子どもの頃のカピ子は動きが遅かった。
子どもの頃のカピ子は、他人と会話のキャッチボールができなかった。
子どもの頃のカピ子は、他人からの口頭での指示がすぐに理解できず、
わからない!どうしよう!!という状況になると脳がシャットダウンされて、思考停止で固まった。
義務教育の王道でもある「集団教育」で、学習を理解する事は難しく、
女の子たちの川の濁流のようなトークには着いていけず、
いつもさりげなくぼっち。
仲間はずれも満を辞して経験。
運動神経が壊滅的になくて、笑かそうと思っていないのに、一生懸命にがんばっているのに、ちょっぴりヘンテコな動きな事を笑いに使われて、からかわれて意気消沈。
彼女が、彼女の理想通りにできる分野は、
義務教育の世界にはひとつもなかった。
ひとつも
本当の本当にひとつも
このたび。
カピ子はバイトとして正式に採用された。
採用されたその日の夜に、人生で初めての履歴書を書き、履歴書に貼り付ける顔写真を撮りに行く。
「下書きはせずに、最初からめっちゃ丁寧にボールペンで書くわ 」
というカピ子にクソバイスをせずに、笑顔でそのままチャレンジさせ、
「うわ〜サイアク、間違えた。オワッタ」
というカピ子を怒らずに、
「あっはっは!履歴書あるあるやな。おかあもよくするわ」
「そんな事もあろうかと、あと6枚ありまあっす」
と、新たな履歴書をドラえもんのように四次元ポケットから取り出した。
笑って気を取り直したカピ子は、2枚目で履歴書を完成させる事ができた。
わたしに特技なんてない。
となげくカピ子に、
「かぴこは、自分でやるって決めた事は長ーく続ける事ができるタイプやで。」
「アイドルの真似っこダンスもあれから毎日してるやん。」
と言うと、
「なんかそれをうまいこと文章にして。お母さんが。」
と返事が返ってくる。
1回目にまとめた文章は、
「あ〜。これはあかんわ大人が考えた文章やわ。もっとわたしっぽくおねがい。」
と、ダメ出しをされた。
なんとかカピ子姫が納得する一文を捻り出せたねこまたは、ついついそのまま志望動機にも口を出してしまった。
クソバイス発動だ。
「お母さん、それはお母さんの考えやろ??それはわたしの志望動機じゃないもん。自分で考える。」
と、ピシャリと跳ね除けられた
あ!ごめん ついついクセで先走ってクソバイスしてしまった〜。
と口に出して伝え、あとは頑張って黙った。
黙っているうちに、ねこまたは自分の脳内で物事を整理整頓する。
これはカピ子の履歴書であって、ねこまたのではない
志望動機は、カピ子の思いを素直に出して書いていい
それでダメならダメでいい
合格できる内容を書かせたいと思う気持ちを捨て、カピ子はどんな事を書くんだろう?という楽しみな気持ちに変換しよう
オッケーオッケー。
もう大丈夫。
カピ子がたとえどんな志望動機をぶっ込んで来ても、書き直しをさせない。
なんかちょっと面白そうやし
という気持ちに変化した。
カピ子が、ねこまたからはありえないほどの時間をかけて履歴書を仕上げる。
あっはっは。
素直。
昨日カピ子はこの履歴書を持って、公共交通機関を使って、駅からバイト先まで30分歩いて、
ひとりで仕事をやり遂げた。
(ねこまたいない。別のバイトだった)
仕事を終えた彼女の表情は明るく、
モヤモヤとした雨雲が過ぎ去ったあとの、爽やかな空のようだ。
カピ子は仕事を得た。
自分の力と、ほんの少しのねこまたお母さんの手助けで。
ねこまたは泣いた。
胸が弾けそうなほど思いが溢れる。
中学校の卒業よりも
通信制高校の合格通知をもらった時よりも
ずっとずっと嬉しい。
カピ子の全身から風が吹いている。
まるで人生が動き出したかのように。
過干渉ポイズンねこまたお母さんからの指示で動いていた、そうしないと義務教育の流れから弾き飛ばされそうだった。
あの頃の彼女はもういない。
本当の意味で、カピ子はカピ子の脳みそを使い始めている。
平均IQが71の、ポンでコツな彼女の脳みそを。
彼女は、彼女の人生を自分の足で歩き始めたのだ。
そうしてその日の夜。
彼女の人生がスタートされた夜。
彼女の初めてのおつきあいは終わりを迎える。
カピ子は泣いた。
ねこまたお母さんの胸に顔を埋めて泣いた。
、、、、、よし、クリリンに呪いの手紙を送ろう(←送りません!)
今朝の彼女の顔は明るい。
仕事に行く気持ちで満ちている。
身体中が筋肉痛や〜
とか言ってる。
さぁ、ねこまたも仕事だ!!
今日もきっと、たくさんのお客さんで溢れるだろう。
バイトの内定については、もう少し詳しく記録を残したい。
クリリンとの別れは、、、、、。うん。その記録はカピ子の脳内に留めよう。
今カピ子は感情が溢れている。
話したい事で満ちている。
人生のつらさや、楽しさを感じ始めている。
頑張って頑張って頑張って、ただひたすらにいらん事言わないように黙って耐え続けた日々は、
間違いではなかったのだと気づく。
、、、、いや、黙れてなかったやん
めっちゃ暴言吐いて叩きのめしてしまった日、めっちゃあったやん
なんならパンチもしたし。
とかつっこまない
さあ、1日が始まる。
いってきまーす