泉佐野市ふるさと納税地方交付税事件・地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けること | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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泉佐野市ふるさと納税地方交付税事件・地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けることができるか否かに関する紛争は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらない。

 

 

特別地方交付税の額の決定取消請求控訴事件

【事件番号】      大阪高等裁判所判決/令和4年(行コ)第53号

【判決日付】      令和5年5月10日

【判示事項】      地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けることができるか否かに関する紛争は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらない。

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      税78巻8号80頁

 

裁判所法

第三条(裁判所の権限) 裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

② 前項の規定は、行政機関が前審として審判することを妨げない。

③ この法律の規定は、刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。

 

 

       主   文

 

 1 原判決を取り消す。

 2 被控訴人泉佐野市の訴えをいずれも却下する。

 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人泉佐野市の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 (主位的)

   被控訴人泉佐野市の訴えをいずれも却下する。

 3 (予備的)

   被控訴人泉佐野市の請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要

 1(1) 被控訴人泉佐野市は、総務大臣から、令和元年12月、令和元年度の第1回目の特別交付税の額の決定を受け、令和2年3月、令和元年度の第2回目の特別交付税の額の決定を受けた(以下、併せて「本件各決定」という。)。

    本件は、被控訴人泉佐野市が、控訴人国に対し、次の①のとおり主張して、②の各請求をする事案である。

   ① 令和元年度における市町村に係る特別交付税の額の算定方法の特例を定めた、特別交付税に関する省令附則5条21項(令和2年総務省令第111号による改正前のもの。以下同じ。)及び同附則7条15項(令和2年総務省令第12号による改正前のもの。特に断らない限り、以下同じ。以下「本件各特例規定」という。)は、いわゆるふるさと納税として地方税法37条の2及び同法314条の7の規定により個人の都道府県民税及び市町村民税(個人住民税)の特例控除の対象となる寄附金(ふるさと納税寄附金)に係る収入が多額であることをもって、特別交付税の額を減ずるものであって、地方交付税法(昭和25年法律第211号)の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であるから、本件各特例規定に基づいて被控訴人泉佐野市に対して交付する令和元年度の特別交付税の額を算定した本件各決定は違法である。

   ② 本件各決定の取消しを求める。

  (2) 原審は、被控訴人泉佐野市の請求をいずれも認容し、控訴人国が本件控訴を提起した。

 2 関係法令の定め、前提事実(当事者間に争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3で「当審における控訴人国の補充主張」を、後記4で「当審における被控訴人泉佐野市の補充主張」をそれぞれ付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の1ないし4のとおり(なお、同第2の4(1)については、原審中間判決における当事者の主張のとおり。)であるから、これを引用する。

  (1) 原判決15頁3行目の「26日」を「6日」と、同頁11行目の「会計年度独立の原則、に反して」を「会計年度独立の原則に反して」と各改める。

  (2) 原判決17頁20行目から同頁21行目の「競馬」を削除する。

  (3) 原判決24頁14行目の冒頭から同頁16行目の末尾までを「b 地方交付税法15条1項の文理」と、同頁26行目の「すなわち、」を「また、同項のうち、「なお、普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる地方団体に対して」特別交付税を交付すると定める部分について、「普通交付税の額」が「財政需要」に比して過少である場合とは、地方団体の財政需要を普通交付税で賄うことができない状態にあることを指すのが文理として自然であり、換言すれば、地方団体の財政収入額に普通交付税の額を加えた合計額によって地方団体の財政需要額を満たすことができない場合に初めて特別交付税を交付する必要が生じるというのが、同部分の文理と解される。したがって、」と各改める。

