特別な力 | 天然記録

このエジプトの最高神官ってホントに神?と思う

 

4巻より

 

私(アナスタシア)の先祖の父は、エジプトの神官たちに秘密の一部を教えた。

そして今、今日に至っても、地上の国々の権力者たちは

その神官たちから得た社会体制の仕組で統治している。

統治する意味や仕組への正しい理解はだんだん薄れていて

その仕組みは完全なものになっていない。

それどころか時代を経て堕落している。

それ以降、統治の構造の本質に関わるようなものをもたらした人は誰もいない。

今日の地球上の国々は、人々の集団による統治の仕組について無知でいる。

 

何万年も前、世界がまだエジプトの偉大さを知る前

まだそのような『国』というものが存在しなかった頃

人々の社会はたくさんの部族に分かれていた。

ひとつの家族、私の先祖である父と母が

人間社会から離れて彼ら独自の決まりの中で暮らしていた。

すべてのものが、はじまりの時と同じように

楽園と同じように、彼らの草地で彼らを取り巻いていた。

美しい私の先祖のママチカには、二つの太陽があった。

ひとつは、日の出の光でみなの生命を目覚めさせるもの。

もうひとつは、彼女が選んだ人だった。

 

 

その頃地上では、部族同士が敵対していた。

そして各部族がより多くの戦士を育てることに躍起になっていた。

そして戦士の中では、農耕や詩文にふける者はみっともないとみなされていた。

各部族には神官がいた。

彼らは人々を脅したいと欲していた。

しかし明確な目的は持っておらず、脅すこと自体が彼らの慰めとなっていた。

そして神官たちそれぞれが、まるで自分が神から人より多く

授かっているかのような思いで自尊心を満足させていた。

 

私の先祖の父は、いくつかの部族から詩人や神官たちを集めることができた。

全員で19人、11人の詩人歌手と7人の神官、そして私の父。

人里離れた砂漠のようなところにみんなが集まった。

歌い手たちは控えめに座っており、神官たちは尊大に一人ずつ座していた。

私の先祖が彼らに言った。

部族の対立と戦いを止めることができる。

民は統一された国で暮らすようになるのだ。

その国の統率者は公正な者で

すべての家族が戦争の不幸から抜け出す事ができる。

人々は互いに励まし合うようになる。

人々の共同体は、原初の園への道を見つけるだろう。

 

しかし、彼の事を初め神官たちは嘲笑い、彼に言った。

自分の権力をすすんで他人にくれてやる者などいるものか!?

すべての部族をひとつに束ねるには、最も強い者とならねばならず

他の部族に勝たなければならないというのに

お前はいかなる戦いもせずこれを行いたいと言う。

お前の話は幼稚なものだ。

なんの為に我々を呼び集めたのだ?物の分からぬさすらい人よ。

 

そして神官たちはその場を去ろうとした。

父は、次のような言葉で彼らを引き止めた。

あなた方一人ずつに与えることができる。

人間の手で作られたどんな武器もあらがう事のできない力を。

善のためにその力を使う時、その力はみんなが目的へ

真理へ、幸福の高みへたどり着くための助けとなる。

その力を持つ者が、善良でない目論見のために

人々と闘おうとする時、自身が死を遂げる。

 

特別な力の話は神官たちを立ち止まらせた。

年長の神官が父に提案した。

お前がその特別な力を知り得ているのであれば、我々に聞かせよ。

その力に実際に国を造る力があるのなら

我らの中に残り、その国に生きよ。

我らで共に社会の法を作ろうではないか。

 

私はその為にあなた方の所へ来たのだ。特別な力のことを話すために。

しかしその前に、あなた方に、あなた方が知る人の中から統治者を挙げてほしい。

善良で、欲張りでなく、自身の家族との愛の中で生き、戦争を考えない統治者を。

 

一人の年老いた神官が父に答えて

すべての会戦を回避している統治者が一人いると言った。

しかし、彼の部族は人数が少なく、戦士を褒め讃えようとはしない。

それゆえにその部族では戦士になろうとする者が少ないのだ。

会戦を避けるために、彼らは頻繁に住処を転々とし

遊牧をせねばならず、生活に適した場所を他の部族に残し

農耕に適さない土地に住み着かなければならなかった。

その統治者はエジプトを呼ばれている。

 

