参照;羽状縄文系土器について

 

1. 黒浜式;

  • 縄文前期前葉(6,450 ~ 6,050年 calBP / 約400年間)の土器型式。

 

 

  • 1913年から1931年頃、大山史前学研究所が宿、新井、宿裏、炭釜屋敷の4貝塚を発掘調査し、出土した土器を「蓮田式」として取り上げ、その後、1935年に甲野勇によって、「蓮田式」の後半部分が黒浜式として提唱された(cf.甲野勇「関東地方に於ける縄紋式石器時代文化の変遷」『史前学雑誌』7-3)。

 

 

 

2. 標識遺跡;

  • 埼玉県蓮田市黒浜に所在する黒浜貝塚(国史跡指定)。
後方台地上に環状盛土遺構よりなる集落跡が確認された。
 
 
 
 
 
3. 黒浜式土器の特徴;
  • 黒浜式の土器は胎土に多量の繊維を含んでいる例が多いとされるが、諸磯式に近づくにつれて無繊維化する。繊維は焼成によって炭化し、断面は漆黒色を呈する。
  • 器形は、深鉢が主体。底部は平底か上げ底、口縁は波状のものと平縁のものとがあり、体部は直線的に立ち上がるもの、口縁部が外反し胴部が張り出すものがある。
  • 関山式と同様、この時期特有の羽状縄文が特徴的であるが、以下のような特徴もある;
  1. 文様は羽状や斜行縄文、ループ文などを地文とする。
  2. 沈線文も簡略化の傾向。
  3. 半裁竹管文(爪形文・コンパス文・他)や沈線文、貝殻文もみられる。

 

 

 

3-1. 土器編年;

  • 黒浜 1式・2式・3式に3細分される(約130年/段階)。

  • 5段階区分もあるが、3~4段階区分が近年用いられている。

 

 

 

3-1-① 黒浜 1式

  • 片口土器ループ文が施文される土器などの残存および前段階の系譜を引く鋸歯状文など、関山式からの系譜が強く残る。
  • 格子目文や横位展開施文など黒浜2式へとつながる土器も発生

 

黒浜 1式(中矢下遺跡 @飯能市 埼玉歴民) 幅の広い安定した底部から胴部が膨らみ、頸部の括れから4単位の波状口縁に向け若干の内彎を伴いながら開く器形。口頸部に貝殻を用いたと思われる沈線により菱形文を描出、口縁部に3条の半裁竹管を用いた爪形文が波状口縁に沿って施文されている。頸部にも爪形文が巡り胴部と区画している。胴部は菱形構成の羽状縄文で充填される。

 

 

 

黒浜 1式(貝塚山遺跡 @富士見市 水子貝塚資料館) ↑の中矢下遺跡 @飯能市出土土器とほぼ同じ器形、特徴を有する。口縁部に波状口縁に沿った半裁竹管による爪形文が3条施文、頸部に同様の爪形文7条が巡らされ、菱形を構成している。胴部に4列の菱形構成の羽状縄文。

 

 

 

黒浜 1式(黒浜貝塚 @蓮田市 蓮田市文化財展示室) 台付椀状の深鉢。4単位の波状口縁と平行した3条の半裁竹管による爪形文を巡らせている。 

 

 

 

黒浜 1式(宿上〈しゅくがみ〉遺跡 @蓮田市 蓮田市文化財展示室) 平底から胴部中央まで直線的に膨らみ、そこから頸部まで直線的に括れを作り、口縁に向けて再び開く細長の器形。縄文には同じ原体を用いているが、胴上半と下半では原体の回転方向が異なる。

 

 

 

黒浜 1式(炭釜屋敷貝塚 @蓮田市 蓮田市文化財展示室)  同6号住居址から出土。同一住居跡からは関山式も出土しており、過渡期の様相が窺える。

 

 

 

