ここまで話して、健司はよねの顔を覗き込むように言った。
「河津教頭は、校長が辞めた時、自分が校長になれるものと思ってたらしいんだ。でも、教頭を辞めなくちゃならなくなったり、給料も下げられたりしてさ。口には出さないけど、うちのお父さんのことを恨んでるらしいんだよ。でも、恨む相手が違うと思わないか。恨むなら、エロ河童さ。そのエロ河童を復帰させたり……。なんか変なんだよなあ。そう思わないか?」
健司にそう言われたが、何だか話が難しくなってきて、よねには何て答えていいかわからなかった。それよりもよねは、5年生になったらそんな先生に勉強を教わらなくてはならないのかと、そっちの方が気がかりだった。
外からは羽根を突いている音がカーン、カーンと心地よくリズミカルに聞こえていた。
健司は「そうだ!」と言って、やおら立ち上がった。
「どうしたの?」よねは、突然健司が大きな声を出すのでビックリした。
「今朝見た流れ星のことさ。どういう言い伝えがあるのか聞きに行ってみようと思ってさ」
よねは、もう一度ビックリした。
「だめよ!だってお父さんに言われたでしょ。今日は初詣でに行っちゃいけないって」
健司は、ニヤニヤしながら「馬鹿だなあ。何も神社まで行かなくたって、他にも聞く所はあるだろう?」と草履を履き替えながら言った。
よねには、見当がつかなかった。
「ほら、漬物屋の婆さんさ。流れ星を見ながら『ナンマイダー』って拝んでただろう。きっと何か知ってるぜ。それにあの婆さんおしゃべりだからさ。話してくれると思うんだ」そう言ってよねに目配せをした。
「どうする?よねも行くか?」
そう健司に言われると、好奇心が湧いてくる。それに家にいても、やることはないし。
「うん、私も行く!」よねも草履を履き替えようとした。チラッと、肘掛け椅子で気持ち良さそうにスースーと寝息をたてているあさが目に映った。
「このままじゃあ、姉さん風邪ひいちゃうわ。奥から何か掛けるもの持ってくる」
そう言って居間に上がろうとすると、きせが毛布を持ってやってきた。
「ほら、これを掛けておやり」
よねはきせから薄茶色の毛布を受け取り、あさにそっと掛けてあげた。
「まったく、あさったらべったら漬けでこんなになるんだから、やんなっちゃうねぇ」ときせが笑った。
「えっ、でもお猪口で酒飲んだって言ってたけど」肩をすくめながら、健司がなーんだ、という顔をしてあさを眺めている。
「あさがお猪口で飲んだのは、ただの水ですよ。正司が飲んでみろってからかったのを真に受けて……」ともう一度笑った。
「なんだ、そうかぁ。おかしいとは思ったんだ。ところでお母さん、こんなんじゃ嫁にやるのなんて、まだまだ無理じゃないの?」
健司はそう言いながら、「ちょっと、その辺散歩してくる」と、店を出ていった。
「あっ、待ってぇ」よねも慌てて駆け出しながら「行ってきます」と健司の後を追った。
「はい、いってらっしゃい。……漬物屋のおキクさんにちゃんと挨拶するんですよ」
きせの大きな声が追いかけてきた。
何だ、ばれてるじゃん。よねはきせの声を背中で受け止めていた。
漬物屋は、下駄屋から2軒左隣だ。入り口のガラス戸は一間(いっけん…1.8㍍)もなく、こじんまりとした作りだった。もちろん内側にはカーテンが引かれていた。
健司はそこに立っている。さて、どうやって漬物屋のおキク婆さんに声を掛けようかと思案している所だった。
「おめでとうございます!って普通に挨拶すればいいんじゃないの?」とよねが言うと「だめだよ!こんな元旦早々から入っていけば、まるでお年玉をせびりに来たみたいじゃないか」
あっ、それもそうか……。よねも健司の隣で考え込んだ。
「あれっ、お二人さん、こんな所にボケッと立って何やってんの?」
そう声を掛けてきたのは、拓也だ。
普通、奉公人は正月から外出など許されなかったが、主人の惣八は拓也たちに一日だけ休みを与える器量を持っていた。そんな拓也は丁度、初詣での帰りらしく手には戌年の絵馬をぶら提げている。
「よう……」
いきなりの拓也の登場にビックリしたが、「……まずは、挨拶だ。あけましておめでとう」
そう言う健司に続いて、よねも「あけましておめでとうございます」とお辞儀をした。
「おめでとう。今年もよろしくな。っと言うことで、さっきの質問」
そこで、健司は今朝見た流れ星の件をあらまし話した。
「ふーん、そんなことがあったのか?それでおキク婆さんに聞いてみようというわけか」
ワカバのよもやま話コーナー⑩
今日は、10月1日(土)に亡くなったアントニオ・猪木さんのことを書こうと思います。
