宅地建物取引業者の説明義務1 第1章 総論 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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第1章 総論

 

 不動産仲介業者は、宅地建物取引業法に定めるところに従い、国土交通大臣(旧・建設大臣)または都道府県知事の免許を得なければならず(同法3条)、その業者が自ら宅地建物取引主任者でないときは、事務所には宅地建物取引主任者を置かなければならず(同法15条)、宅地建物取引主任者になるためには所定の試験に合格し(同法16条)、専門的知識を有していなければなりません。そして、不動産仲介業者は法律行為をなすことの委託を受けるのではないから、依頼者と仲介業者間の関係は委任契約ではなく(民法643条)、準委任契約です(同法656条)。したがって、仲介業者は善管注意義務を負います(同法644条)。

宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義誠実に業務を行なわなければなりません(31条1項)。

宅地建物取引業者には、重要事項の説明義務があります(宅地建物取引業法35条1項)。

宅地建物取引業者は、業務に関して、相手方等に対し、宅地・建物の売買・交換・貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、または、契約の申込みの撤回・解除もしくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、故意に事実を告げず、または、不実のことを告げる行為をしてはなりません(47条1号)。

 

 不動産仲介契約の性質は一般に準委任と解されており(幾代通・判評26号6頁、明石三郎『不動産仲介契約の研究』2頁、佐藤栄一『民事実務ノート3巻』95頁、最判昭和44年6月26日民集23巻7号1264頁)、善管注意義務があるのは当然であるが(民法644条)、このほかに(1)誠実義務)であるとの説と(ドイツ民法654条)、(2)民法1条の信義則で足るとの説があります(海老塚・判タ136号3頁以下、明石・前掲203頁)。

これとも関連して、取引当事者の処分権限の調査義務につき、(イ)調査義務を負わず、仲介人は特に保証した事項以外は、一般的推奨とか、相手方の言をそのまま伝えたことにつき責任を負わないとの消極説(ドイツの通説)、(ロ)不動産仲介につきこの調査義務を認める積極説がある(中川『注釈民法(16)』176頁、明石・前掲203頁、同・判評190号127頁)。

 判例は(1)の信義則説に基づき(ロ)の積極説をとっており、最高裁判例は「不動産仲介業者は、信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務がある」と論じ、業者が立会人として署名捺印した場合でも調査義務があると判示しています(最判昭和36年5月26日民集15巻5号1440頁)。

宅建業法は、宅建業者に対し、各種の業務上の禁止規定・義務規定を設けており(宅建業法32条以下)、これらの規定は、善管注意義務の重要な具体的内容をなすものと解されています(塩崎勤「宅地建物取引業者の責任」川井健=塩崎勤編『新・裁判実務大系(8)専門家責任訴訟法』166頁~167頁)。

不動産売買において仲介人または売主たる宅地建物取引業者の説明義務が問題とされた事例は多く、仲介の場合には受任者としての善管注意義務あるいは宅建業法31条の趣旨や35条の重要事項の説明義務などを理由に債務不履行責任(東京地八王子支判昭和54年7月26日判時947号74頁、東京地判昭和59年12月26日判時1152号148頁など)、または不法行為責任(最昭和36年5月26日民集15巻5号1440頁、最昭和55・6・5判タ606号15頁、大阪高判昭和58年7月19日判時1099号59頁など)が認められており、売主である場合には売買契約に附随する義務として重要事項を説明すべき義務があるとして、その不履行につき債務不履行責任が認められている(東京高判昭和52年3月31日判タ355号283頁、大阪高判昭和58年7月19日判時1099号59頁、東京高判平成2年1月25日金判845号19頁など)。

 なお、従来の裁判例は、明石三郎『不動産仲介契約の研究』202頁以下及び西垣道夫「宅地建物取引業者の取引と不法行為」NBL208号32頁以下を参照。

 不動産仲介業者の業務上の注意義務については最判昭36・5・26(民集15巻5号1440頁)が「宅地建物取引業者は直接の委託関係はなくても、業者の介入に信頼して取引するに至った第三者に対して、信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務がある。」と判示しているが、学説においても、専門業者としての高度の注意義務があるとする点で異論はありません(我妻『債権各論中(2)』673頁、河田貢「不動産仲介業者の責任」『裁判実務大系(11)』426頁、佐藤良雄「宅地建物取引業者の注意義務」不動産法大系I 545頁、西垣道夫「宅地建物取引業者の取引と不法行為(上)(中)」NBL208号・210号、明石三郎『不動産仲介契約の研究』202頁、同「不動産仲介契約の総合的判例研究(6)」判評190号124頁、来栖『契約法』567頁)。

 宅建業者の注意義務についての参考文献として、小島浩「宅地建物取引業者の注意義務」小川英明=長野益三編『現代民事裁判の課題(1)不動産取引』655頁、河田貢「不動産仲介業者の責任」塩崎勤編『裁判実務大系(11)不動産訴訟法』424頁、安田実「宅建業者の不法行為責任」山口和男編『裁判実務大系(16)不法行為訴訟法(2)』376頁などがあります。

 瑕疵担保責任の参考文献として、田中治「瑕疵担保責任」澤野順彦編『現代裁判法大系(2)不動産売買』126頁、草野芳郎=樋口英明「損害賠償の範囲」小川英明=長野益3編『現代民事裁判の課題(1)不動産取引』317頁などがあります。

 説明義務・情報提供義務をめぐる判例と理論については、中田裕康ほか編『説明義務・情報提供義務をめぐる判例と理論』判タ1178号を参照。

 

 なお、仲介業者(宅建業者)は、鑑定・評価人ではないのであるから、隠れた瑕疵の有無などにつき、原則として調査・鑑定の義務はないと解する見解があり(明石三郎『不動産仲介契約の研究』210頁~211頁)、裁判例は、瑕疵について知っていたか、または、認識可能であったことを理由としています。