  (4) 原判決25頁9行目の「上記bのような」から同頁11行目の「趣旨」までを「上記bのような地方交付税法15条1項の文理」と改める。

 3 当審における控訴人国の補充主張

  (1) 訴訟要件(法律上の争訟性、行政処分性及び訴えの利益)について

   ア 我が国の憲法が統治制度として定める「司法権」(憲法76条1項)とは、国民個人の権利の保護救済を目的とし、具体的事件・争訟を契機に法の適用を通じて解決する国家作用であり、「法律上の争訟」は、このような司法権の本質的要素である具体的事件・争訟性を表現したものである。そして、司法権の本来的な機能が、国民が権利利益を侵害されたとして救済を求める権利、すなわち、裁判を受ける権利(憲法32条)の保障にあり、司法権のかかる本来的機能の対象となるのが「法律上の争訟」である。したがって、行政主体にしかないような権限や地位が他の行政主体の権限によって制約を受けたとしても、それは、一般私人たる国民が権利利益を侵害された場合と異なり、司法権の本来的な役割の範ちゅうを超えるものとして、司法権による救済の対象とはならないのであり、このことは、これまでの裁判実務上、異論のないものとして理解されてきたところである。

   イ 地方団体は、法律上付与された行政権限の主体としての存在にほかならず、私人たる国民とは原理上その性格を異にする。それゆえ、地方団体のような行政主体にしかないような権限や地位が制約を受けた場合の法的地位の救済を求める訴訟を、私人たる個人の権利義務にかかる救済を求める訴訟と同視することはできない。

   ウ 地方交付税とは、国が地方団体全体の財源を国税という形で国民から徴収し、これを一定の基準に基づき各地方団体に再配分するものであり、地方交付税の決定とは、各地方団体相互間の財政力の不均衡を是正し、地方団体における適正な行政水準の維持を図る観点から定められた一定の基準に基づいて、地方団体共通の固有財源である地方交付税について地方団体ごとの具体的配分額を確定する行為である。

     本件訴訟は、行政権限の主体たる地方団体が、一種の間接課徴形態の地方税であり地方団体共通の固有財源である地方交付税の具体的配分に関し、国民の権利利益の保護救済を目的とする主観訴訟としての抗告訴訟の形態で司法にその是正を求めるものである。これは、本来、地方団体共通の固有財源としての地方交付税の具体的配分という、正に行政権限の主体たる行政主体しか有し得ない行政の権限に係る不服にほかならず、私人たる国民の権利に係る不服と同視できない。

   エ 抗告訴訟とは、国民の権利又は法律上の利益保護を目的とする、主観訴訟の一つである。このような抗告訴訟の目的・機能からすれば、抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使」(行訴法3条2項)の対象が私人たる国民となることは明らかであって、それゆえに、行政処分性については、公権力の主体たる国又は公共団体がする行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうとする定式が判例上も確立し、直接、国民の権利義務の形式や範囲の確定を問題とする事柄かどうかが、抗告訴訟の本質的要素と理解されてきたのである。

     地方団体は、役割上、国と対比され得る存在であり、また、国とは別の法主体ではあるが、国家の統治機構の一部として国家における行政権を分掌する存在である。他方、国民は行政権の外部の存在として行政権限行使の受け手となる存在であり、行政権の内部の存在であって行政権行使の主体である地方団体とは原理上性格を異にする。また、地方交付税の交付決定は、行政主体であるが故に付与される課税権限に由来し、全地方団体に帰属する税の具体的な配分を確定するという性格を有している。したがって、地方交付税の配分を受けることができるか否かに関する紛争は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。

