ほどよいローカル立地にある、

老舗居酒屋。

 

焼とりの注文のみ、

自分で用紙に書くスタイルを採用している。

 

何十年と営業している

お店なので、

 

お店の人も年をとれば、

お客さんも年をとる。

 

ゆえに、卓上の注文用紙のところに、

しっかり老眼鏡が用意されている。

 

お店はご夫婦

プラス1人で切り盛りしており、

 

最初は「娘さんかな?」と思ったが、

関係性にちょっと遠慮がある。

 

ということは、パートの人?

そんな推測をしてみる。

 

ご夫婦の方は多分、

70代くらい。

 

いや、商売をしてる人って、

シャキシャキしていて、

 

むちゃくちゃ若く見えるから、

80代の可能性だってある。

 

焼とり以外の料理やドリンクは、

直接、注文するのだが、

 

注文を受ける

“お母さん”の反応を見ていると、

 

「少し耳が遠いのかな?」

と感じる時がある。

 

お客さんもそういうのを

気遣いながら注文するため、

 

店内には何とも言えない

優しい雰囲気が漂っている。

 

例えば、カウンター席のとある常連さんは

注文の際に大きな声で、

 

「きれいな人ー」と、

毎回、大きな声で語りかけている。

 

すると、

お母さんが

 

そのつどハッと気づいて手を挙げ、

「ハイッ!」と返事をする。

 

おそらく、長年続いている

おなじみの光景なのだろう。

 

客商売の原点を見ているようで、

「なんかいいよね」と思った。

 

こんな感じで、年齢以上に

シャキッとしているお母さんだが、

 

時々、テンパって

余裕がなくなる時がある。

 

調理をしているお父さんが、

「料理が上がったよ!」と声をかけると、

 

タイミング悪く、

会計をしてたお母さんが、

 

「ちょっと待って!!」と

きつめの返事をする。

 

一瞬、店内の空気が

重くなりかけたその時、

 

カウンター席の常連さんが、

間髪入れず絶妙な間合いで、

 

「プレイバック、プレイバック」と

ハモりだす。


さらに、お父さんもひと呼吸おいて、

「プレイバッ〜ク」と続く。

 

老舗だからしっくりくる、

昭和のヒット曲の一節。

 

不思議なことに、この“合いの手”が

すべてをなかったことにして、

 

店内の雰囲気を、

先程までの優しいものに戻した。

 

それにつられて、

テンパったお母さんの顔も、

 

先程までの優しい表情に

ゆるりと戻った。

 

まさに、絶妙のタイミングの

“愛の手”だ。

 

これもまた、長年続いている、

おなじみの光景なのだろう。

 

店に歴史あり。

 

次はぜひとも、その歴史の一端に、

ちょいと加わりたいものだ。

 

特に何かが

あったわけではないが、

 

心の中では特別な何かを

感じることができた。

 

通いたくなるお店には、

すべてを“飲み込む”優しさがある。

 

そう、

普通にいい店、強い店。

 

優しさは、強さだ。