Walker, et al. 2012. Discussion Paper Formal subdivision of the Holocene Series/Epoch: a Discussion Paper by a Working Group of INTIMATE (Integration of ice-core, marine and terrestrial records) and the Subcommission on Quaternary Stratigraphy (International Commission on Stratigraphy). J. Quaternary Sci., Vol. 27(7) 649–659 (2012) メモ

 

  • 本Discussion PaperでHolocene(完新世)の細分について以下を提案;
  1. Early-Middle Holocene境界 / 8200 BP
  2. Middle-Late Holocene境界 /  4200 BP
  3. 上記2境界の模式地(GSSP / Global Stratotype Section and Point)を設定

 

 
※ 2018年7月13日にIUGSにより、完新世(Holocene)を 前期完新世、中部完新世、後期完新世に細分する国際境界模式層断面と断面上のポイント(GSSP/ Global Boundary Stratigraphy Section and Point)が選定され、新たな国際年代層序表が発表されている。
 
 

 

3. Holocene(完新世)の公式層序細分案

3-2. Middle - Late Holocene境界

  • 中低緯度乾燥化イベントとして定義される4200年BPに設定。
  • 北米から中東を通り中国へ、またアフリカから南米の一部および南極への広範囲で観察された気候現象(Mayewski et al., 2004; Staubwasser & Weiss, 2006)。
  • 4.2kaイベントの発生メカニズムは、8.2kaイベントのそれと比して不明瞭(北大西洋への真水塊流入の証拠無し、2北半球の氷河の成長も無い、3系統だった火山エアロゾルの集積無し、4大気中CO2の増加も無し)。
  • Mayewski et al. (2004);ITCZ(Inter-Tropical Convergence Zone / 熱帯収束帯)の南へのシフトが、中緯度での乾燥化北大西洋上の偏西風の強化 ⇒ 湿度上昇、その結果として北アメリカ西方の氷河を前進させたと考察。
  • この乾燥化は、北大西洋の海面水温を1-2℃程度冷やした(Bond et al., 1997)。
  • 一方太平洋においては熱帯深層水が冷され、エルニーニョ・南方振動(ENSO / El Nino Southern Oscillation)現象を引き起こした。より活発となったエルニーニョ現象は、西太平洋側のアジアモンスーンを抑制し衰弱させ、とりわけ4000年BP以降アジア広範にわたっての乾燥化を引き起こした(Fisher et al., 2008)。
 
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エルニーニョ現象によるアジアモンスーンの衰弱と乾燥化
  • エルニーニョ現象とは、赤道付近の東大西洋(南米ペルー沖)に高い海面水温の水域が広がる現象。

 

  1. 平常時;赤道付近に吹き込む東風(ITCZ)により暖水域が西太平洋(インドネシア側)に吹き寄せられる。それを補完するように東太平洋側(ペルー沖)に太平洋深層水が深海底より湧昇し冷水域を形成する。 
  2. エルニーニョ現象;ITCZに吹き込む東風が何らかの原因で弱まると本来西太平洋側に吹き寄せられるべき暖水域が東へと広がる。太平洋深層水を湧昇させることもできずペルー沖に暖水塊が形成される。アジアモンスーンは、暖気塊の薄まりや太平洋の中央付近にその中心を移すため乾燥化が進む。 
  3. ラニーニャ現象; エルニーニョ現象の逆。 ITCZに吹き込む東風が強まり、アジアモンスーンを刺激し、アジア地域に多雨な環境を形成する。
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  • いろいろな原因が考察されているが、地形学的、層序学的あるいは考古学的にも4.2kaイベントが世界に広く認められている事実がある (Weiss, 2012; Fig. 4)。 よって、4.2kaイベントをもってHolocene(完新世)の中期と後期の境界としたい。
 