   オ 取消訴訟の訴えの利益の有無は、判決言渡時において、処分が取消判決によって除去すべき法的効果を有しているか否か、処分を取り消すことによって回復される法的利益が存在するのか否かから見極められる。そして、地方交付税の決定とは、各地方団体が、当該年度において、等しくその行うべき事務を遂行することができるよう、当該年度における各地方団体の財政力等を勘案した上で、地方団体相互間の財政力の不均衡を是正し、地方団体における適正な行政水準の維持を図るために、地方団体共通の固有財源である地方交付税について地方団体ごとの具体的配分額を確定する行為であり、かかる地方交付税の目的を前提として、地方交付税法は、当該年度に各地方団体に交付する地方交付税とは当該年度における国税の一定割合を原資とするものであると定めた上、その総額の94%を普通交付税の配分原資として、6%を特別交付税の配分原資として、その総額を、財政需要額が財政収入額をこえる地方団体に対し、衡平にその超過額を補てんすることを目途として交付しなければならないと定めている。そして、同法は、普通交付税の補完として位置づけられる特別交付税の配分については、被控訴人泉佐野市を含めた全国の地方団体それぞれの財政需要と財政収入を考慮して特別交付税の原資とされた総額から具体的配分額を定め、当該年度の3月末日までにこれを当該会計年度において余すことなく配分するものと定めている。このように、同法は、地方交付税が各地方団体が当該年度において等しくその行うべき事務を遂行できるよう交付されるという、その税の目的に照らし、特別交付税の配分額は当該年度内に決定され、当該会計年度において余すことなく配分することを基本的な仕組みとして定めているのであり、同法は、格別の例外規定もないのに、一たびされた交付決定を本件のように当該会計年度をまたいで取り消し、過去の年度分の交付決定を改めて行うといった、地方団体の財政の安定を阻害するような事態を予定するものではない。そして、仮に特別交付税の交付決定が(判決により)取り消されたとしても、同法上、そのことを踏まえて当該年度又は翌年度以降の特別交付税の総額を増額する旨の規定はない。このような同法の目的と定めからすると、特別交付税の全地方団体への具体的な配分額が既に交付決定によって確定し、この確定された配分額に基づいて各々への税の配分までが了した段階に至って、その会計年度の税の具体的配分額を判決により取り消し、取消しが求められた交付決定当時の状態に遡らせ、配分額の確定をやり直すという事態は、同法の想定するところではなく、かかる場合に当該交付決定を取り消すことにより回復できる法的利益というものは存在しない。仮に、翌年度に総額の一部を繰り越すという措置を行う場合においては、そのような措置を講ずるための法律上の規定の創設を立法府に諮り、その上で新たに創設された法律上の規定の下でそれを行うことになるのであり、このことからも、格別の法律の定めもないのに、一度、配分額の確定が行われ、その確定された配分額に基づいて各々の税の配分までを了した段階で、一から配分額の確定からのやり直しを可能とする法律上の根拠は同法の各規定からは見いだし得ない。

    したがって、本件各決定の取消しを求める訴えの利益はない。

  (2) 本案(本件各特例規定が法の委任の範囲内か否か)について

    地方交付税法15条1項は、総務大臣が地方団体の行政需要や財政状況について幅広い知識を有し、国と地方団体の予算及び地方財政制度にも精通していることに鑑み、省令策定を総務大臣の専門技術的かつ政策的判断に委ねたものである。そして、本件各特例規定が同項の委任の範囲内か否かは、授権法である同法全体の趣旨、目的及び仕組みとの整合性や法の制定経緯、立法者意思、さらには、本件各特例規定によって制限される利益等をも勘案して判断されるべきである。そして、同法は、まず、地方団体の財政需要額と財政収入額を比較対照し、財政需要額が財政収入額を超える額に応じた額を衡平に配分することを基本原則としており(同法3条1項)、特別交付税の額の決定に当たって、基準財政需要額及び基準財政収入額の算定項目に含まれない財政需要及び財政収入を勘案することは、同法やその前身である地方財政平衡交付金法の改正経緯や、その立法者意思の観点からも明らかである。また、同法15条1項の「基準財政需要額又は基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる基準財政需要額の算定過大又は基準財政収入額の算定過少を考慮しても、なお、普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる地方団体に対して」との文理からも、基準財政収入額では捕捉できない財政収入額、より具体的にいえば、基準財政収入額の収入項目に含まれない財政収入額を特別交付税の減額要因として勘案できることは十分に読み取ることができる。

    したがって、本件各特例規定が、地方交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱した違法なものということはできない。

