『闇鬼』は、空中でジタバタしながら、恨めしそうな声を上げた。そして、再びラウラの腹の中へと消えていった。



 「さてと」奪衣婆の声に、真弓は始めてその存在を知った。

 「そろそろ行こうかの」奪衣婆は、腰を叩きながら軽く伸びをした。


 「おい、オババ!俺の願いを忘れないでくれよ。それから、もう一つ……ラウラは、奪衣婆の耳元で何かを囁いている。


 「よし、よし、わかった。確かに聞き入れよう」

 奪衣婆は、ラウラの頭をやさしく撫ぜながら真弓を見つめた。

 この時、真弓は這いずりながら真琴の元へ行き、布団を掛けていた。


 「マコ!ごめんね。お姉ちゃん、あなたのこと、守ってあげられなかったよ。うぅぅぅぅ……」唇が紫に変色している真琴の頬に、顔をくっつけて真弓は泣いた。涙が後から後から溢れてくる。真琴の顔が、真弓の涙でテカテカに輝いてしまうくらい、真弓は涙を流し続けた。


 奪衣婆が、そっと真弓の背中を撫ぜた。

 「痛むかの?」奪衣婆の声に真弓は、顔をグショグショにしながら、左手を持ち上げた。第3関節から切断した小指の部分からは、不思議と血が出ていない。


 「いえ、痛くありません」真弓は、首を横に振った。

 その時、布団の上に手をつきながら、ゆっくりと起き上がろうとしている清恵の姿が視界に入った。


 「お母さん!大丈夫?」

 真弓は急いで、駆け寄った。さっき清恵を切ってしまった肩の肉は何事もなかったように蘇生していた。

 清恵は、まだ意識がハッキリしていないのだろうか。真弓をボーッと見つめている。


 「お母さん。苦しかったでしょう?」

 真弓は、清恵の背中に顔を埋めて、また泣いた。母親の匂いがした。 


 こんなに温かな背中を持っている母親に、冷たくなってしまった勝彦のことを何と告げよう。真琴の死をどうやって伝えよう。そんなことを考えると、余計涙が止まらなかった。


 (そうだ!まずお兄ちゃんを紹介しよう!お兄ちゃんのおかげで助かったことを教えてあげよう!)

 真弓は、ラウラを振り返って手招きした。


 「お母さん……。お母さんにびっくりする人を紹介してあげる」

 真弓はそう言って、嫌がるラウラの手を引き寄せ、清恵の前に無理矢理立たせた。


 ケロイドの醜い顔ではあるけれど、はにかむように恥ずかしがるラウラ。

 (何だかんだ言ったって、やっぱり自分のお母さんと顔を会わせるのは嬉しい筈よ)

 真弓はそう思った。


 俯いていた清恵が、ゆっくりと顔を持ち上げラウラを見た。焦点が合わないのか、ジッと見つめている清恵だったが、突然、口を押さえ顔を背けた。


 その素振りは、真弓だけでなくラウラにとっても大きなショックだった。

 ラウラは部屋の隅に駆け出した。真弓も慌てて後を追う。


 「余計なことをするんじゃねぇよ。この間も言っただろ!見てみろ!俺が醜いから、あの女、反吐を吐いちまったじゃねぇか!」

 「ご、ごめんなさい。まさかこんなことになるなんて、思ってなかったから」


 「ひっそりと帰してくれれば良かったんだ……そう呟くラウラの背中にあたたかな光が射した。

 『鬼丸』が煌いた時と同じような、黄金色の光だった。


 真弓とラウラは、光に導かれるように振り向いた。

 「眩しい!」

 一瞬、何も見えなくなった。しかし、目がだんだん慣れてくると、奪衣婆がその光の中に入って空中に浮いている姿が見える。


 一体何をしようとしているのか?二人には、わからなかった。

 すると、奪衣婆の皺々で薄汚い着物姿が、徐々に変化していく。真弓は、目を擦った。そして、唖然とした。


 いつの間にか皺くちゃな奪衣婆が、真っ白な薄絹を纏った美しい女性に姿を変えているではないか。

 左手に蓮の蕾を持ち、軽くそれに右手は添えられている。


 頭の宝冠には『阿弥陀如来』がくっきりと現れていた。

 真弓もラウラも、その神々しさにしばし茫然としてしまった。




闇鬼・最終話「復活」 ①  へ つづく




 ワカバ寄り道コーナー(11)



