石川銀行事件・銀行がした融資に係る頭取らの特別背任行為につき,当該融資の申込みをしたにとどまらず | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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石川銀行事件・銀行がした融資に係る頭取らの特別背任行為につき,当該融資の申込みをしたにとどまらず,その実現に積極的に加担した融資先会社の実質的経営者に,特別背任罪の共同正犯の成立が認められた事例

 

              商法違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷決定/平成18年(あ)第2030号

【判決日付】      平成20年5月19日

【判示事項】      銀行がした融資に係る頭取らの特別背任行為につき,当該融資の申込みをしたにとどまらず,その実現に積極的に加担した融資先会社の実質的経営者に,特別背任罪の共同正犯の成立が認められた事例

【判決要旨】      銀行がした融資に係る頭取らの特別背任行為につき,当該融資の申込みをしたにとどまらず,融資の前提となるスキーム(判文参照)を頭取らに提案してこれに沿った行動を取り,同融資の担保となる物件の担保価値を大幅に水増しした不動産鑑定書を作らせるなどして,同融資の実現に積極的に加担した融資先会社の実質的経営者は,上記特別背任行為に共同加功をしたということができる。

【参照条文】      商法(平17法87号改正前)486-1

             刑法60

             刑法65

             刑法247

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集62巻6号1623頁

 

 本件事案の概要は次のとおりである。本件ゴルフ場を経営していたE社は,ゴルフ場造成工事を行ったG社に対し多額の工事請負代金債務等を負担しており,ゴルフ場会員権の販売やゴルフ場の経営も思わしくなく,実質的に経営が破綻した状態であった。E社の代表取締役であった被告人は,自己の支配する企業が,石川銀行から融資を受けて,E社から本件ゴルフ場を買い取った上,G社に相当額を支払ってE社に対する債権を譲り受ける形を取るなどして,E社の債務圧縮を実現するスキームを石川銀行のD頭取らに提案した。そして,このスキームに沿った行動を取り,具体的には,G社との債権譲渡の交渉を進めさせ,不動産鑑定士に指し値で本件ゴルフ場の担保価値を67億円余とする水増しした不動産鑑定書を作らせ,被告人が実質的経営者である本件ゴルフ場の譲渡先となるC社を新たに設立した上,石川銀行の頭取Dらと融資の条件について協議するなどして,本件融資の実現のために行動した。その結果,E社とC社との間で,C社が本件ゴルフ場を譲り受ける旨の売買契約が締結され,また,E社はG社に対する合計約156億円の債務のうち,17億円を支払い,G社はE社に対する債権の残額を300万円で譲渡するなどの合意が成立した。そして,上記17億円の支払等に充てるために,石川銀行は,C社に対し,本件ゴルフ場の代金の支払い名目で,本件ゴルフ場を担保に57億円の融資を実施した。

 ところで,本件ゴルフ場の担保価値は十数億円程度にすぎず担保として不十分であり,また,本件ゴルフ場の経営状態は劣悪な状況にあり,本件融資金の返済が可能であったとは到底いえない状況にあった。本件57億円の融資は,石川銀行の頭取であるDらの任務に違背してなされたものであり,また,本件融資が焦げ付き必至であることを認識しながら,自己保身やE社の利益のためになされたものであり,石川銀行の頭取Dらの特別背任行為に当たるものであった。

 

 

刑法

(共同正犯)

第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

 

(身分犯の共犯)

第六十五条 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。

2 身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。

 

(背任)

第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

会社法

(取締役等の特別背任罪)

第九百六十条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 発起人

二 設立時取締役又は設立時監査役

三 取締役、会計参与、監査役又は執行役

四 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者

五 第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項又は第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、会計参与、監査役、代表取締役、委員(指名委員会、監査委員会又は報酬委員会の委員をいう。)、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者

六 支配人

七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人

八 検査役

2 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は清算株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該清算株式会社に財産上の損害を加えたときも、前項と同様とする。

一 清算株式会社の清算人

二 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された清算株式会社の清算人の職務を代行する者

三 第四百七十九条第四項において準用する第三百四十六条第二項又は第四百八十三条第六項において準用する第三百五十一条第二項の規定により選任された一時清算人又は代表清算人の職務を行うべき者

四 清算人代理

五 監督委員

六 調査委員