑したのは、よねとふみだ。

   「どうする?」

   「どうするって言われても、まさか自分の見た初夢が正夢になるかもしれないなんてことで気絶したなんて言えないもんね」


    倒れた衝撃で吹き飛んだサチの眼鏡を拾いながら、よねはそう答えるのが精一杯だった。

   心配しつつも、どう対処していいかわからず、よねとふみはサチのそばに座り込んでじっと固まっていた。他の生徒も遠巻きにサチを見守っている。


    すぐに花門前先生が駆けつけてきて、サチの額に手の平を置いた。ほっぺたを両手で抑えてから、サチの下瞼をアッカンベーをしながら覗き込んでいる。


   「気絶しただけね」ホッとした顔をして、救護委員に「でも、倒れた時に打ち所が悪かったら大変だからしばらく様子を見て、それから担架に乗せましょう」と指示をした。

   そして「だれかこれを濡らして来てくれない?」とおもむろに袂から真っ白なハンカチを出した。


   「私が行きます」

    よねはハンカチを受け取り、体育館の舞台裏にある手洗い場に駆け出した。とそこで、意外な光景を見てしまった。

   誰かが隅の方でうずくまっているではないか。


   それはついさっきまで、みんなに笑顔で手を振っていた音羽時次郎だ。両膝と左手を床につけて、苦しそうに右手で口を押さえている。どうやら、吐いてしまったようだ。

   そばには校長が、総主任の山本先生と一緒に、人目につかないように時次郎をかばいながら、誰かのコートで隠そうとしている所だった。


    案の定、体育館にいる全ての目は、倒れているサチの方に注がれている。時次郎の異変に気がついている者は、よねの他には誰もいなかった。


    よねは一瞬、そこに立ち尽くしてしまったが、すぐ我に返った。

   「あっ、いけない!何ボーッとしてるんだろう?急がなくちゃ!」

    よねは慌てて手洗い場へ駆け出した。





ワカバよもやまコーナー


   今日は物置物語の前に山奥のワカバ邸へ遊びに来てくれた学生時代のお友達とのお食事会を書くよ〜👩🏻🧑🏻👩🏻‍🦰


   まずは3人でケーキを食べましょ ショートケーキ


   ワカバが買ってきたケーキだよ〜キラキラ

上から時計回りに栗のモンブラン、ラ・フランスのショートケーキ、フルーツのミルフィーユ・タルトラブラブ


    ワカバは、栗のモンブランだったけど、みんなでシェアしたんだぁ飛び出すハート


   ワカバが作ったお肉〜 あんぐり


   見た目は悪いけどねぇ泣き笑い  豚のヒレ肉にベーコンを巻いてジューシーに焼いたんだよ~メラメラ


   最後に焼いた肉汁と生クリームを軽くジュージューして、お肉にかけたよ~🍖


   この他にも鍋もので鶏肉や大根、白菜、ブラウンマッシュルームなど野菜たっぷりの水炊き〜鍋

   ネギトロ丼も作ったんだけど、生ビール赤ワインの酔いが早くも回ってきて、写真を誰も撮ってな~いあせるあせるあせる


   せっかく作ったのに〜笑い泣き



    恋バナも終わらないけど〜、ちょっとコレ見て!って、物置で見つけた百人一首を見せたのひらめき


   わっ!!フルッあんぐり とA子が言えば、B子が汚い~ゲロー としかめっ面 (笑)


    ちょっと、これ…明治時代の百人一首!?ってA子が言えば、 B子がすかさず、中開けてみたの?って言うし~

    みんなと一緒に見ようと思って開けてないんだよね~

   これで坊主めくりやろうよ〜ひらめき となって、早速開けて見たら~あんぐり


   あっ!坊主がいない煽り

っていうより、1枚も絵が書いてないガーン


   坊主めくり、出来ないじゃんびっくりマークということになったけど、手札で聞いた事のある短歌に3人は釘付けになったのポーン


   「ねぇ、この『千早振る…』って漫画や映画になったあの『ちはやふる』でしょ」



とA子が言えば、ワカバが無理に学のあるところを見せようと「違うわよ!落語にもあるでしょ。たつた川ってお相撲さんが遊郭で千早に振られて、豆腐屋になった話だから、漫画と関係ないのさ」と余計にアホを晒しまくり…滝汗


   酔っ払いながらもB子が「千早振る…」の現代語訳をLINEする始末 (/-\*) ハジュカチ…


      (川面に紅葉が流れていますが)神代の時代にさえこんなことは聞いたことがありません。竜田川一面に紅葉が散りしいて、流れる水を鮮やかな紅の色に染めあげるなどということは。


   結局、それぞれの短歌を訳して外れたら飲むこと生ビール とかになってしまい、みんな飲み放題になったとさゲロー


   最後にそれぞれ心に残った一首を選びましたよ~ラブラブ


A子は…



   大空を振り仰いで眺めると、美しい月が出ているが、あの月はきっと故郷である春日の三笠の山に出た月と同じ月だろう。(ああ、本当に恋しいことだなあ)



B子は…



   川の流れが早いので、岩にせき止められた急流が時にはふたつに分かれても、またひとつになるように、わたし達の間も、(今はたとえ人にせき止められていようとも)後にはきっと結ばれるものと思っています。



ワカバは…



   空吹く風よ、雲の中にあるという(天に通じる)道を吹いて閉じてくれないか。(天に帰っていく)乙女たちの姿を、しばらくここに引き留めておきたいから。



   そしてB子が、鎌倉3代将軍・源実朝の歌を見つけました!

   この時は大河ドラマでは、まだ暗殺されてなかったんです汗汗汗



   この世の中はいつまでも変わらないでいてほしいものだ。渚にそって漕いでいる、漁師の小船をひき綱で引いている風情はいいものだからなぁ



第6章「横浜から来た転校生」① へつづく



※ 画像はネットからお借りしたものと、私有物をスマホで撮影したものです。





「およねさん」


 今回の主な登場人物…


土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。


玉秀(たまひで)校長先生…よねの通う朝美台尋常小学校の校長先生。


花門前(はなもんぜん)麗香(れいか)…よねの学級担任。24歳。容姿端麗でスポーツ、ピアノが得意。アルドボールの顧問となり、朝美台小を勝利へと導いていく。


平山 ふみ …よねの同級生。鼻ぺちゃのお喋りで明るい性格。


山村 サチ …よねの同級生。インテリ眼鏡で冷静沈着。いつも低音で論理的に喋る。


音羽時次郎 23歳の時代劇若手スター。朝美台小の「演劇学」講師となる。秘密の過去を持つ。




(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)