本件は、原告が、長崎税務署長が①原告代表者の長男に対する従業員給与及び賞与並びに役員報酬、②原告 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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本件は、原告が、長崎税務署長が①原告代表者の長男に対する従業員給与及び賞与並びに役員報酬、②原告代表者の妻に対する退職慰労金の各支給についていずれも損金算入を認めずにしたホウジンゼイノ更正処分、過少申告加算税の賦課決定処分、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分がいずれも違法であると主張して、これらの処分の取消しを求めた事案である。

 

 

法人税更正処分等取消請求事件

【事件番号】      長崎地方裁判所判決

【判決日付】      平成21年3月10日

【掲載誌】        税務訴訟資料259号順号11153

 

法人税法

(同族会社等の行為又は計算の否認)

第百三十二条 税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。

一 内国法人である同族会社

二 イからハまでのいずれにも該当する内国法人

イ 三以上の支店、工場その他の事業所を有すること。

ロ その事業所の二分の一以上に当たる事業所につき、その事業所の所長、主任その他のその事業所に係る事業の主宰者又は当該主宰者の親族その他の当該主宰者と政令で定める特殊の関係のある個人(以下この号において「所長等」という。)が前に当該事業所において個人として事業を営んでいた事実があること。

ハ ロに規定する事実がある事業所の所長等の有するその内国法人の株式又は出資の数又は金額の合計額がその内国法人の発行済株式又は出資(その内国法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の三分の二以上に相当すること。

2 前項の場合において、内国法人が同項各号に掲げる法人に該当するかどうかの判定は、同項に規定する行為又は計算の事実のあつた時の現況によるものとする。

3 第一項の規定は、同項に規定する更正又は決定をする場合において、同項各号に掲げる法人の行為又は計算につき、所得税法第百五十七条第一項(同族会社等の行為又は計算の否認等)若しくは相続税法第六十四条第一項(同族会社等の行為又は計算の否認等)又は地価税法(平成三年法律第六十九号)第三十二条第一項(同族会社等の行為又は計算の否認等)の規定の適用があつたときについて準用する。

 

法人税法施行令

(使用人兼務役員とされない役員)

第七十一条 法第三十四条第六項(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める役員は、次に掲げる役員とする。

一 代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人

二 副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員

三 合名会社、合資会社及び合同会社の業務を執行する社員

四 取締役(指名委員会等設置会社の取締役及び監査等委員である取締役に限る。)、会計参与及び監査役並びに監事

五 前各号に掲げるもののほか、同族会社の役員のうち次に掲げる要件の全てを満たしている者

イ 当該会社の株主グループにつきその所有割合が最も大きいものから順次その順位を付し、その第一順位の株主グループ(同順位の株主グループが二以上ある場合には、その全ての株主グループ。イにおいて同じ。)の所有割合を算定し、又はこれに順次第二順位及び第三順位の株主グループの所有割合を加算した場合において、当該役員が次に掲げる株主グループのいずれかに属していること。

(1) 第一順位の株主グループの所有割合が百分の五十を超える場合における当該株主グループ

(2) 第一順位及び第二順位の株主グループの所有割合を合計した場合にその所有割合がはじめて百分の五十を超えるときにおけるこれらの株主グループ

(3) 第一順位から第三順位までの株主グループの所有割合を合計した場合にその所有割合がはじめて百分の五十を超えるときにおけるこれらの株主グループ

ロ 当該役員の属する株主グループの当該会社に係る所有割合が百分の十を超えていること。

ハ 当該役員(その配偶者及びこれらの者の所有割合が百分の五十を超える場合における他の会社を含む。)の当該会社に係る所有割合が百分の五を超えていること。

2 前項第五号に規定する株主グループとは、その会社の一の株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場合のその会社を除く。)並びに当該株主等と法第二条第十号(定義)に規定する特殊の関係のある個人及び法人をいう。

3 第一項第五号に規定する所有割合とは、その会社がその株主等の有する株式又は出資の数又は金額による判定により同族会社に該当する場合にはその株主グループ(前項に規定する株主グループをいう。以下この項において同じ。)の有する株式の数又は出資の金額の合計額がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額のうちに占める割合をいい、その会社が第四条第三項第二号イからニまで(同族関係者の範囲)に掲げる議決権による判定により同族会社に該当することとなる場合にはその株主グループの有する当該議決権の数がその会社の当該議決権の総数(当該議決権を行使することができない株主等が有する当該議決権の数を除く。)のうちに占める割合をいい、その会社が社員又は業務を執行する社員の数による判定により同族会社に該当する場合にはその株主グループに属する社員又は業務を執行する社員の数がその会社の社員又は業務を執行する社員の総数のうちに占める割合をいう。

