「おめでとう。今年もよろしくな。っと言うことで、さっきの質問」
そこで、健司は今朝見た流れ星の件をあらまし話した。
「ふーん、そんなことがあったのか?それでおキク婆さんに聞いてみようというわけか」
「まあ、そうなんだけど、拓也は見なかったか?」
「残念、俺はその頃夢ん中だ。」
「よし、それじゃあ俺がちょっくら声を掛けてやろう。どうせ爺さんと2人っきりだろう。きっと話し相手がほしいに決まってるさ。……でも気分を悪くするようなこと言うなよ。間違っても、お婆さん!なんて言っちゃ駄目だぞ!」
拓也はそう言いながら「ごめんよ、ごめんくださーい。漬物屋の若奥さーん!」とガラス戸を軽く叩きながら叫び始めた。
すると健司も調子に乗って「ごめんくださーい、いらっしゃいませんかー、いないのかなぁ、あがっちゃいますよー!」とガラス戸を引く真似をすると「あれ、ガラス戸が開いちゃうよ」とガラガラっと開けてしまった。
図々しい二人は、家の中に顔を突っ込んで「お留守ですかー、いないんならいないと言って下さいよー、正月から開けっ放しで出かけちゃうなんて物騒ですよー!」と同時に叫んだ。
二人のそばにいるよねは気が気ではなかった。健司兄さんも恥ずかしいことするけど、あんちゃんも恥ずかしい……よねはまるで自分がやっているような気持ちになって真っ赤になった。
「誰だい?元旦早々うるさいねー!はい、はい……、今行きますよ!」奥の座敷から小さな皺くちゃなお婆さんが顔を出した。
「よっ、おばあ……、じゃなかった、おばちゃん!新年明けましておめでとうございます」
健司と拓也が深々と頭を下げた。あまりにケロッとして二人が挨拶をするので、よねもそれに続いた。
「何だい、三人も揃って。……ははーん、さてはお年玉が欲しくてきたね」
いきなりそう言われるとは思わず、健司も拓也も顔を見合わせて、違う違うと手を振って黙ってしまった。
「いや、そうじゃなくて……。実はおばちゃんに教えて欲しいことがあって」
さっきの威勢の良さはどうしたの?とよねは2人を見上げた。
「アハハハ……。冗談だよ、冗談!元旦からこんな若い人たちが来てくれるのが、嬉しくてさ。つい年甲斐もなく照れちゃって、余計なことを言っちゃったねぇ」
そう笑いながら「何だい、用件は?」おキク婆さんは、座敷の上がり口に腰掛けながら聞いた。
健司は姿勢を正して「元旦からすみません。実は、今朝飛んでいた流れ星のことが聞きたくて伺ったんです」と神妙な顔つきで口を開いた。
おキク婆さんは、黙って頷いた。
健司は話を続けた。
「父はあれを見た時、何か不吉なことが起こる前兆のようなことを言うんです。正月だっていうのに、初詣でにも行っちゃいけないって言うし……」
「それに、前にもあれと同じ物を見たようなことも言ってるんです。前に何かあったんですか?これから何かが起きるんですか?ぜひそれが知りたくて……」
おキク婆さんは、暫く黙っていた。4人の間にスーッと時間の隙間ができたみたいに静かな沈黙が流れた。
やおらおキク婆さんが3人を舐めるように見廻しながら話し始めた。
「あれは、大正12年の元旦。今から13年位前になるかねぇ。早起きの辰五郎さんと私は、今朝と同じ夜明け前に、西の空から東の空へ飛んでいく2つの流れ星を見たのさ」
「でもその時は、別に何も思わなかったよ。流れ星の言い伝えなんて2人とも知らなかったからねぇ」
そう言って空を見上げた。
「それから丁度9ヶ月後の9月1日さ。……その日はとても暑い日で、さてこれからお昼の支度をしようかと思った矢先さね。いきなり地面がドスーンと下がったかと思ったら、今度は急に上がってきて、そりゃもうすごい大地震だったよ。とにかく大人だって立っていられなかったからねぇ」
(地震直後の日比谷交差点付近。早くも、有楽町方面では火の手が上がっている) 毎日新聞社提供、お借りしました。
「這いつくばって柱にしがみつくのがやっとだった。うちの人は、外にいてね。まるで大地が海のようにグラグラと波打っていたそうだよ。この商店街は運良く火事には巻き込まれなかったけど、あっちこっちから火の手が上がるのが見えてねぇ」
(猛火に包まれた横浜・中区の横浜正金銀行。行内は火焔に襲われ、生地獄と化した) 横浜開港資料お借りしました。
