土地の売買がいわゆる数量指示売買に当たるとされた事例 売買代金返還請求事件 最高裁 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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土地の売買がいわゆる数量指示売買に当たるとされた事例

 

 

              売買代金返還請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/平成12年(受)第372号

【判決日付】      平成13年11月22日

【判示事項】      土地の売買がいわゆる数量指示売買に当たるとされた事例

【判決要旨】      市街化区域内に所在する五〇坪余りの更地の売買契約において、契約書には目的物件の表示として公簿面積のみが記載されていたとしても、それが住宅用の敷地として売買されたものであり、代金額については、坪単価に面積を乗じる方法により算定することを前提にして、売主が提示した坪単価の額からの値下げの折衝を経て合意が形成され、当事者双方とも土地の実測面積が公簿面積に等しいとの認識を有しており、契約書における公簿面積の記載も実測面積が公簿面積と等しいか少なくともそれを下回らないという趣旨でされたものであるなど判示の事情の下においては、当該土地が公簿面積どおりの実測面積を有することが売主によって表示され、実測面積を基礎として代金額が定められたものということができ、その売買契約は、いわゆる数量指示売買に当たる。(反対意見がある。)

【参照条文】      民法565

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事203号743頁

 

民法

(買主の追完請求権)

第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

(買主の代金減額請求権)

第五百六十三条 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。

一 履行の追完が不能であるとき。

二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。

四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)

第五百六十四条 前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。

(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)

第五百六十五条 前三条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。

 

 

 

       主   文

 

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人細井土夫、同小澤雄市、同金井正成の上告受理申立て理由第一及び第二について

 一 本件は、上告人から土地を購入した被上告人らが、同土地の実測面積が公簿面積に満たなかったとして、数量指示売買における売主の担保責任(民法五六五条、五六三条一項)に基づき売買代金の減額請求をし、支払った代金の一部の返還を求める事件である。原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

 (1) 本件土地は、愛知県岡崎市内の市街化区域内に所在する隣接した二筆の土地であり、地目は畑であるが、現況は更地である。

 (2) 宅地建物取引業者である株式会社丸豊住宅は、平成三年八月二〇日ころ、被上告人らを訪ね、上告人所有の本件土地の売買を媒介したい旨申し入れた。丸豊住宅が持参した本件土地の広告には、「公簿一七七平方メートル(五三・五四坪)、価格三六四〇万円、三・三㎡単価六八万円」との記載があった。

 (3) 被上告人らが平成三年八月一三日ころ丸豊住宅を通じて坪単価が安くならないか上告人と折衝したところ、上告人は、同月二四日ころ、坪単価六五万円に値下げする旨回答した。

 (4) そこで、被上告人らは、本件土地をその価格で購入しようと考え、平成三年八月二七日ころ、丸豊住宅と本件土地購入について専属専任媒介契約を締結した。その契約書には、目的物件の表示として、本件土地の実測面積が一七七㎡、公簿面積も同様である旨の記載がされていた。

 (5) 上告人も、本件土地を上記価格で売却しようと考え、そのころ、丸豊住宅と本件土地売却について専属専任媒介契約を締結した。もっとも、その契約書には、被上告人らと丸豊住宅との間の契約書と異なり、目的物件の表示として、本件土地の公簿面積が一七七醉である旨の記載はされていたが、実測面積についての記載はなかった。

 (6) 被上告人らが平成三年九月四日ころ丸豊住宅に対し本件土地の実測図面を要求したところ、丸豊住宅は、本件土地の面積が一七七醉である旨が記載された公図の写しを被上告人らに交付した。被上告人らは、この図面で本件土地の実測面積が一七七平方メートルあることが確認されたと考え、それ以上に実測図面を要求しなかった。

 (7) 丸豊住宅は、そのころ、上告人と被上告人らに対し、重要事項説明書を交付した。同説明書には、本件土地の地積として、「登記簿一七七平方メートル(五三・五四坪ごとの記載はあったが、実測面積の欄は空欄であった。また、同説明書の建築基準法に基づく制限の概要の欄には、本件土地の建築面積の限度として、「敷地面積一七七平方メートル×六〇%=一〇六・二平方メートル」、本件土地の延べ建築面積の限度として、「敷地面積一七七平方メートル×二〇〇%=三五四平方メートル」との各記載があった。

