相続税の計算において,有限会社の保有する取引相場のない大会社の株式を評価するに当たり,有限会社は | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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相続税の計算において,有限会社の保有する取引相場のない大会社の株式を評価するに当たり,有限会社は,同社に対して50パーセント以上の出資割合を有していないが同社を実効的に支配し得る地位にある評価会社の同族株主の同族関係者として,評価会社の同族株主に当たるとして,税務署長が配当還元方式ではなく,類似業種比準方式を用いてした更正処分は適法であるとされた事例

 

 

              相続税更正処分等取消請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成16年(行コ)第123号

【判決日付】      平成17年1月19日

【判示事項】      1 相続税の計算において,有限会社の保有する取引相場のない大会社の株式を評価するに当たり,有限会社は,同社に対して50パーセント以上の出資割合を有していないが同社を実効的に支配し得る地位にある評価会社の同族株主の同族関係者として,評価会社の同族株主に当たるとして,税務署長が配当還元方式ではなく,類似業種比準方式を用いてした更正処分は適法であるとされた事例

             2 相続税の計算において,相続財産である有限会社の出資を評価するに当たり,評価差額に対する法人税相当額を控除しないことに合理性があるとされた事例

【判決要旨】      (1) 相続税法22条(評価の原則)は、相続により取得した財産の価額は、同法第3章(財産の評価)で特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価により評価するものと規定している。ここに、時価とは、相続開始時における当該財産の客観的交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解される。

             (2) 客観的交換価値は必ずしも一義的に明確に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価基本通達に定められている評価方法により相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法をとると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、回帰的、かつ、大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものである。したがって、財産評価基本通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これは、時価の評価方法として妥当性を有するものと解される。

             (3) 財産評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって、実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなどこの評価方法によらないことが正当と是認されるような特別な事情がある場合には、他の合理的な方法により評価をすることが許されるものと解される。このことは、同通達自体も、その6項において、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」旨定められていること(なお、国税庁長官の指示は、国税庁内部における処理の準則を定めたものにすぎず、同指示の有無が、更正処分の効力要件となっているものではないと解される。)からも明らかである。かかる場合には、同通達の定める評価方法によることなく、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮しつつ、相続税法22条(評価の原則)の規定する「時価」を算定すべきこととなる。

             (4) 類似業者比準式による株式評価は、財産評価基本通達上、非上場株式についての評価原則的な方法であり、現実に取引が行われている上場会社の株価に比準した株式の評価額が得られる点において合理的な手法といえ、非上場株式の算定手法として最も適切な評価方法であるといえる。

             (5)~(8) 省略

             (9) 財産評価基本通達188-2(同族株主以外の株主等が取得した株式の評価)が、非上場株式の原則的な評価手法の例外として、「同族株主以外の株主等」が取得した評価会社の株式については、配当還元方式によって評価することを定めている趣旨は、一般的に、非上場のいわゆる同族会社においては、会社経営等について同族株主以外の株主の意向が反映されることはなく、同族株主以外の株主が株式を保有する目的は、会社経営に関わりを持ったり、株価の上昇によるキャピタルゲイン等の投機的あるいは投資的動機によるものではなく、会社との安定的な取引関係の維持、継続を図ること等数値的に表すことのできない無形の利益を期待して、いわば取引上のつきあいで株式保有をする場合が多く、株主にとっては配当を受領するということ以外に直接の経済的利益を享受することがないという実態を考慮した特別の例外的措置とみるのが相当である。そして、会社に対する直接の支配力を有しているか否かという点において、同族株主とそれ以外の株主とではその保有する株式の実質的な価値に大きな差異があるといえるから、財産評価基本通達は、同族株主以外の株主の保有する株式の評価については、類似業種比準方式よりも安価に算定される配当還元方式による株式の評価方法を採用することにしたものであって、そのような差異を設けることには合理性があるというべきである。

             (10) 財産評価基本通達における例外的評価方法たる配当還元方式は、評価会社の経営に関して実効支配力のない同族株主以外の株主の保有する株式に限って例外的に適用されるものであって、評価会社の経営に対して実効支配力を有する同族株主の保有する株式について適用されるべきものではない。

             (11)~(15) 省略

           (16) 過少申告加算税制度は申告納税制度を採用する国税において、適正な申告をした者とこれをしなかった者との間に生じる不公平を是正し、適正な申告を励行させるための制度的担保となるものであるから、国税通則法65条4項(過少申告加算税)の適用については、申告が「真にやむを得ない理由」によるものであって、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当、過酷といえる場合であってはじめて同条項が適用されるものと解すべきであり、単に納税者の法の不知や誤解に基づく場合はこれに該当しないものと解するのが相当である。

             (17) 省略

【参照条文】      相続税法22

             相続税財産評価に関する基本通達178

             相続税財産評価に関する基本通達194

【掲載誌】        訟務月報51巻10号2629頁

             税務訴訟資料255号順号9900

 

財産評価基本通達 188-2 同族株主以外の株主等が取得した株式の評価

 

前項の株式の価額は、その株式に係る年配当金額(183《評価会社の1株当たりの配当金額等の計算》の(1)に定める1株当たりの配当金額をいう。ただし、その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とする。)を基として、次の算式により計算した金額によって評価する。ただし、その金額がその株式を179《取引相場のない株式の評価の原則》の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合には、179《取引相場のない株式の評価の原則》の定めにより計算した金額によって評価する。

 

(注) 上記算式の「その株式に係る年配当金額」は1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額であるので、算式中において、評価会社の直前期末における1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数を乗じて評価額を計算することとしていることに留意する。