4 第四条第六項の規定は、前項の規定を適用する場合について準用する。

 

 

 

 

       主   文

 

 1 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成15年7月1日から平成16年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額4549万4572円、納付すべき税額1300万5900円を超える部分及び過少申告加算税7万5000円を超える部分の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 2 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成16年6月分の源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 3 原告のその余の請求を棄却する。

 4 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 1 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成14年7月1日から平成15年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額6337万5772円、納付すべき税額1990万3800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 2 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成15年7月1日から平成16年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額4298万7872円、納付すべき税額1225万3800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 3 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成16年7月1日から平成17年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額7188万5812円、納付すべき税額2003万4200円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 4 主文2項同旨

 5 訴訟費用は、被告の負担とする。

第2 事案の概要

  本件は、原告が、長崎税務署長が①原告代表者の長男に対する従業員給与及び賞与並びに役員報酬、②原告代表者の妻に対する退職慰労金の各支給についていずれも損金算入を認めずにした法人税の更正処分、過少申告加算税の賦課決定処分、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分がいずれも違法であると主張して、これらの処分の取消しを求めた事案である。

 1 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)

  (1) 原告は、長崎県内に本店を有し、紙器製造販売等を目的として設立された株式会社であり、一事業年度は7月1日から6月30日までである(争いのない事実)。

    平成15年、平成16年及び平成17年の各6月30日における原告の株主、原告代表者との続柄、持株数及び持株割合は、別表1「株主の状況」の「氏名」、「続柄」並びに「平成15年6月期」、「平成16年6月期」及び「平成17年6月期」の各「持株数」及び「割合」のとおりであり、平成18年法律第10号による改正前の法人税法2条10号に定める同族会社である(乙1ないし3の各2枚目、乙4の別表2、弁論の全趣旨)。

  (2) 原告代表者の長男である乙(以下「乙」という。)は、平成13年5月26日、原告従業員として入社し(甲6)、平成16年6月25日、原告の取締役に就任した(甲6、乙5の1)。

    原告は、乙に対し、平成14年7月1日から平成15年6月30日までの事業年度(以下「平成15年6月期」という。)において従業員給与及び賞与として合計255万9500円を、平成15年7月1日から平成16年6月30日までの事業年度(以下「平成16年6月期」という。)において従業員給与及び賞与として合計275万2400円を、平成16年7月1日から平成17年6月30日までの事業年度(以下「平成17年6月期」という。)において役員報酬として合計240万円を支給した(乙に対する平成15年6月期の従業員給与及び賞与、平成16年6月期の従業員給与及び賞与並びに平成17年6月期の役員報酬を併せて「乙に対する本件給与等」といい、平成15年6月期、平成16年6月期及び平成17年6月期を併せて「本件各事業年度」という。)。

  (3) 原告代表者の妻である丙(以下「丙」という。)は、昭和56年5月17日、原告が組織変更する前のA有限会社(以下、A有限会社も原告と表記する。)の取締役に就任し(乙30)、平成4年の組織変更を経て、平成16年6月25日、原告の取締役を退任し、監査役に就任した(甲5、乙5の1、乙19の2)。同日の原告の株主総会において丙に対し退職金として1800万円を支払う旨決議され(乙5の2)、原告は、丙に対し、上記1800万円を退職給与として源泉徴収税額39万円及び特別徴収税額23万4000円(市町村民税16万9200円、都府県民税6万4800円)を控除した1737万6000円を支払った(乙11)。

    原告は、平成16年7月5日、長崎税務署長に対し、丙の退職金に係る源泉徴収税39万円を納付した(乙6。丙に対する1800万円の退職給与を、以下「丙に対する本件退職金」という。)。

  (4) 原告は、前記(2)の乙に対する本件給与等及び前記(3)の丙に対する本件退職金の各支給を、税額の算定において損金の額に算入した上で、法定申告期限内に、次のとおり、法人税の確定申告をした(争いのない事実)。

   ア 平成15年6月期

     所得金額    6337万5772円

     納付すべき税額 1990万3800円

   イ 平成16年6月期

     所得金額    4298万7872円

     納付すべき税額 1225万3800円

   ウ 平成17年6月期

     所得金額    7188万5812円

     納付すべき税額 2003万4200円

  (5) 長崎税務署長は、平成18年6月27日、原告に対し、前記(2)の乙に対する本件給与等及び前記(3)の丙に対する本件退職金の各支給を損金の額に算入しないものとして、次のとおり、アからウの法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をし、エの源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした(争いのない事実、甲1ないし3)。

