天色〈あまいろ〉の光が真弓から発せられて、やがて体全体を包み込む。

 「シュウゥゥゥゥゥゥ……」という、花火の燃えカスが消えかかるような音と共に、『鬼丸』を握ったまま、ダランと両腕を下げている真弓がいた。



 ショートの髪は天色となり、上衣はパステルパープル……、袴の色はワインレッドに変化している。


 「クックククク……。この女の体は俺のものだぁ!」

 真弓に乗り移った『闇鬼』がまるで勝ち誇るように、ラウラを振り返った。


 「見てみろ!自分の母親の両手両足をぶった切るような、残酷な人間に乗り移れば、闇の力が半減しようが、そんなもんすぐに取り戻せる!その証拠に『鬼丸』を持っていることが出来る。鬼の心を持った人間に乗り移ること。それが俺たちの鉄則だぁ!」


 そう言う『闇鬼』を、ラウラは悲しい目つきで見つめた。さっきまで家族の仇を取ろうと頑張っていた真弓の声は『闇鬼』の皺枯れた低音に代わっていた。


 「さて、この若い肉体で何人の仲間を作るか。クックク……。楽しみだぜぇ!」

 『闇鬼』が、再び高らかに笑ったその時だった。


 「そんなに楽しいの?でも、私の体はそう簡単にお前のものにならないわよ」


 今『闇鬼』の声を発していた真弓の唇から、今度は本物の真弓の声が聞こえてきた。

 これに驚いたのは、真弓の体の中にいる『闇鬼』だ。


 「な、何だ?何で、乗り移った筈のおまえが、喋っている?」


 「そうね、ではいいこと教えてあげる!わたしのこの指を見なさい」

 そう言って、真弓は左手を持ち上げた。これには、さすがのラウラもびっくりした。

 真弓の小指がない。スッパリと切断されていた。


 「おまえが、わたしの体に憑依する瞬間、『鬼丸』で自分の小指を切断したの。きっと、激痛でおまえに完全に憑依されないのではないかと、一か八かの決断だった。やっぱり、思った通りだった。闇細胞は、体中に行き渡らなかった!『鬼丸』が明滅しながらヒントを教えてくれたの。おまえは、わたしの体を完全に支配していないのよ!」


 これには、ラウラの小さな目が少しだけ大きくなった。

 「そうか。『闇鬼』の闇の力が半減しているおかげで、真弓は対等の力を同じ体の中で、競い合っているわけか」


 「それだけじゃないわ。『鬼丸』の力は、わたしのもの。これで『闇鬼』を退治できる。精気の無くなったおまえにわたしの心は読めなかったようね」

 真弓は『鬼丸』の柄を右手に握り、刃を自分の方に向けた。


 「お兄ちゃん!『闇鬼』を封印することはできるんでしょ?」

 「あぁ、もちろんできる。でも、ちょっぴりエネルギー不足だ……


 「だったら、これを食べて!」真弓がラウラに何かを放り投げた。

 「こ、これは!おまえの小指じゃないか」


 「そうよ。さっき、生きている人間の肉を食べれば、元気が出るって言ってたでしょう?小指だけじゃあ、足りないかもしれないけど。何としてもパワーをつけてもらって『闇鬼』を封印してもらわなくちゃ!」

 真弓は小さく微笑んだ。


 ラウラは、真弓の小指をジッと見つめている。少し躊躇はあったものの、何か意を決したらしい。

 「わかった。おまえの気持ちと思って頂くよ」

 ラウラはそう言って一礼すると、小指を口に放り込んだ。ボリボリと骨が砕ける音が異様に響く。


 「でも、どうやっておまえの体の中から『闇鬼』を出すんだ?」

 そこまで言って、ラウラの歪んだ顔が一層歪んだ。


 「ま、まさか、おまえ……ラウラの土色の顔が、こげ茶色に変わった。

 「えぇ、そうよ。覚悟はできているわ。……わたしの掻き切った喉から『闇鬼』が飛び出したら、絶対、封印してね」


  「く、くそ~っ!おまえ、最初からそういうつもりだったのかぁ!」

 真弓の唇から『闇鬼』の情けない声が洩れた。


 「せめて、お母さんだけは助けたかった。わたしは最初から死ぬ覚悟だったの。でも、どうやったらお母さんを無傷で助けられるかわからなかった。すべては『鬼丸』が教えてくれたわ。「闇鬼』さん、残念ね。この世から消えてなくなってもらうわ」