その国はエジプトと呼ばれるだろう。

3つの詩をあなた方に歌おう。

あらゆる部族の詩人歌手(うたいて)の皆よ、この詩を民に歌い聞かせてほしい。

そしてあなた方神官は、エジプトの人々の中に移り住むのだ。

あなた方の所へあらゆる所から家族が訪れるだろう

彼らをあなた方の善良なる法で迎えるのだ。

 

父の3つの詩を集まった者たちに歌った。

ひとつの詩の中で彼は公正な統治者のイメージを創造し

彼をエジプトと名づけた。

もうひとつは幸福な人々が共に暮らす社会のイメージだった。

そして3つ目の詩には温かい愛に満ちた家族のイメージ

幸せな子どもたち、父親、母親があり

それらすべての人々が彼らの特別な国で暮らしている様子を描き出した。

 

これらの3つの詩は、普通の

すべての人々が慣れ親しんでいる言葉で歌われていた。

詩の言葉によって、聞いている者が息をひそめて聞き入るように

フレーズが組み立てられていた。

さらに父の歌声を通して詩の調べが響きわたった。

メロディが呼び、惹きつけ、魅了し、命を宿したイメージを創り出したのだった。

 

現実にはエジプトという国はまだ実在しておらず

神殿も立ち並んでいなかったけれど、父は知っていた。

人が意識をし、夢を描き、それがひとつに合わさり

求めることによりすべてが現実となることを。

そして私たちの偉大なる創造主によって

一人ひとりにその不思議な力が与えられていることを

知り尽くした父は全霊を込めて歌った。

その力を持つ父は歌った、その力が人間をすべてのものと区別し

その力がすべてのものに対しての権限を人間に与え

その力が人を神の子、そして創造者と言わしめることを。

 

うたいてたちはインスピレーションに燃え

その3つの詩をあらゆる部族の中で歌った。

美しいイメージは人々を惹きつけ

そして人々はあらゆる所からエジプト族の所へと歩いた。

5年の間に、小さな部族だったものからエジプト国が生まれた。

他の部族より偉大だとされてきた残りの部族は

いとも簡単に崩壊してしまった。

そして好戦的な統治者たちは、その崩壊の前に何もすることはできなかった。

彼らの権力は衰え、そして消えていった。

 

何かが彼らに勝利していたのだが、それは戦争による勝利ではなかった。

実体において戦うことに慣れていた人たちは知らなかった。

人々の魂が好むイメージが、心を捉えるイメージが

何よりも強いものであるということを。

例えたったひとつのイメージであっても、それが誠実で

計算高さのない、曇りなきものであれば

イメージの前では槍や他の殺人兵器で武装した地上の軍隊は

役に立たないものであり敗北する。

イメージの前では軍隊は無力なもの。

エジプトの国は強固になり、拡大していった。

 

神官たちはその統治者をファラオと名づけた。

世間の雑事から離れ神殿に隠居した神官たちが法を作り

統治者であるファラオはそれに従わなければならなかった。

そして平民たちはみんなが望んで法を遵守した。

そしてみんながそのイメージに等しい生活を送ることを目指した。

主神殿の中で最高神官たちと私の父は住んでいた。

19年間神官たちは彼に耳を傾けていた。

すべての学問のうちの最高の学問である

偉大なイメージを創り出す方法を希求した。

 

私の父は善良な意図に燃えながら、誠実に話聞かせることに努めていた。

神官たちがすべての技術またはその一部を知ったのかは今となってはわからない。

19年後のある日のこと、最高神官が自分の側近の神官たちを集めた。

彼らはファラオにさえ出入りが許されてない主神殿に厳粛に入ってきた。

最高神官は玉座に座し、他の神官たちは低い所に座った。

父は神官たちの中に微笑んで座っていた。

全意識は瞑想の中に入っていて、これまでのように詩を紡いでいた。

新しいイメージを描いていたのか、古いものを強固にしていたのか。

 