   ア 平成15年6月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

     所得金額    6593万5272円

     納付すべき税額 2049万8600円

     過少申告加算税    5万9000円

     更正理由 ① 乙に対し、合計255万9500円を従業員給与及び賞与として支給し、当該事業年度の損金の額に算入しているが、乙は、平成13年以降、米国ニューヨーク州の学校で就学中であることから、使用者の指揮命令に服して継続的ないし断続的に労務又は役務を提供できる常況にあるとは認められない。乙に対して従業員給与及び賞与として合計255万9500円を支給することは、乙の留学費用の一部を従業員給与という名目で支出し、原告が負担したものとみることができ、非同族会社においては容易になし得ない行為であると認められるから、純経済人の行為としては、不合理、かつ不自然な行為又は計算であり、乙に対する従業員給与及び賞与を損金の額に算入することは、原告の法人税を不当に減少させることになるため、法人税法132条1項の規定により255万9500円を従業員給与の損金不算入額として、平成15年6月期の所得金額に加算した。

          ② 上記更正により留保金額及び留保控除金額が移動したことに伴い、同族会社の留保金額に対する税額を再計算した結果、課税留保金額に係る税額が17万3185円減少したので、これを法人税額から減算した。

   イ 平成16年6月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

     所得金額    6349万4572円

     納付すべき税額 1840万5900円

     過少申告加算税   61万5000円

     更正理由 ① 乙に対し、合計275万2400円を従業員給与及び賞与として支給し、当該事業年度の損金の額に算入しているが、乙は、平成13年以降、米国ニューヨーク州の学校で就学中であることから、使用者の指揮命令に服して継続的ないし断続的に労務又は役務を提供できる常況にあるとは認められない。乙に対して従業員給与及び賞与として合計275万2400円を支給することは純経済人の行為としては、乙の留学費用の一部を従業員給与という名目で支出し、原告が負担したものとみることができ、非同族会社においては容易になし得ない行為であると認められるから、不合理、かつ不自然な行為又は計算であり、乙に対する従業員給与及び賞与を損金の額に算入することは、原告の法人税を不当に減少させることになるため、法人税法132条1項の規定により275万2400円を従業員給与の損金不算入額として、平成16年6月期の所得金額に加算した。

          ② 丙が取締役から監査役へ分掌変更したことを理由に、同人に対して退職金として支給した1800万円を当該事業年度の損金の額に算入しているが、法人税法及び法人税基本通達9-2-23によれば、分掌変更によりその役員に対して退職給与として支給する給与については、分掌変更により役員としての地位又は職務内容が激変し、実質的に退職したと認められる場合を除き、その役員に対する賞与に該当することになるところ、丙は、平成16年6月25日に取締役を退任し、監査役に就任した後も法人税法2条15号に定める「役員」に該当し、かつ、大株主として原告の意思決定に参加する立場にあることから、法人税法及び法人税法基本通達9-2-23に定める「分掌変更により役員としての地位又は職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にある」とは認められない。丙に対する本件退職金の支給は、同人に対する臨時的給与のうち他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものに該当するため、本件退職金を役員賞与の損金不算入額として、平成16年6月期の所得金額に加算した。

          ③ 原告が平成15年6月期の更正に伴い納付することとなる平成15年6月期分の事業税24万7500円が平成16年6月期の損金の額に算入されるため、これを所得金額から減算した。

   ウ 平成17年6月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

     所得金額    7231万7112円

     納付すべき税額 2016万3800円

     過少申告加算税    1万2000円

     更正理由 ① 乙に対し、合計240万0000円を役員報酬として支給し、当該事業年度の損金の額に算入しているが、乙は、平成13年以降、米国ニューヨーク州の学校で就学中であることから、勉学の傍ら海外において原告の常況を把握し、業務決定の意思決定に参加できる常況にあるとは認められない。乙に対して役員報酬として合計240万0000円を支給することは、乙の留学費用の一部を従業員給与という名目で支出し、原告が負担したものとみることができ、非同族会社においては容易になし得ない行為であると認められるから、純経済人の行為としては、不合理、かつ不自然な行為又は計算であり、乙に対する役員報酬を損金の額に算入することは、原告の法人税を不当に減少させることになるため、法人税法132条1項の規定により240万0000円を役員報酬の損金不算入額として、平成17年6月期の所得金額に加算した。

          ② 原告が平成16年6月期の更正に伴い納付することとなる平成16年6月期分の事業税196万8700円が平成17年6月期の損金の額に算入されるため、これを所得金額から減算した。

   エ 平成16年6月分源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分

     本税額      317万8967円

     不納付加算税    31万7000円

     処分の理由 丙に対する退職金として支給した1800万円は、役員賞与に該当するから、所得税の源泉徴収義務を負うところ、これを行っていない。

  (6) 原告は、前記(5)の各処分を不服として、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、平成19年5月30日、同審査請求は棄却された(争いのない事実)。

  (7) 原告は、平成19年9月25日、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。