ワカバが初めて猪木さんにお会いしたのは、まだ小さい時。父の関連会社のパーティー会場でした。
ニコニコとしながらワカバをヒョイと抱き上げてくれました。
凄くアゴが大きい人だなぁ、と思いましたが、ずっとニコニコしていて、子供心にもあたたかな優しい人だとすぐにわかりました。
そして、猪木さんと父とワカバの3人で記念写真も撮ったんですよ〜
この時、幼いワカバはナ、ナ、ナント〜、猪木さんに恋をしてしまったのです
この1週間、あの時の写真を探しましたが見つかりません。確かに私が持っていたのに…
大事にしまったのが裏目に出たよー
ワカバは猪木さんの試合をほとんど写真でしか見たことがありません。
これが猪木さんの技の美しさの集大成とワカバが勝手に信じている必殺卍固め〜
卍固めはストロングスタイルの真骨頂だと思っています。
そのストロングスタイルを受け継いだ1人が猪木さんの付き人もやっていた藤原喜明さんじゃないかしら…。
のちに藤原組を立ち上げて、藤原組長と言われてます。 全て雑誌の受け売りです。間違っていたら許してねん
強面に見えるけど、笑うと可愛い
1度だけ組長の試合をテレビで見たことがあります。
筋肉質ではなくて、なんだかブヨブヨな感じ
案の定、ボコボコにやられて、あらぁ、この人、可哀想…と思ったら一瞬にして相手の腕を捻じ曲げて、あっという間の脇固め
我慢したら腕が折れます
やはり、猪木さんの師・カール・ゴッチさんから関節技を学んだからこその必殺技ニャのか
ワカバは猪木さんのことが知りたいから、他のプロレスラーも調べるんです。ほとんど忘れちゃうけど…
古本屋で買った猪木さんの自伝は私の宝物です
タイガー・ジェット・シン選手との試合はもちろん観たことはありませんが、凄く因縁があるんですよね。
猪木さんが倍賞美津子さんと新宿伊勢丹前を歩いていたら突然、シン選手に襲われたり、その遺恨試合で猪木さんがシン選手の腕を折ったり…
この雑誌は去年本屋さんで買いましたぁ
店員さんに、こんなに可愛い子がこの本を買うのって顔されました
(コラうそ言ったらアカンよ!)
ワカバは昨年、偶然にもシン選手が猪木さんのことを語っている深夜ラジオ番組を聴きました。
現在のシン選手は慈善活動を行い、日本の東日本大震災では被災した子供たちへの募金活動が評価されて、日本国領事館から表彰をされたそうです。 (すごいやん!!)
そのシン選手がうる覚えで申し訳ありませんが、こんなことを言ってました
「1番最大の敵はイノキで、人生を懸けた試合だったよ。最近のイノキを動画で見たけど、ベッドに横たわっていてもイノキは笑顔でイチ、ニ、サン、とやっていた」
「イノキの姿は、昔のままだね。イノキに神のご加護があるように祈ったよ」
猪木さんも慈善活動をやってましたし、レスラーには何か通ずるものが生まれるのでしょうか。
ワカバは猪木さんのエネルギッシュな試合を生で観たことはありませんが、ご自分が病いに蝕まれていく姿を動画配信して、最後まで闘っている姿を私たちに見せてくれました。
最後まで闘魂を貫き通し歩き続けた姿に心打たれました。
猪木さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
「道」
人は歩みを止めた時に
そして挑戦を諦めた時に
年老いていくのだと思います
この道を行けば
どうなるものか
危ぶむなかれ
危ぶめば道はなし
踏み出せば
その一足が道となり
その一足が道となる
迷わず行けよ
行けばわかるさ
(1998年4月4日に東京ドームで実施された
アントニオ猪木引退記念試合スピーチより)
ワカバも迷わず「およねさん」を書き続けますね。今後ともどうかよろしくお願いします。
第4章「おキク婆さんのつらい記憶」③
へつづく
※ 画像はネットからお借りしたものとスマホで撮影したものです。
「およねさん」
今回の主な登場人物…
土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。
土志田 辰五郎 (たつごろう)… よねの父親。下駄屋を営む。よねの小学校に風紀委員。
土志田 きせ …よねの母親。土志田家を陰になり、日向になり支え続ける。
土志田 健司(けんじ) …土志田家三男。17歳。お喋りでオッチョコチョイだが憎めない存在。
山崎 拓也 …よねがあんちゃんと慕う手嶋屋材木店で奉公をしている17歳。兄は拓実。
(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)