最高神官は集まった者たちに言った。

我らは最高の学問を知った。

これは全世界を治めることを可能にするものだ。

しかし我らの権力が永遠にみなの上にあらんために

この学問の知識をこの壁の外へは微塵も出してはならぬ。

我らだけが話し理解できる言語を作り

我らの間ではその言語で話すことが必要なのだ。

我らの中のどの者も、不意に話してしまうことができないように。

多くの教義や思想を、何世紀にもわたり多くの言語で民衆に放つのだ。

人々を驚かせ、我らが何を述べているかを考えさせよう。

そして多くの驚異的な学問と様々な発見を述べるのだ

平民たちや統治者たちを、最も重要なことから徐々に遠ざけるために。

未来の博学な者たちは、理解しがたい思想や学問で驚嘆させておけばよい。

それにより彼ら自らが最も重要なことから離れていき

他の者たちをも一緒に遠くへ連れ去っていくのだ。

 

最高神官にみんなが賛同した。父一人だけが黙っていた。

もう一つの問題を、我らは早急に解決しなければならない。

19年間、我らはイメージが創られる方法を究めてきた。

今や我ら全員がイメージを創造することができる。

世界を変え、国を破壊し、または強固にするイメージを。

しかしながら、やはりまだ謎が残っている。

この中で、なぜイメージの力において

一人ずつが異なっているのかを答えられる者があるか?

そしてなぜ時間において、創造にこれほど長くかかるのかを?

 

神官たちは黙っていた。

誰も答えを知る者はいなかった。

最高神官は続けた、ほんの少し声を張り上げて。

そして最高神官がみんなに向け話している間

彼の手の錫杖は緊張に震えていた。

ところが、我らの中に一人、たちどころにイメージを創造できる者がいる。

そしてそのイメージの力は比類ないものだ。

我々は彼に19年間教えられてはいるものの

最後まで教えられていない。

我々が平等ではないという事を、我らは今理解しなければならない。

誰がどの地位であるかは問題ではない。

我らの中に一人、密かに見えぬ方法で

皆を支配しかねない者がいるということを皆が知るべきである。

彼はイメージの力で自在に創造し、誰をも賛美し、または殺すこともできる。

一人で国の運命を決定することもできるのだ。

私は最高神官であり、私に与えられた権力を行使し

力の関係を変えることができる。

我らが今座っている神殿の扉は閉められた。

外では信頼に足る護衛が、私の命令なしには誰にも扉を開けぬよう立っている。

 

最高神官は王座から立ち上がり

ゆっくりと床の石板を錫杖で鳴らしながら踏み出し

父の方へ歩き、広間の中央で突然立ち止ると、父に目を向けて言った。

今、お前は2つの道から選ぶのだ。まずひとつ。

今、皆にお前のイメージの力の秘密を明かすのだ

どのようにそして何によって創り出されるのか。

そうすればお前を私に次ぐ第二神官に命名し

私が退くときに最高神官とすることを宣言しよう。

お前の前では生きる者すべてがひれ伏すだろう。

しかし、もしもその秘密を我らに明かさないのであれば

お前にあるのは2つ目の道だ。その道は、この扉だけにつながっている。

 

神官は扉を指さした。

広間から、窓も外への出口もない塔へと続く扉だった。

滑らかな壁面を持つ高い塔の上には展望台があり

そこで1年に1度の定められた日に

集まった民を前に父や他の神官が詩を歌っていた。

最高神官は父にその塔へと続く扉を指しながら、付け加えた。

 

お前がこの扉をくぐれば、2度とそこから出られはしない。

私はこの扉を塞ぐ命令を下し、小さな窓だけを残すようにさせる。

そこからお前は日々最低限の食物を得るのだ。

時が来て民が塔の前に集まる時、お前は展望台に出て彼らに姿を見せる。

しかし歌ってはならない。イメージを創ってはならない。

お前が出るのは、民がお前の姿を見ないことにより

不安を抱かないようにするためで

そしてお前が消えたなどという曲解が起きぬためだ。

お前ができることは民を言葉で歓迎するだけである。

お前が敢えてひとつでも創造の詩を歌えば3日間食べ物と水を絶つ。

2つの詩を歌えば、6日間食べ物も水も受け取ることはできない。

すなわち自ら死を示すことになる。

さて、決めるがよい。道は2つ。どの道を選択するかはお前が決めることだ。

 