 4 当審における被控訴人泉佐野市の補充主張

  (1) 本件訴訟の適法性について

   ア 法律上の争訟性

    (ア) 憲法76条は、司法権は裁判所に属すると定めるだけで、その範囲を国民の訴えに限定していない。しかも、憲法32条は裁判を受ける権利を有する者を「何人も」と規定しており、それは、自然人であっても、外国人を含むものであり、「国民」には限定していない。また、「何人も」とは自然人とは限らないことは法人の訴えが適法であることから明らかである。そして、地方団体が、私法上の法人とは異なり、裁判を受ける権利を享有していないという根拠はない。地方団体も法人であるから、裁判を受ける権利の保障を享有する。現に地方団体の訴えのうち財産権に係るものは「法律上の争訟」であることは控訴人国も認めるところである。

      財産権以外の行政上の争いでも、それが法的判断にふさわしいにもかかわらず法律上の争訟から除外する法的根拠は憲法76条、32条からは見いだせない。

      そして、「法律上の争訟」について定義した最高裁昭和56年判決(最高裁昭和56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁)には、①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、②それが法令の適用により終局的に解決することができるという要件に該当しても、地方団体の訴えは法律上の争訟にならない等という例外は見いだせない。しかも、法律上の争訟の要件は、権利義務だけではなく、法律関係の存否に関する紛争とされていることからすると、本件で被控訴人泉佐野市には権利がないと仮定しても、控訴人国と被控訴人泉佐野市の間には法律関係は存在するから、本件が法律上の争訟に当たることは明白である。

    (イ) 控訴人国は、本件訴訟は行政権限としての主体たる地方団体が、間接課徴形態の地方税であり地方団体共通の固有財源である地方交付税の具体的な配分内容の是正を求めるものであり、正に行政主体しか本来持ち得ない課税権限ないし税の帰属に係る紛争であり、被控訴人泉佐野市が保護を求めるとする利益は、およそ私人の享受し得る権利利益と同視できるものではない旨主張する。

      しかし、地方交付税の配分を受ける権利は、私人に対して行使する行政権限とは異質であり、行政権限の行使ではない。地方団体が地方交付税の具体的な配分を受け得るのは、その職権の範囲内ではあるが、権限というよりは、法律に基づく権利である。それは、私人の有するような民事法上の権利ではないが、地方交付税法に基づき地方団体に付与された法的地位であり、主観的利益としての性質を有するものである。それを、私人の権利とは同視できないとして、法律上の争訟性を否定するのは、私人の権利と完全に同じでなければ、いかに国の行政機関が法律に違反して無茶をしようと、司法的是正は行えないことになり、司法国家・法治国家・地方自治の保障に反する。

      それに、国庫補助金の交付には裁量があり、交付請求権が認められないが、恣意的な交付拒否・返還命令に対しては行政訴訟が認められている。それは私人だけではなく地方団体でも同じである。地方交付税の交付については、総務大臣に裁量があるわけではなく、地方団体の共通財源として、地方団体に請求権がある金員であるから、補助金との均衡上、地方団体に訴訟を起こす権利が否定されるわけはない。交付税は私人には与えられないが、しかし、国の行政機関の査定により賦与される点では補助金と変わらない。訴訟を起こす権利の点で、補助金と交付税を区別する理由はない。

   イ 行政処分性

     私人に対する行為だけではなく、行政主体に対する行為でも、権利義務を形成し、その範囲を確定することが法律上認められている行為は、行政処分として抗告訴訟の対象としなければならない。それは主観訴訟である。判例が「国民」という言葉を用いていても、処分の対象は通常国民であったり私人であったりするから、国民という言葉が用いられているにすぎない。それが国民以外の出訴を許さないという趣旨ではない。

   ウ 訴えの利益

     控訴人国は、確定された配分額に基づいて各々の税の配分が完了した段階では、その会計年度の税の具体的配分額を取り消すべき法的利益は存在しないと主張する。

     しかし、これでは、司法不在の暗黒国家である。違法な行為は、判決の拘束力により、是正されなければならないのが法治国家の大原則である。そして、個別の規定がなくても、法治国家の原則に基づき、過大に払った分は職権取消しを行い、後の年度で支給すべき交付税と相殺すればよい。