  1. 北中米の広域にわたって4.2ka BPに厳しい乾燥化が記録されている;花粉・珪藻・testate amoebae(精巣アメーバ)群集・鍾乳石の安定同位体分析・砂丘解析。 この時期の乾燥化の進行は、また地中海、中東、紅海およびアラビア半島でも確認されている。
  2. アフリカおよび南米の熱帯~亜熱帯にかけての地域で4.0KaBPころに乾燥気候に移行していることが記録されている;①東西アフリカの湖沼堆積物に記録されている4.2ka BPころの乾燥化、② キリマンジャロの氷縞分析、③ 南米ペルーのNevado Huascara´n 氷河コア中のダスト含有量の増加、④ ペルー・チチカカ湖の珪藻堆積分析、⑤ 南東太平洋イースター島の湖沼堆積物に記録されていた4.5ka BP以降の乾燥化の記録。
  3. 中国における4.2ka イベントは、乾燥と、そして一見矛盾する大洪水として記録されている。インダス河デルタ地帯に記録された4000年BPの乾燥化。チベット高原の湖沼堆積物が示す4.0ka BPころの寒冷化。アラビア湾に4ka BPに記録された南アジアモンスーンの弱体化。 中国雲南省Dongge(ドンゲ)鍾乳洞およびインドMawmluh(マウムル)鍾乳洞の鍾乳石に記録された4.2ka BPころのモンスーン衰弱化。一方の台湾では東アジアモンスーンの盛行を示す古湿度の増加。
  4. オーストラリア北東の熱帯地域で記録された4.0ka BPの花粉分析で明らかにされたENSO主体の気候(Schulmeister & Lees, 1995)。 オーストラリアおよび南米南部における海洋および陸成物などの間接指標から『両地域の5千から3千年前におきた大きな気候変動は、ENSOの強い影響によって引き起こされたと結論(McGlone et al. 1992)。』 McGlone の主張は、他の研究結果によっても支持されている( e.g. McGlone and Wilmshurst, 1999; Gomez et al., 2004; Quigley et al., 2010)。 加えて、4.3ka 年前の南氷洋の寒冷化は、南オーストラリアの深海底堆積物コアの分析から明らかにされている (Moros et al., 2009)。 また、同様の寒冷期は、EPICA(European Project for Ice Coring in Antarctica)氷床コアの珪藻プランクトン分析からも報告されている (Masson-Delmotte et al., 2004).
  5. 4.2ka年前の気候変動は、北半球の中高緯度地域からも報告されている; 北西北米の太平洋側での chironomid(ユスリカ)群集の変化(Clegg et al., 2010)、 泥炭発生データ (Gorman et al., 2007) および泥炭層の加速レート(Yu et al., 2003)。 カナダユーコン準州ローガン山の氷河で観察された4.2ka年前の酸素18同位体含有量の急激な低下 (Fisher et al., 2008)と山岳氷河の後半にわたっての前進 (Menounos et al., 2008)。
  6. 4.2ka年前の寒冷・湿潤化はヨーロッパにおいても観察される ; ① 英国の泥炭層シークエンス (Hughes et al., 2000), Ireland (Barber et al., 2003)、 ② スカンジナビア半島でのユスリカ群集分析 (Korhola et al., 2002)、中央ヨーロッパの湖沼堆積物調査 (Magny, 2004)、 ③ 北部ロシアの珪藻プランクトン分析 (Laing & Smol, 2003)。 北東大西洋地域での4.2ka年前の寒冷化(デンマーク海峡 / Andresen and Bjo¨rck, 2005,  アイスランド / Larsen et al., 2012、 フェロー諸島@スコットランド北海上 (Andresen et al., 2005)。
  7. 4.2kaイベントは、文明へ大きな影響を与えた完新世の気候変動して注目されるべきもの; ① アッカド帝国(メソポタミア最古の帝国)の崩壊は急激な乾燥化によるもの (Weiss et al., 1993; De Menocal, 2001)、 ② エジプト古王国が崩壊し、次いで4.1ka年前ころに起こるナイル河の氾濫(Stanley et al., 2003)、 ③ 西パキスタン-北西インドのインダス谷に4ka年前におきた都市型ハラッパ文明から田舎的社会への移行は、アジアモンスーンの衰弱に伴う湿度の低下によりインダス河・サラバチ川の水量低下し乾燥化が進んだ結果生じた社会形態の変化 (Staubwasser et al., 2003)、 ④ イラク・シリア・パレスチナの降雨農耕地域での町や集落の放棄と、それに併行した遊動生活、川辺-湿地帯および湧水地での生き残りの記録 (Weiss, 2012)、 ⑤ 中国5000年後半前ころの乾燥化現象は、多くの新石器時代文化を終わらせた (Stanley et al., 1999; Wu & Liu, 2004; Gao et al., 2007; Liu et al., 2010)。 北部中国では、4.0ka年前頃農耕生活から牧畜生活へと移行した。一方、同刻揚子江-黄河中下流域では 4.0ka年以降、遺跡点数が急激に減少する (Liu & Feng, 2012)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上述した世界中で確認された4.2kaイベントより、完新世(Holocene)の中期と後期を分ける境界に、この4.2kaイベントを提案したい。