黒浜 1式(炭釜屋敷貝塚 @蓮田市 蓮田市文化財展示室) 鉢型土器。平縁に鋸歯状小突起が付く。口縁部に半裁竹管によるコンパス文が巡る。胴部上部および下部にループ文、胴部中央部に縄文と沈線による山形文が施文される。

 

 

 

3-1-② 黒浜 2式

  • 本格的な黒浜式土器の成立期
  • 器面全面へ菱形構成の羽状縄文が施文される。
  • 条方向に沿う爪形文が配される。
  • 轡(くつわ)菱形文の文様描出や従位区画の獲得による横位展開施文土器
  • 従位区画を持つ肋骨文系土器

 

黒浜 2式 (三ヶ尻林遺跡 7号住居址@熊谷市) 口径38.2cmの深鉢で、胴部下半を欠損するが、胴部はやや膨らむものと思われる。口縁部は内彎気味に開く。口縁部および胴部の括れ部分には半裁竹管による平行沈線が配されるが、胴部は不規則。口縁部の平行沈線内には等間隔に刺突列が配される。地文は菱形構成の羽状縄文が器面全体に施文される。

 

 

 

黒浜 2式 (三ヶ尻林遺跡 8号住居址 @熊谷市) 推定口径26.8cmの深鉢。口唇は平坦に整形され、小突起が4単位配される。胴部は僅かに張る。器面全面に横方向の施文による菱形構成の羽状縄文が付されている。

 

 

 

黒浜 2式 (三ヶ尻林遺跡 8号住居址 @熊谷市) 器面全面に横方向の施文による菱形構成の羽状縄文。

 

 

 

黒浜 2式 (三ヶ尻林遺跡 8号住居址 @熊谷市) 推定口径27.3cmの深鉢。口縁部は4単位の波状口縁で強く外反し、口唇は鋭角に整形される。口頸部文様帯は半裁竹管による平行沈線文によって文様構成される。口唇にほぼ並行して3~4本、口縁部および胴部は8~10本の半裁竹管による沈線で施文され、中央に4本1組の沈線による鋸歯状のモチーフが右~左へ施文される。文様帯下は横方向の回転施文で羽状縄文が施文される。

 

 

 

黒浜 2式(宿下遺跡 @蓮田市 蓮田市文化財展示館) 底部から直線的に開く器形。胴部上半は、2条の垂下沈線で従位区画された肋骨沈線文が描出される。胴部下半は、斜縄文が施される。

 

 

 

黒浜 2式(天神前遺跡 @蓮田市 蓮田市文化財展示館) 胴長で緩やかに膨らみ、頸部で若干括れてから口縁に向けて大きく外反する器形。 頸部に沈線による粗雑なコンパス文が施文。胴部は、4単位の垂下沈線で従位区画され、それらを矢羽根状沈線(肋骨文)で繋いでいる。

 

 

 

3-1-③ 黒浜 3式

  • 轡菱形文の爪形文間が磨消により、さらに強調。
  • 附加条縄文による網目状格子目状菱形状文様肋骨文も描出。
  • 後続する諸磯 a式へと続く系統もあり、各系統の識別が困難。(羽状縄文系の終焉と諸磯式土器に関する諸問題は今後も要検討)。

黒浜 3式(天神前遺跡 @蓮田市 蓮田市文化財展示館) 轡菱形文の爪形文間が磨消により、さらに強調されている。

 

 

 

黒浜 3式(天神前遺跡5号住居址 @蓮田市 蓮田市文化財展示館) 軸縄に順巻の附加縄とそれにクロスするように逆巻きに附加縄を巻き付けた縄文原体を使用することにより、格子目状、網目状の文様を描出。

 

 

 

黒浜 3式(天神前遺跡5号住居址 @蓮田市 蓮田市文化財展示館) 軸縄に附加縄を付け格子目状文様を施文。

 

 

 

黒浜 3式(天神前遺跡 @蓮田市 蓮田市文化財展示館) 軸縄に附加縄を付け格子目状文様を施文。