1. クリの生育環境

  • クリは暖帯落葉樹林では主要な構成樹種として、照葉樹林帯では二次林構成樹種としての性質をもち、きわめて広い範囲に分布する樹種。
  • 但し、クリは陽性植物としての性質を持っているので、西日本の低地帯に分布する照葉樹林の薄暗い森の中ではほとんど成長できない

 

 

 

2. 縄文人、採集民から栽培民へ;

2-1. 鳥浜貝塚@縄文前期

  • ところが、照葉樹林帯に位置する縄文前期の鳥浜貝塚@福井県三方町で、クリの実はもっとも重要な食料の一つであることが確認された。 ⇒ 西田(1989);鳥浜貝塚出土のクリの存在は、集落周辺の明るい開けた場所にクリの木が存在していたことを意味し、自然が生産した資源を利用する「採集」とは異なる、「栽培」というものの原初的な姿、すなわち定住によって人里植物を生み出し、縄文人が採集民から栽培民への過程を踏み出したと考察。
  • 鳥浜貝塚におけるクリの利用は早期~草創期にまで遡る可能性あり(工藤, 2016)。
工藤雄一郎・他 『福井県鳥浜貝塚から出土した縄文時代草創期および早期のクリ材の年代』, 植生史研究 第24巻 第2号, 2016
 
 
 
2-2. 三内丸山遺跡のクリ管理栽培
  • ↓図花粉分析より、三内丸山遺跡のムラ近傍でクリ林を管理栽培していたと考察された。
  • 4.2kaイベントの寒冷化のためクリ栽培が思うように行かず、三内丸山の大集落を維持する食糧源確保が困難となり人々は小集団に分散、三内丸山遺跡は消滅した(大湯環状列石の共同墓地説)。
 
クリの巨木で建てられた柱建物(2022/10/21
 
 
 
 
3. 花粉分析でクリ花粉検出の意味するところ(吉川2011)
3-1. 2タイプの花粉;風媒花と虫媒花
  • 花粉の散布には風によって運ばれる風媒花とハチなどによって運ばれる虫媒花がある。
  • Igarashi 1987;風媒花粉では、60km離れた植栽林より飛来したスギ属Cryptomeria花粉が落下樹木花粉総数の8.4%に達する例を報告。
  • 塚田 1974;虫媒花粉は散布範囲が小範囲にとどまり出現率が低いため、実際の植生より河床に表現される花粉群とされ、低率でもその出現は母植物の存在を示す可能性が高い。
 
3-2. クリ花粉は風媒花? or 虫媒花?
  • クリの受粉は農学では風媒で、花粉は風により遠くまで飛散(100m以上)するが実用的には10m前後で、一部には虫媒による受粉もかなりの比率を占めると推測(͡壽 1989)。一方、植物学では虫媒(佐竹ほか 1989)とされている。
 
  • 山形県小国町金目の「まみの平自然観光栗園」で調査。 標高 250 m の台地上にあり,東方は朝日山地山麓につながる。
  • この栗園は樹高が低く,枝が広がる一般的な栗園と異なり,クリ個体は約 4 ha に約 600本と密度が低く,約 50 年生で樹高約 15 m の直立した幹からなり,混み過ぎた個体の抜き伐りや下草刈り等 の軽度の管理しか行われていない。
  • 12 月末から 4 月上旬頃までは雪におおわれ,積雪は多い年で最大約 4 m に達する。約 7.5 km 西方の気象庁小国アメダスによると,最大風速は晩秋の 11 月か ら春先の 5 月は主に 4 ~ 7 m/ 秒,稀に 8 ~ 12 m/ 秒であるが,クリの開花期である 6 月中旬から 7 月中旬は主に 2 ~ 4 m/ 秒と弱い。1999 ~ 2008 年における開花期の最大風速風向は西~西南西方向が卓越している。

 

 

 

  • ↑Mapの東端水色ライン(E0~E20)の花粉出現率を下図に示す。
  • 栗林内で優勢であったクリ花粉が林外で急減し,逆にコナラ亜属花粉が急増して高率に出現。
  • スギ花粉を比較的高率に伴う。
  • クリ花粉の変化は,林内では 32 ~ 74% と高率であるが,樹冠縁から約 6 m で 10%,約 19 m で 5% に急減し,38 m では約 3%になる。
  • 花粉量は,クリ林内では 約 80,730 ~ 749,140 粒 /g と多量に検出されるが,樹冠から離れると約 12,000 万粒 /g に急減し,約 19 m 以遠 では 5000 粒 /g 以下になる。
 
 
 
  • 空中浮遊花粉と落下花粉の調査結果を下図に示す。
  • 栗林内に浮遊しているクリ花粉は少なく,周辺に分布する風媒花のコナラ亜属の花粉が多く浮遊し,クルミ属やブナなどの風媒花粉も広く飛散している。また,クリ花粉は自然落下や雨水による落下により林床に多く堆積している。
 
 
 
【 3-2.の結論; クリは虫媒花!】
  • 空中浮遊花粉と表層花粉の結果から,クリ花粉が極めて飛散し難いことが明らか(= 虫媒花)
 
  • クリ花粉の出現率と主要な森林構成要素の花粉組成の層位的変化からクリ林の存在の推定が可能; 
  1. 周囲に森林が発達している地域ではクリ花粉の約 30% 以上の高率出現は調査地点におけるクリ林ないしクリ個体の存在を示し,さらに約 30% 以上の高い出現率で地史的に 1 個体の寿命を超えて連続している場合は,複数の個体が存在し続けた可能性が高いため,クリ林だったと推定可能
  2.  5 ~ 1% でも約 20 ~ 200 m 離れた所にクリ林ないしクリ個体の存在が推定される。
  3.  周囲に森林が発達している金目クリ林においては,クリ林内に約 25 m 以上入った内部では風媒種のスギとコナラ亜属花粉が 11 ~ 32%に対しクリ花粉は 63 ~ 85% と高率に出現するため,クリ花粉が約 60% 以上の高率で出現する場合は分析地点を中心とした半径約 25 m 以上の範囲でクリ純林が形成されていた可能性が高い
 
 
 
 
 
 
 
 
クリ花粉は虫による運搬受粉であり、スギに代表される風媒花のように遠くに飛散することが出来ない。よって、縄文集落でクリ花粉が検出されていることは、ムラ近傍にクリ林が存在していたことを意味し、且つ陽性植物であることを鑑みれば人里の二次林管理栽培(原始農耕)が行われていたと考えられる。
 
 
 
 
縄文人を『狩猟採集生活』者と説明するの止めませんか? ( ・ω・)