よねをはじめとして、7人の兄弟がみんな姿勢を正してきちんと座り直したのは言うまでもない。幸司もやっとで目を覚まし、ちょこんと座り直した。





    子供たちの前方、上座かみざに辰五郎が、少し離れた右隣にきせが座った。

    辰五郎は、上等の茶色の着物に総絞りの三尺の帯を締めているが、きせは普段とあまり変わらない質素な藍色の着物姿だ。


    きせはもう一度きちんと座り直し、斜め後方から上座に向かって「明けましておめでとうございます」と手をついた。子供達もそれに習って「明けましておめでとうございます」と上座に向かって手をついた。


    ここから土志田家の正月、毎年恒例の辰五郎の長い話が始まるのだ。

    髪の毛が一本も無い頭を両手で前から後ろへ撫でながら「ゴホン!」と一つ大きな咳払いをして、辰五郎は口を開いた。


   「今年もこうやって、みんなが無事、正月を迎えられたということは、本当にありがたいことであり、土志田家が年を重ねるに連れ、大きくなっていくことをご先祖様そして歳神様に感謝しなくてはならん。特にご先祖様なくしては、今のこの土志田家は考えられなかったのであり、そもそも横浜の片田舎で、徳川三代将軍家光公のご領地として……」


   「また始まったよ。もう耳にたこが出来るくらいさ。このあとは、……都筑郡恩田町の出で、従って下駄屋の屋号は都筑となり……と続くんだなぁ」

   健司が小声でよねに呟いた。よねもそれはわかっている。いや、よねだけでなく子供たちはみんな空で言えるくらい辰五郎の言葉が頭に入ってしまっていた。


   まぁ、暗記出来ていないのは5歳の幸司ぐらいだろう。

   その後も辰五郎の話はまるで舞台役者の台詞のようにつらづらとつかえることもなく続く。

   やっとで終わったかと思うと、続いて辰五郎から子供達一人一人に対する訓示が始まった。

    これは親の、子に対する期待や戒などを、この正月を利用して伝えていく、土志田家独特の毎年恒例の行事だった。


   まずは22歳の長男、正司。

   昨年から近くのアパートでの一人暮らしが始まっているため、戸締まり、火の用心には十分注意すること。そして今後の商売の方向性についての話があった。


    この訓示は、親子一対一のものだが、みんなにも聞かれるため、ときには恥もかかされる。よねはこれが学校でもらう通信簿よりもいやだった。


    続いて4月から警察官になる19歳の祐司には、体を大切に、世のため人のために働くということはどういうことなのか、という話となった。


    よねは、なるべく早く自分の番がこないかなぁ、と待っていた。イヤなことは早く終わらせるのが一番!といつも思っている。だから、こうやって待っている時間は、よねにとって苦痛以外の何ものでもない。


    辛い時こそ、笑顔、笑顔……。そんなことを思っているうちに、祐司が終わり、17歳になる健司の番になっていた。


    土志田家の男子は、頭はみんな五分刈り。目も一重なので、精悍せいかんさが増している。  

   しかし一番キリッとした面構えは、次男の祐司だろう。


   長男の正司はどちらかというとおっとりした顔立ちだ。

   三男坊の健司はというと、笑うと目尻にたくさんの皺ができ、愛嬌のある顔と言ってよかった。


   今度はその健司の番だ。妹のよねから見ても兎角、オッチョコチョイでお調子者の健司。

   でも、辰五郎から健司への言葉はたったひと言で終わった。

   「健司!お前には期待している!」


   ただ、それだけ?

   健司は「ハイ!」と大きく返事をしながら頭を深々と下げ、横目でチラッとよねを見てニヤッと笑った。


    今度は、16歳になるあさの番だ。

    あさは、13歳の時から和裁を習っていて、今年で4年目。和裁は、普通1年も習えば良い方だから、あさは大分長い。


   別に着物を縫うのが下手だから、長く習っているのではない。和裁の教室では、あさは人並み以上に上手に縫っていた。


    だったら、もうそろそろ違うことをやらせればいいのに……。あたしばっかりに、店の手伝いや妹・弟の面倒を見させて……。


   「姉さんには、お父さんもお母さんも甘いんだ」

    よねは、不満など思ったことがなかったが、唯一不平を言うとしたら、姉さんに対してだ。しかし、これはあくまでも10歳の意見。

   妹は姉を羨ましく思うようにできているのかもしれない。なぜなら、普段この二人はとても仲が良いのだから。


    あさがお父さんから言われたこと。それは、よねもみんなも思いもよらないことだった。


 「あさも16だ。もう嫁に行ってもよい年頃だからな。今年は、お父さんとお母さんがあさに良い人を見つけておこう」

  よねはこの予想もしなかった辰五郎の言葉に、咄嗟に反応しきれないくらいにビックリした。


   しかし、一番意表を突かれたのは、言われている当の本人だったろう。ピンク色に染まっていた頬があっという間に青白くなってしまったのだから。


    辰五郎は、あさの驚いた顔にすぐに言葉をつけたした。

  「嫁に行くのは、今すぐというわけではない。相手が見つからなければ、どうしようもないことだからな。とにかく、いつ嫁いでもいいという腹積もりでいなさい。わかったね。」