     そのほか、錯誤などによる是正の制度を準用すればよい。地方交付税の総額を変更するものではないので、法律上できないことを要求するものではない。この方法によれば、地方財政の安定性を害することもない。

  (2) 本件各特例規定は委任立法の限界を超えて違法であること

    控訴人国は、地方交付税制度は、運営の基本原則として、地方交付税の総額を、財政需要額が財政収入額を超える地方団体に対し、その超過額を補てんするように交付する制度であると主張するが、財政需要額、財政収入額は、特別に調査、計算されているものではないので、この趣旨で運用されては、「地方交付税の交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障する」、その独立性を強化するという地方交付税法1条に違反する。

    控訴人国は、特別交付税は、普通交付税の算定の画一性のために生じる普通交付税の不足、つまり、「基準財政需要額」と「基準財政収入額」では捕捉することができない「財政需要額」と「財政収入額」を考慮し、財政需要を満たすだけの財源を地方団体が得られない場合に、その超過額を衡平に補てんする観点から交付する旨主張する。

    しかし、特別交付税の交付事由、減額事由を定めるのは、同法3条が「この法律の定めるところにより」と明示するように、同条ではなく、15条である。

    特別交付税の減額要因とは、普通交付税の算定の基礎に用いられる基準財政収入額が画一的な方法で算定されることに起因して、基準財政収入額の算定の基礎となる収入項目に係る現実の収入額と基準財政収入額中の当該収入項目に係る基準税額とに差異が生じ、そのために当該基準税額の算定過少が生じていることをいうものであり、基準財政収入額の算定の基礎とならない収入項目に係る収入が存在すること又はこれが一定額に及ぶことを特別交付税の減額要因となる事情として定めることにつき、総務省令に委任していると言い難い。

    控訴人国の主張は、自由に「財政需要額」と「財政収入額」の内容を決めて超過額を算出し、特別交付税額を上下させ交付する権限を持っている(交付事由と減額事由ともに自由にできる)というものにほかならない。これは、地方交付税法の文理も趣旨をも無視するもので、法治国家における法律の運用の大原則に反するばかりか、控訴人国が、地方団体の財政運営を自由に左右できるとするもので、地方団体の独立性と計画的な財政運営を保障する同法1条にも違反する。

    さらに、同法15条について前段、中段、後段に分けて、その文理を分析すれば、基準財政収入額に明示されていないにもかかわらず、ふるさと納税収入のような財政収入があったからといって、特別交付税の減額要因となるとは解釈することができない。

第3 当裁判所の判断

 1 争点1(本件訴えが裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たるか否か)について

  (1) 行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(最高裁昭和56年判決参照)。

    上記の紛争が、本件に即していかなるものを指すかを検討すると、これは、司法権(憲法76条1項)が審判する権限が及ぶ紛争であり、司法権の概念には国民の裁判を受ける権利の保障が反映されていると解される。このような見地に立ち、「当事者」の面から見ると、基本的に個々の国民が提起する争訟であって、その具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争がこれに該当し、国と地方団体を当事者とする紛争は、個々の国民と同様の立場に立って行うもの(財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合)は格別として、双方が行政権の主体同士として関与する、行政権内部の法適用の適正をめぐる一般公益に係る紛争である限り、法律上の争訟に該当しないと解するのが相当である。そして、その解決は、行政権内部の調整に委ね、その適正性については、国会審議等の民主的な統制の対象とすることによって確保するのを基本とし、紛争によって、裁判所で解決するのがふさわしいものについて、法律によって特に権限が定められた場合には、裁判所はこれを裁判する権限を持つことになると解すべきである。

  (2) 上記判断枠組みにより、本件訴えが裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たるか否かについて検討する。

