従業員の横領行為による損失について,損害発生時の事業年度における損金算入を認めないでされた法人税 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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従業員の横領行為による損失について,損害発生時の事業年度における損金算入を認めないでされた法人税等の更正が,適法とされた事例

 

 

              法人税更正処分等取消請求控訴、同附帯控訴事件

【事件番号】      大阪高等裁判所判決/平成10年(行コ)第67号、平成11年(行コ)第61号

【判決日付】      平成13年7月26日

【判示事項】      1 従業員の横領行為による損失について,損害発生時の事業年度における損金算入を認めないでされた法人税等の更正が,適法とされた事例

             2 法人税等の申告時に総勘定元帳や決算書類等に課税要件事実の仮装,隠ぺいがあるとしてされた重加算税賦課決定処分につき,同仮装,隠ぺいは横領行為をした従業員が,同行為の発覚を妨げるため行ったものであり,前記申告をした法人が仮装,隠ぺいを行ったと評価することはできないから同処分は違法であるなどとしてされた同処分の取消請求が,棄却された事例

【判決要旨】      1 従業員の横領行為による損失について,損害発生時の事業年度における損金算入を認めないでされた法人税等の更正につき,法人税法は原則として権利確定主義を採っているものと解されるから,横領により損失が発生したとしてもこれと同額の損害賠償請求権を取得することになるため,原則として所得金額に変動を生じないことになるとした上,前記従業員に対する損害賠償請求権が当該事業年度において回収不能であることが明らかであったとはいえず,また,権利確定主義の例外を定めた法人税法基本通達2-1-37(平成12年課法2-7による改正前)が適用されるためには,「他の者から支払いを受ける損害賠償請求権」という限定が付されているところ,前記従業員は当該法人の重要な経理帳簿の作成をほぼすべて任され,その経理処理が同法人の処理と受け取られても仕方ない状況にあったから,前記「他の者」に該当するとみることも困難であって,前記通達の規定が適用されないから,当該事業年度に前記横領に伴う損害賠償請求権は益金に計上すべきであり,所得金額に変動をきたさないとして,前記更正を適法とした事例

             2 法人税等の申告時に総勘定元帳や決算書類等に課税要件事実の仮装,隠ぺいがあるとしてされた重加算税賦課決定処分につき,同仮装,隠ぺいは横領行為をした従業員が,同行為の発覚を妨げるため行ったものであり,前記申告をした法人が仮装,隠ぺいを行ったと評価することはできないから同処分は違法であるなどとしてされた同処分の取消請求につき,国税通則法68条1項の趣旨は,加算税を課すべき過少申告行為が課税要件事実の仮装,隠ぺいという手段で行われた場合に,違反者に行政上の制裁として重加算税を賦課することにより,申告納税制度の適正円滑な運営を図る法技術上の制度であるから,納税者において仮装,隠ぺいした事実に基づき申告するという認識を要さず,結果として過少申告の事実があれば足りるものと解されるとした上,前記法人は,前記従業員が作成した経理帳簿等に基づき作成された前記総勘定元帳等で申告を行ったところ,経理帳簿等に虚偽の記載が存在したため,客観的にみて,同法人が仮装,隠ぺいの事実に基づく申告をしたことになったのであるから,重加算税賦課の要件を満たしているとして,前記請求を棄却した事例

【参照条文】      国税通則法68

【掲載誌】        訟務月報48巻10号2567頁

             判例タイムズ1072号136頁

             税務訴訟資料251号順号8954

 

国税通則法

(重加算税)

第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

2 第六十六条第一項(無申告加算税)の規定に該当する場合(同項ただし書若しくは同条第九項の規定の適用がある場合又は納税申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

3 前条第一項の規定に該当する場合(同項ただし書又は同条第二項若しくは第三項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者が事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかつたときは、税務署長又は税関長は、当該納税者から、不納付加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る不納付加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を徴収する。

4 前三項の規定に該当する場合において、次の各号のいずれか(第一項又は前項の規定に該当する場合にあつては、第一号)に該当するときは、前三項の重加算税の額は、これらの規定にかかわらず、これらの規定により計算した金額に、これらの規定に規定する基礎となるべき税額に百分の十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。

一 前三項に規定する税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されたものに基づき期限後申告書若しくは修正申告書の提出、更正若しくは決定又は納税の告知(第三十六条第一項(第二号に係る部分に限る。)(納税の告知)の規定による納税の告知をいう。以下この号において同じ。)若しくは納税の告知を受けることなくされた納付があつた日の前日から起算して五年前の日までの間に、その申告、更正若しくは決定又は告知若しくは納付に係る国税の属する税目について、無申告加算税等を課され、又は徴収されたことがある場合

二 その期限後申告書若しくは修正申告書の提出又は更正若しくは決定に係る国税の課税期間の初日の属する年の前年及び前々年に課税期間が開始した当該国税(課税期間のない当該国税については、当該国税の納税義務が成立した日の属する年の前年及び前々年に納税義務が成立した当該国税)の属する税目について、特定無申告加算税等を課されたことがあり、又は特定無申告加算税等に係る賦課決定をすべきと認める場合