「どこもかしこも大火事さ。炎がメラメラと舞い上がって。凄かったのは真っ黒な煙だよ。あっという間に、夜のように暗くなってしまったんだよ。……拓ちゃんは、その頃は奉公前だったから知らないだろうけど、健ちゃんは覚えてないかい?」
おキク婆さんはそこまで一気に喋りながら、健司の顔を見た。
健司が首を捻りながら「うーん、恐かったっていうのは覚えてるけど」と言えば、拓也は「そんなに物凄い地震が来たら、うちの材木店は大火事になっちまうなぁ」と唸った。
おキク婆さんは、話を続けた。
「しかし、大変だったのは、次の日だよ。何処からか『チョーセンジンガ ホウカヲシテ イドニドクヲ ナゲコンデイル』なんていうデマがとんでねぇ。うちの人はその時に組織された自警団に入れられて、竹槍を持って町の警戒にあたらされたよ。怪しいと思った人間を、とっ捕まえるのさ」
「……でも、うちの人は臆病だから、何もしないでいたらしいけど、ああいう時はみんな狂っちゃうんだねぇ。だって疑わしい者は、朝鮮人だというだけで殺しちゃうんだよ。なんの罪もない人をさ」
(竹槍などで武装した自警団は「朝鮮人の暴動」のデマにのり、多数の朝鮮人や中国人を殺害した)
毎日新聞社提供、お借りしました。
よねは「殺しちゃう!」という言葉を聞いた時、思わず両手で口を抑えた。
「その時だよ、辰五郎さんが体を張って、朝鮮の人たちをかくまったのは。だってみんな良い人たちなんだよ……。放火なんかするものかね。ましてや井戸に毒を撒くなんて!
……近所の人もみんなで、縁の下や押し入れに朝鮮の人たちをかくまったんだよ。ああいう想いは2度としたくないさね。……きっと、辰五郎さんはあの時の修羅場を思い出したんだろう。あたしも今朝は思い出したよ。あの流れ星を見てね……」
(浅草六区の30余の劇場、映画館は全焼した)
毎日新聞社提供、お借りしました。
ワカバのよもやま話コーナー⑪
2週間ぶりに物置物語で〜す
今日は、ワカバが悪戦苦闘している物置に入っている茶箱をご紹介します。
これがものすごく重いんです
だけど、凄い機能があるんですよ〜
茶箱の中はこんな風になってます
60年以上前の時計や曽祖父の写真やそれと一緒に昭和7年の新聞がカビも生えずに出てきたり…
何だか凄いわこの機能は何
そこで早速ネットで調べたら前述の「中村米作商店」さんのホームページに出会いました。
「中村米作商店」さんのご厚意で茶箱の機能の紹介文を載せさせていただきますね
茶箱は本来、お茶を保存するものですが、その優れた防湿性・防虫性は衣類や米、乾物、カメラなどの精密機械、ひな人形など大切なものの保存にも、たいへん適しています。
大事に扱えば、何十年も使うことができる茶箱。最近では、インテリアとしても注目されています。
確かに我が家は60年以上前の物がカビ1つ生えずに保管されてたわ
でもね、非力なワカバには中身が入ってる茶箱は重くて動かないのよ〜 (;`皿´)グヌヌ 、 ヒ〜!
ちなみにワカバの家の茶箱は40kg用
まぁ、中身を出せばいいんだけどね(ノ≧ڡ≦)テヘッ♡
(茶箱自体の重さは7.8kgです)
そして…今はキャスター付きもあるから安心よ
茶箱についてもっとお知りになりたい方は、下記URLでご覧くださいね
「中村米作商店」さんの公式 ホームページに繋がります
https://www.cha-nakamura.jp/?mode=f7
上記でご紹介した「中村米作(よねさく)商店」さん…ワカバの書いているのは「およねさん」…
お電話した時に担当の方に「同じよねですね」と言っていただき、不思議なご縁にびっくりしましたぁ
小さなご縁かもしれないけど、繋がらせていただけて、嬉しいなぁ、と思いましたぁ
第4章「おキク婆さんのつらい記憶」④
へつづく
※ 画像はネットからお借りしたものと各写真保存誌からお借りしました。
「およねさん」
今回の主な登場人物…
土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。
有田 キク … 漬物屋を営んでいるおしゃべりなお婆さん。本人は品川の生き字引きと言っているが…?
土志田 健司(けんじ) …土志田家三男。17歳。お喋りでオッチョコチョイだが憎めない存在。
山崎 拓也 …よねがあんちゃんと慕う手嶋屋材木店で奉公をしている17歳。兄は拓実。
(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)