   「……はい」

    あさは、俯いたまま小さく返事をするのがやっとだった。

    結婚がどういうものか、よねはあまりよくわかっていなかったが、結婚をしたらとにかく家を出なくてはいけない、とは何となく思っていた。


    そうしたら、姉さんはよそのうちの人になっちゃうのか。

    好きなことをさせてもらっていたあさを羨ましく思っていた気持ちとは裏腹に、どうしようもなく寂しい気持ちがよねの心の中に湧いてきた。


   「よし、次はよねと麻美、二人に話がある」と今度は一転難しい顔をして、辰五郎が言った。

   しかし、よねはあさへの複雑な感情が頭の中をぐるぐると回ってしまい、辰五郎に呼ばれたのも気がつかなかった。


  「お姉ちゃん、今度は私達よ……ねぇ、お姉ちゃん……」

    ボーッとしているよねの袖を麻美が引っ張った。


  「えっ?」

   よねははっと我に返り、慌てて返事をした。

  「はいっ!」

    辰五郎は、じっとよねと麻美を見ながら口を開いた。


   「登校日が、なぜ今日から明日に延期になったかを話さなくてはならない。実は今年度から、また新しい科目が増えるそうだ。昨日の大晦日は、その件で校長先生がいらした。ただ問題は、おまえたちにとって必要な授業もあれば、そうではない授業もあるということだ」


   辰五郎は、コホンッと軽く咳払いをして、話を続けた。

  「二人には今回、新たに加わった科目について話すからよく聞いておきなさい。いいね」

  よねと麻美は、顔を見合わせて「はいっ」と頷いた。





ワカバよもやまコーナー  



    今日も物置物語です。今回、皆さまにご紹介するお品物はコレ下矢印




   大分汚れが目立ちますが、ナショナルのロゴが2ヶ所付いてました。


   コードは劣化してないので、スイッチを入れてみたら、ナントお経が流れてきました 🎶


   1962年頃に購入したようです。



    ネットで調べたら同じ物がありましたぁひらめき




   この方はとても綺麗に保存されてますぅ飛び出すハート

我が家のテープレコーダー、可哀想に悲しい





    今回もお口直しに…こちら下矢印





    このフルーツボールをいただきたい一心で、親友と中華街に行ってきましたぁ 龍 ラーメン



   ど田舎からやってきたワカバ 不安

キョロキョロとお目当てのお店を探しますかたつむりかたつむり


   ついに発見!!

とにかく注文しましたよ〜 キラキラ



    あっあんぐり 写真にないドラゴンフルーツが付いてきてる!!

    このサービスは私が可愛いから…

    (ちょっと待て!舌、抜いたろか!)

    

   …ではなくて、フルーツボール品切れ寸前で数が少ないとかで、ドラゴンフルーツを入れてくださいましたぁ クラッカー


    仕方なく抹茶・バニラの2色あんみつを注文した親友…

     (こんな時期だけど、優しい私が口つける前に分けてあげるわ)


      (その代わり、抹茶アイスちょうだい!)


    親友と仲良く、美味しくいただきました。

ホント、メッチャ美味しかった 

  バンザーイ\(°∀° )/


    帰りは夜景を眺ながら…


    野生のキジが待つ我が家へ一目散に帰りましたぁ ロケット




  第3章「新しい授業科目」③ へつづく



※ 画像はネットとからお借りしたものと、スマホで撮影しました。





「およねさん」


 今回の主な登場人物…


土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。


土志田 辰五郎 (たつごろう)… よねの父親。下駄屋を営む。よねの小学校に風紀委員。


土志田 きせ …よねの母親。土志田家を陰になり日向になり支え続ける。


土志田 正司(まさし)…土志田家長男。22歳。下駄作りに専念する真面目な兄。春から警察官となる剣道の有段者。


土志田 祐司(ゆうじ)…土志田次男。19歳。


土志田 健司(けんじ) …土志田家三男。17歳。お喋りでオッチョコチョイだが憎めない存在。


土志田 あさ …土志田家長女。16歳。美人な所を鼻にかけないお姉さん。


土志田 麻美(まみ) …土志田家三女。よねより1歳年下の小学校3年生。土志田家ではただ一人目がパッチリの可愛い妹。


土志田 幸司(こうじ) …土志田家四男。5歳。土志田家のアイドル的存在。



(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)