 そして、絨毯に倒れている清恵に向かって小さく呟いた。

 「お母さん、今まで育ててくれてありがとう。ごめんね……、お母さん。……先に逝く私を許してね」


 真弓はそうひと言言って『鬼丸』の切っ先を喉にあてがった。あとは、左手でグッと押し付けて、引くだけだ。


 「お兄ちゃん、ありがとう。会えて嬉しかったよ。今度は、同じ立場で『賽の河原』で会おうね」


 「ワァ~ッ、やめろぉ!俺は封印なんかされたくねぇ!」

 『闇鬼』の声が虚しく寝室に響き渡った。


 真弓は、うっすらと笑みを浮かべて、切っ先を喉に押し付け、そして引いた。真っ赤な鮮血が、噴水のように噴き出した。




闇鬼・第15話「覚悟」 13  へ つづく







  ワカバ寄り道コーナー⑨





 東京芸術劇場・プレイハウスで「奇跡の人」を観て来ました。

 初日の舞台でした。






 ヘレン・ケラー役には平祐奈さん。

 サリヴァン先生役には高畑充希さん。


 台詞のめちゃくちゃ多い高畑充希さんとは対照的に台詞が一切ない平祐奈さん。

 でも平祐奈さんの存在感は大きかったぁビックリマーク




 1歳半の時の高熱で視力も聴力も失い喋ることも出来ないヘレン。

 両親が甘やかして育てたせいで、まさに野獣のようなヘレンの日常生活。


 ヘレンが7歳の時にパーキンズ盲学校で学んだサリヴァン先生がヘレンの家庭教師にやって来ます。サリヴァン先生、この時まだ20歳ビックリマーク


 野獣のようなヘレンとサリヴァン先生の格闘は見応え充分で目が離せません。


 私の席は2階席の真ん中前の方 おねがい

舞台が隅々まで見える最高の席でした。


 高畑充希さんの演技に圧倒されることなく、平祐奈さんが真っ向からぶつかっていきます。

 祐奈さん、初舞台とは思えない圧巻の演技です。




 「奇跡の人」の映画を小学校の体育館で観た記憶があります。

 その後、おばあちゃんが私にヘレン・ケラーの伝記を何処かからもらって来てくれました。




 今でも大事にしています。

 そして、私がもっとヘレンの偉業を知るようにと新聞も取って置いてくれました。



 これらでわかったことは……

 喋れなかったヘレンは、声を出してみんなに気持ちを伝えたいと思うようになったことです。


 ヘレン10歳の時です。


 発音を知るために、サリヴァン先生の唇や舌や、時には先生の喉の奥に指をグッと突っ込むこともあり、その度に先生は吐きそうになることが何回もあったそうです あんぐり


 難しい言葉になると、その通りの声が出せず、何十回も繰り返すのですから、発音練習のあとは先生もヘレンももうヘロヘロです 不安


 でもヘレンは努力を怠らず、先生に励まされ、寄宿舎からやっと自宅に戻った日。

 駅に迎えに来たお母さんに「おかあさん……ごきげんよう……ただいま」とはっきりと言うことが出来たそうです。



 ヘレンはその後、ハーバード大学女子部のラドクリフ大学に入学しましたひらめき

 この時の苦労はとても書ききれないので省略です泣き笑い


 ヘレンは日本に3度来日しています。ヘレンは広島にも行きました。

 アメリカの侵した深い罪を、少しでも償おう、日本人の味方になろう、と思ったそうです。


 日本に身体障害者保護法の制定が早まったのもヘレンのおかげでした。



 そのヘレン・ケラーを平祐奈さんが演じる。

これは見逃せないビックリマークと思い、すぐチケット予約をしました。


 私からしたら…

 あんなに小さくて可愛かった祐奈ちゃんがヘレンを演じてくれるなんて夢のようでした✨


 だって私がガラケーを使っていた時、ずっと待ち受けにしていたんですから飛び出すハート

その待ち受け画像がこちら……下矢印下矢印下矢印



 愛梨お姉さんと祐奈ちゃん音譜音譜音譜音譜音譜

(みなさんに見ていただこうと思ってダメ元でガラケーに電源を入れたら…起動したぁラブラブ  取って置いて良かったぁキラキラ




 祐奈さんの演技、素晴らしかったですキラキラキラキラキラキラ

 アンコールの拍手喝采で最後はすべてのみなさんからのスタンディングオべーションに高畑充希さんと手を繋いで出て来た祐奈さんラブラブ

 顔が笑顔❓でクシャクシャになっちゃいましたね泣き笑い


 まだ舞台は始まったばかり。東京公演のあとは大阪公演と続きますが、素敵なヘレン・ケラーを演じてくださいね🌈


(一部の画像は伝記全集からお借りしました)



(闇鬼は毎週火曜日0時2分に更新予定です)