 この前「戦争は女の顔をしていない」をご紹介しました にっこり

 その中で、やはり衝撃として心に残っているものの一つにウクライナの女の子が馬糞を食べて飢えを凌いだ…という話です 馬


 でも先日、NHKの「映像の世紀(スターリンとプーチン)」という番組で、もっと恐ろしく、もっと悲しい、やるせない映像とナレーションを聴いてしまいました ガーン


 今回はその番組を少しだけですが、画像を付けて取り上げてみました。


 画像には残酷な場面や悲惨な状況が映し出されます。

 そのような画像などが苦手な方はどうぞここでお戻りになってくださいね お願い










 映像は1937年のソ連を映しています。肥沃な土地、ウクライナを併合したソ連は「食糧徴発隊」と称して、まず農民から穀物だけでなく、作付け用の種まで根こそぎ奪っていきました えーん





 すべて国のものとして没収していくのですガーン



 


 これは、その時の映像です。農民の言葉が次のようにつづきます、



 「私たちは家から追い出され、何もかも没収されたのです」



 その後、大干魃〈カンバツ〉がウクライナを襲います。飢饉の始まりです。



 ウクライナの人々はこの窮状をソ連に訴えます ショボーン

 当時のソ連を牛耳っていたのはスターリンですが、スターリンはこう言うのです グラサン



 「飢饉などという作り話をでっちあげるとは!」





 「作家同盟にでも入ったらどうだ」





 「馬鹿どもが読んでくれるさ」




 次は農民の言葉です。



 「ウクライナ人は殺されたのです」





 「家畜のように死んでいた」




 ナレーションが人々の悲惨な状況を伝えます。



 「ある母親が我が子を一人 斧で殺した」





 「煮て 他の子どもたちに食べさせるために」




 その後、ソ連はドイツと戦争になりましたドクロ


 ウクライナではソ連の抑圧から救われた人々がドイツ軍を出迎えたそうです 飛び出すハート



 ソ連は2,000万人以上という犠牲者を出しながらもドイツに勝ちました 真顔


 早速、ウクライナでドイツの味方をした者が公開処刑されていきます 叫び



 スターリンは恐怖を人々に植えつけていきましたドクロ

 反抗する者は殺すドクロ、NOと言う者は処刑する恐怖政治で領土を支配していったのです あせる

 200以上からなる民族、数十の宗教を束ねるには恐怖による支配しかありませんでした 叫び



 その後、長い年月を掛けてウクライナなどがソ連から独立!

 ソビエト連邦は崩壊します クラッカークラッカークラッカー


 しかし、独立を許してしまい、国を小さくしてしまった「時の政府」に不満を抱え続ける男がいました。(それでも日本の45倍もあるのよ!)



 「ロシア国家の領土を分けてしまった!」

 (クソ!クソ!)


(俺は絶対スターリンになってみせる!いや彼を超えてやる)





 ちなみに……スターリンの妻は、国民へ思いやりを持たないスターリンに抗議するため、自ら拳銃で心臓を撃ち抜き自殺してしまいました 汗汗汗



 スターリンには愛娘がいます。

 彼女は母親の自殺以後、父親への猜疑心を膨らませていきます 不満 ぐすん 大泣き

 そして彼女はスターリンの死後、アメリカに亡命していました 飛行機



 彼女は言っています。

 「悪が善を殺して……彼らはいったい何を勝ち取ったのだろう?……このロシアに何を残したのだろう……(要約)」




 彼女の名前は「スヴェトラーナ」。

偶然にも「戦争は女の顔をしていない」の作者と同じ名前でした。




※ ( )内の言葉は残忍な男の心の声を代弁しました。









(闇鬼は毎週火曜日0時2分に更新予定です)