    地方交付税は、地方交付税法6条の規定により算定した所得税等の一定割合の額及び地方法人税の額で地方団体が等しくその行うべき事務を遂行することができるように国が地方団体に対して交付する税とされ(同法2条1号、3条1項)、その種類は普通交付税及び特別交付税とされる(同法6条の2第1項)。

    また、地方交付税は、国が地方団体に対して交付するものと定められ(地方交付税法2条1号、3条1項)、地方団体が自ら賦課・徴収するのではなく、国が賦課・徴収した所得税等の国税の一定割合が、地方交付税法に基づく総務大臣による具体的な交付額の算定・決定を経て、各地方団体に配分・交付される。

    地方交付税の総額は、国税収入等の一定額と決まっており(地方交付税法6条1項、2項)、その全額を地方団体に配分する仕組みとなっており、特定の地方団体への交付税の配分はその他の全ての地方団体への配分と密接不可分である。そのため、各地方団体への地方交付税の交付は、控訴人国が特定の地方団体に財産的利益を付与することを目的とするのではなく、全ての地方団体が適正に行政事務を遂行できるよう、地方団体全体の利益を考慮して、税の配分を行うことを目的としているといえる。

    さらに、地方交付税法においては、地方団体は、地方交付税の算定方法についての意見を申し出ることができることとされている(同法17条の4)ほか、地方交付税独自の紛争処理手続が定められ(同法18条1項、19条7項)、交付税の額に関する審査の申立手続においては、総務大臣が公開による意見聴取を実施し、また、地方交付税の額の決定、変更又は審査の申立てや異議の申出に対する決定に際しては、地方財政審議会の意見聴取を義務付けるなどの手続保障を図るなど、同法固有の紛争回避や事務処理のための手続が定められている。

    以上のような地方交付税法の仕組みや目的等に照らすと、地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けることができるか否かに関する紛争は、国と地方団体が、それぞれ行政主体としての立場に立ち、地方団体全体が適正に行政事務を遂行し得るように、法規(地方交付税法)の適用の適正をめぐって一般公益(地方団体全体の利益)の保護を目的として係争するものというべきである。

    そうすると、本件訴えは、行政主体としての被控訴人泉佐野市が、法規の適用の適正をめぐる一般公益の保護を目的として提起したものであって、自己の財産上の権利利益の保護救済を目的として提起したものと見ることはできないから、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらないというべきである。

    また、本件のように地方交付税の配分をめぐる紛争は、地方交付税相当額全部が当該年度において配分され、各地方団体の財政に組み入れられ、支出されることを考慮すれば、当該年度の後年度において、その配分を取り消し、やり直すことは非常に困難であるとともに、この点をおくとしても、当該年度の財政需要・財政収入の状況に応じた解決とならない嫌いがある。本件の本案の論点自体は、裁判所の審理にふさわしいものということができるが、紛争の解決をそのまま民事訴訟を基本とする行政訴訟による解決に委ねることは必ずしも相当とはいえず、裁判所における解決に委ねるのであれば、法律によって(適切な仕組みとともに)特に権限が定められることが相当である。このことに照らしても、前記判示のとおり解するのが相当である。

  (3) これに対し、被控訴人泉佐野市は、本件訴えは、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たる旨主張するので、以下検討する。

   ア 被控訴人泉佐野市は、地方団体も法人であるから、裁判を受ける権利の保障を享有しており、このことを前提にすれば、本件が法律上の争訟に当たることを肯定すべきであるなどと主張する(当審補充主張(1)ア(ア))。

     しかしながら、法人、ひいては、地方団体が裁判を受ける権利の保障を受けるとしても、地方団体には、個々の国民と同様の立場に立って行動する場面がある一方、行政主体として、国とともに行政権の一部を構成する面があり、直ちに個々の国民と同程度の保障を受けることを意味しない。