 (8) 平成三年一〇月六日ころ、丸豊住宅の作成した案文に基づき、本件売買契約の契約書が作成され、その際、丸豊住宅は、上告人と被上告人らに同契約書の条項を読み聞かせた。同契約書には、売買物件の表示として、「末尾記載の通りとしすべて面積は公簿による。」との条項(以下「本件条項」という。)があるが、丸豊住宅からはその文言の意味の説明はなく、上告人と被上告人らとの間でその意味が確認されたこともなかった。被上告人らは同月一六日までに売買代金全額を支払った。

 (9) 被上告人らは、住居の敷地とする目的で本件土地を購入した尾のであり、平成九年秋ころ、住居を新築するために土地家屋調査士に依頼して本件土地を測量したところ、その実測面積が一六七・七九平方メートルであって、本件売買契約書に表示された面積一七七平方メートルに九・二一平方メートル不足することが判明した。

 (10) 被上告人らは、平成一〇年二月二〇日、上告人に対し売買代金の減額請求をした。

 二 原審は、上記事実関係に基づき、本件売買契約書における本件土地の公簿面積の記載は、実測面積が少なくとも公簿面積と同じだけあるという趣旨でされたものであり、売買代金の額は本件土地の実測面積が公簿面積どおりにあるとして決定されたものと解釈し、本件売買契約はいわゆる数量指示売買に当たると判断して、被上告人らの請求を一部認容した。

 論旨は、要するに、上記の原審の契約解釈及び判断は、経験則に違反し、民法五六五条の解釈を誤ったものであるというのである。

 三 いわゆる数量指示売買とは、当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量、員数又は尺度があることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買をいう(最高裁昭和四一年(オ)第七七〇号同四三年八月二〇日第三小法廷判決・民集二二巻八号一六九二頁参照)。

 前記事実関係によれば、上告人と被上告人らは、本件売買契約の代金額を坪単価に面積を乗じる方法により算定することを前提にして、その坪単価について折衝し、代金額の合意に至ったというのである。そして、本件土地は、市街化区域内にあり、小規模住宅用の敷地として売買されたものであって、面積は五〇坪余りにすぎないというのであるから、山林や原野など広大な土地の売買の場合とは異なり、このような零細宅地における前記のような開差五%を超える実測面積と公簿面積との食違いは、売買契約の当事者にとって通常無視し得ないものというべきである上、被上告人らは、丸豊住宅に対して本件土地の実測図面を要求するなどしたというのであるから、本件土地の実測面積に関心を持っていたものというべきであり、記録によれば、本件売買契約当時、当事者双方とも、本件土地の実測面積が公簿面積に等しいとの認識を有していたことがうかがわれるところである。

 もとより、土地の売買契約において、実測面積を基礎とせずに代金額が決定される場合でも、代金額算定の便宜上、坪単価に面積(公簿面積)を乗じる方法が採られることもあり得るが、本件売買契約においては、上告人と被上告人らが、本件土地の実測面積を離れ、それ以外の要素に着目して本件土地を評価し、代金額の決定に至ったと認めるべき事情はうかがわれないのである。なお、本件条項自体は、実測面積と公簿面積とが食い違う場合に代金額の減額を要しないという趣旨を定めたものとはいえないし、原審の認定したところによれば、本件条項がそのような意味を有する旨の説明が丸豊住宅からされたことなどもないというのであるから、本件条項が存在することから直ちに実測面積に増減があっても公簿面積を基礎として本件売買契約の代金額が決定されたこととする趣旨であったと断定することはできないものというべきである。

 以上の点にかんがみると、本件売買契約書において登記簿の記載に基づいて本件土地の面積が記載されたのは実測面積が公簿面積と等しいか少なくともそれを下回らないという趣旨によるものであり、本件売買契約の代金額は本件土地の実測面積を基礎として決定されたものであるとした原審の契約解釈は、経験則に違反するものとはいえないというべきである。

 そうすると、本件売買契約においては本件土地が公簿面積どおりの実測面積を有することが表示され、実測面積を基礎として代金額が定められたものであるから、本件売買契約は、数量指示売買に当たり、被上告人らは、上告人に対し、民法五六五条、五六三条一項に基づいて、代金減額請求をすることができるものというべきである。

 これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。この判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、採用することができない。