父は落ち着いて自分の座っているところから立ち上がった。

彼の顔には、恐怖も非難もなかった。

ただほんの少しだけ、悲しみが小さなしわにうっすらと見て取れた。

彼は同じ列に座る神官たちの間を通り過ぎながら一人ひとりの目をみた。

そして一人ひとりの目の中に、知識への渇望をみた。

知識、しかし彼らの瞳の奥には強欲もあった。

父は最高神官のすぐ前に詰め寄り、彼の目をみつめた。

白髪の神官は、その厳しく強欲に燃えた目を父の眼差しからそらすことなく

錫杖で石板を打ち、厳しい口調で父の顔に向かって唾を飛ばしながら繰り返した。

早く決めぬか、2つの道のうちどちらの未来を選ぶのだ。

 

父は怖れることなく、穏やかに答えた。

運命の意志に従い、私にひとつ半の道を選ばせてはもらえないだろうか。

ひとつ半とはどういうことだ?

お前は私を嘲笑おうというのか、今この主神殿にいる全員を?!

父は扉の方へ、塔へ続く扉の方へ近づき、そして振り返ってみんなに答えた。

信じてほしい。あなた方を侮辱して笑うなどという思いすら私には浮かばなかった。

あなた方の意志に従い、私は永遠にあの塔の中へと去る。

去る前にあなた方に秘密を明かそう、私ができる、知っている限りを。

私の答えは2つ目の道にはならない。

だからこそ、私が選んだのはひとつ半の道であるのだ。

ならばさっさと言え!引き延ばすな

その場から立ち上がった神官たちの声が、丸天井の下で響いた。

秘密はどこだ?

 

それは卵の中だ。

答えはゆったりと響きわたった。

卵の中だと?どんな卵か?何のことを言っている?説明せよ。

集まった者たちが口々に問いかけ、彼はそれらに答えを与えた。

鶏の卵は鶏のひなになる。アヒルの卵はアヒルの子を生む。

鷲の卵は世に鷲をもたらす。あなた方が自分を何者だと感じるか

それがあなた方から生まれる。

私は感じる!私は創造者である!

最高神官が突然大声で叫んだ。

教えよ、誰よりも強いイメージを創るにはどうするのか?

あなたは嘘を口にした。

父は神官に答えた。

自分の言った事を自分で信じていない。

どうしてお前にわかり得よう、私の信念がどれほど強いかを?

創造者は決して求めることはしない。

創造者は自分で与えることができるのだ。

求めているあなたは、すなわち不信の殻の中にある……

 

父は去った。後ろで扉が閉まった。

その後、最高神官の命令に従い入口は塞がれた。

小さな穴から、1日1回食べ物が父に与えられた。

その量はわずかなもので、水が十分に与えられるのも毎回ではなかった。

一方、新しい詩と説話を聞くために

塔の前に民衆が集まる日が近づくと

3日間父には食べ物が与えられず、水だけが与えられた。

最高神官が当初の命令を変えて、そのように命令していた。

父を弱らせ、新しい創造の詩を集まった民のために歌えなくするために。

 

多くの民が塔の前に集まった時、父は民の方へと展望台に出た。

彼は待ちわびた群衆を朗らかに微笑んでみていた。

人々に自分の運命のことは一言も語ることなく、ただ、歌いだした。

詩は歓喜にあふれた声で広がり、特別なイメージを型どった。

集まった民は彼の声に耳を傾けた。

詩が終わると、父はすぐに新しい詩を歌い始めた。

塔の上に立った歌い手は1日中歌った。

日没に近づくと、彼は聴衆に言った。

新しい日の出とともに、あなた方には新しい詩が聞こえるだろう

そして集まった人々のために父は2日目も歌った。

牢の中の歌い手が、神官たちから

水さえももらってないことを民は知る由もなかった。