     この点、国又は地方団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正をめぐる一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される(最高裁平成14年判決〔最高裁平成14年7月9日第三小法廷判決・民集第56巻6号1134頁〕)。これは、上記判断と軌を一にする(この限度で、最高裁平成14年判決の射程は本件訴えには及ばないとの原審主張(原中間判決12、13頁)は採用できない。)。

     よって、被控訴人泉佐野市の上記主張はいずれも採用することができない。

   イ 被控訴人泉佐野市は、本件について法律上の争訟該当性を認めないことは司法国家・法治国家・地方自治の保障に反すると主張する(同(イ))。

     この点、地方自治の重要性に照らし、国と地方団体の関係を法律的に律する意義を重視する立場から、国と地方団体がいずれも行政主体として関わりを持つ紛争において、広く法律上の争訟該当性を肯定する立論は考えられないとはいえない。

     しかしながら、司法権は、国民の裁判を受ける権利の保障に応えることを任務として構成されていると考えられる一方、憲法上、司法権と地方自治の関わりは明らかでない。さらに、先に判示したとおり、行政主体としての国と地方団体同士が関与する法適用の適正をめぐる一般公益に係る紛争の解決を行政権内部の調整に委ね、その適正性については、国会審議等の民主的な統制の対象とすることによって確保するのを基本とすることとしても、地方自治の重要性に照らし不当とはいえない。よって、被控訴人泉佐野市の上記主張は採用できない。

     よって、被控訴人泉佐野市の上記主張はいずれも採用することができない。

   ウ 被控訴人泉佐野市は、最高裁昭和56年判決において、法律上の争訟の要件は、権利義務だけではなく、法律関係の存否に関する紛争とされていることからすると、本件で被控訴人泉佐野市には権利がないと仮定しても、控訴人国と被控訴人泉佐野市の間には法律関係は存在するから、本件が法律上の争訟に当たることは明白である旨主張する(当審主張(1)ア(ア))。

     しかしながら、最高裁56年判決を踏まえ、本件に即して検討すると、上記(1)・(2)で説示したとおりであり、本件において、控訴人国と被控訴人泉佐野市の間に地方交付税の配分・交付に係る法律関係が存在するとしても、被控訴人泉佐野市が法規の適用の適正をめぐり一般公益の保護を目的として提起したというべきであって、本件訴えが、法律上の争訟に当たるということはできない。

     よって、被控訴人泉佐野市の上記主張は採用することができない。

   エ 被控訴人泉佐野市は、国庫補助金の恣意的な交付拒否・返還命令に対しては行政訴訟が認められていることとの均衡上、地方交付税の交付についても、地方団体に訴訟を起こす権利は否定されない旨主張する(当審補充主張(1)ア(イ))。

     しかしながら、国庫補助金は、実質的には贈与の性質を持つ給付金であると解されており、国庫補助金の名宛て人は、行政主体だけでなく、一般私人も含まれるのに対し、地方交付税法に基づく交付税の額の決定は、地方交付税の総額を地方団体という行政主体間で配分するものであって、一般私人が当該決定の名宛て人となることは制度として予定されていない。国庫補助金の交付と地方交付税の交付とはその性質を異にするものというべきである。

     したがって、国庫補助金の恣意的な交付拒否・返還命令に対しては行政訴訟が認められているとしても、これは、個々の国民と同様の立場に立って行うものであり、このこととの均衡を理由として、地方交付税の交付について、地方団体に訴訟を起こす権利は否定されないということはできない。

     よって、被控訴人泉佐野市の上記主張は採用することができない。

  (4) 以上によれば、本件訴えは、裁判所法3条1項の法律上の争訟に当たらないから、不適法であり、却下を免れない。

 2 以上により、その余の争点について判断するまでもなく、原判決を取り消し、本件訴えをいずれも却下することとし、主文のとおり判決する。

    大阪高等裁判所第7民事部

        裁判長裁判官  冨田一彦

           裁判官  上田卓哉

 裁判官栩木有紀は、転補のため署名押印することができない。

        裁判長裁判官  冨田一彦