 よって、裁判官町田顯の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 裁判官町田顯の反対意見は、次のとおりである。

 原審及びこれを支持する多数意見は、上告人を売主とし、被上告人らを買主とする本件土地の売買契約は、いわゆる数量指示売買に当たると判断するが、私は、この判断には賛成することはできない。その理由は、次のとおりである。

 数量指示売買というためには、多数意見が述べるとおり、当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量、員数又は尺度があることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められていることが必要である。しかし、原審が認定した事実等によれば、本件売買契約において売主である上告人が本件土地につき一定の面積があることを契約において表示したものと解することはできない。

 すなわち、本件売買の仲介をした宅地建物取引業者である丸豊住宅が被上告人らに提示した本件土地の広告には、広告に記載された土地面積一七七平方メートル(五三・五四坪)が実測ではなく公簿面積であることが明示されており、本件契約に際し、丸豊住宅が宅地建物取引業法三五条の規定に基づき上告人及び被上告人らに交付した重要事項説明書にも、地積欄には「登記簿一七七㎡(五三・五四坪)」と記載され、実測面積の欄は空欄にされていて、表示された面積が登記簿上のものであることが明らかにされており、本件の売買契約書には、第一条の売買物件の表示の定めにおいて、「末尾記載の通りとしすべて面積は公簿による。」と定められており、このうち「公簿」の部分だけは不動文字ではなく、手書きされたもので、契約書の末尾には本件土地の所在地、地目とともに地積として「二九平方メートル、一四八平方メートル」の計一七七平方メートルの記載があって、本件契約において、上告人が本件土地が実測一七七平方メートル(五三・五四坪)あることを表示したことを直接うかがわせるものはない。

 原審及び多数意見は、(1)前記広告の価格欄に三六四〇万円、「三・三平方メートル単価六八万円」と記載され、被上告人らが丸豊住宅を通じて坪単価の引下げの折衝をしたこと、(2)被上告人らと丸豊住宅との専属専任媒介契約書には、目的物件の表示として本件土地の実測面積が一七七霜、公簿面積も同様である旨の記載がされていたこと、(3)被上告人らが丸豊住宅に本件土地の実測図面を要求したところ、本件土地部分に一七七平方メートルと書き込みをした公図の写しの交付を受けたこと、(4)前記重要事項説明書の建築基準法に基づく制限の概要欄に、建築面積の限度として「敷地面積一七七平方メートル×六〇%=一〇六・二㎡」等の記載があったことなどを理由に、本件契約が数量指示売買であるとする。

 しかし、(1)の点は、多数意見も認めるとおり、公簿面積に坪単価を乗じて売買価格が決定されることもあり、前記のとおり、この坪単価に乗じられた面積が公簿面積であることが広告上に明示されているのであるから、このことをもって上告人が実測面積を保証したものとは解されず、(2)の点は、問題の専属専任媒介契約書は被上告人らと丸豊住宅との契約に係るものであって、上告人とは無関係のものであり、現に上告人と丸豊住宅の専属専任媒介契約書には実測面積欄は記載されず、公簿面積欄のみ記載されていたのであって、これをもって上告人が実測面積が一七七㎡であると表示したものとはいえず、(3)の点も、被上告人らと丸豊住宅の問題であって、上告人とは関係なく、しかも、交付された図面は公図の写しに公簿面積が書き込まれたにすぎないものであって、一見して実測図でないことが明らかなものであり、(4)の点も、重要事項説明書の地積欄には一七七平方メートルが公簿面積であることが明示されているのであるから、公簿面積を基準とした場合の数値が示されていることは容易に看取することができ、しかも、重要事項説明書は宅地建物取引業者である丸豊住宅の責任で記載されるものである。

 以上のことに、記録によれば、被上告人中川博文本人が本件契約に当たり一七七㎡が実測面積であるかどうかについて上告人と話し合ったことがないことを自認していることを併せ考えれば、本件契約において、上告人が本件土地の実測面積が一七七平方メートルあることを表示したものとは、到底解されない。

 よって、本件契約を数量指示売買に当たるものとして被上告人らの請求を認容した原判決はこれを破棄し、上記と同旨の第一審の判断は正当であるから、被上告人らの控訴は理由がないものとして棄却すべきである。

(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 町田 顯 深澤武久)