「公図により境界を確認することを原則としている」という慣習ないし慣習法の存在を認めなかった事例 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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「公図により境界を確認することを原則としている」という慣習ないし慣習法の存在を認めなかった事例

 

最高裁判所第3小法廷判決/昭和37年(オ)第510号

昭和38年12月10日

境界確認請求

【判示事項】    「公図により境界を確認することを原則としている」という慣習ないし慣習法の存在を認めなかった事例

【掲載誌】     最高裁判所裁判集民事70号165頁

       主   文

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告人の上告理由第1点について。

 所論は、法務局保管に係る公簿附属の公図の証拠力は排斥できないことをいうが、公図であっても絶対的証拠力を有するものではなく、的確な証拠により右図面の記載に誤りあることを認めることを妨げないから(昭和32年(オ)第793号、昭和36年9月21日第1小法廷判決、最高裁判所裁判集民事54号285頁参照)、原判決が所論公図を挙示の証拠に対比して証拠として採用しなかった点に所論違法は存しない。論旨中、憲法29条を云々する点は、右違法を前提とするものであって、採るを得ない。

 所論はすべて、畢竟原審の専権に属する証拠の取捨を非難するに帰着し採用できない。

 同第2点について。

 所論は慣習ないし慣習法をいい原判決の法例2条違背を云為するが、「公図により境界を確認することを原則としている」慣習ないし慣習法の存在をいう所論は独自の見解に過ぎず、従って法例2条違背をいう所論も採るを得ない。

 同第3点について。

 所論1、2引用の最高裁判所判例は、いずれも本件に適切でない。その余の所論も事案適切でない判例を掲げ、或いは独自の所見を述べて、原判決を非難するに過ぎない。従って、所論は、すべて、採用できない。

 同第4点について。

 所論は、原審の地形地勢の認定につき、実験法則違反、慣習法違反、判断遺脱、理由不備をいうが、右認定は、原判決挙示の証拠及び原判示の事実関係によれば、首肯できる。これに所論の違法はない。論旨は、畢竟原審の専権たる証拠の取捨判断、事実の認定を論難するに帰着するのであって、採用できない。

 同第5点について。

 所論指摘の原判示には、前後矛盾撞着はない。又、原判決引用の第1審判決が山間僻地において山林内より飲料水を引く場合自己所有の山林内に適当な水源を有しないときには、他人所有の山林内から引水の便を受けることは容易に想像し得るところである旨判示した点は、この様な経験則の存することを掲げたものであって、これを示すに証拠によらないことは何ら違法でない。

 所論第1審検証調書の被告の指示説明の項の(7)には「これ((T)点)は被告の家が先程の貯水池((A)点)から水を引くようになるまで被告の家で使っていた貯水池です」との記載がなされていて、同検証調書の検証の結果の項の(9)には「被告指示に係る貯水池((T)点)には(A)点の貯水池と同じ位の大きさの貯水池があるが附近は草が生え繁っている(尚写真参照)」との記載があって、(T)点附近を撮影した写真が添付されているから、原判決が右検証調書によって所論指示説明のあった旨を判示した点に何ら違法はない。所論永代常用水源池はあくまでも(A)点であり(T)点は昔日旱魃又は貯水池修理等のため臨時応急用として1時使用したと指示したことは、右検証調書上全く認められず、所論各準備書面の記載を引いて云々する点は、(A)点と(T)点について原審の認定にそわないことを主張するものであって、採用できない。

 又、他人所有地内に特約なくして永代常用の水利の水源池を設置することは、地方慣習に反し衛生的見地からしてもあり得ないことであり、これを認めた原審判断は経験則に反するとの所論は、独自の所見を述べるに過ぎず、原判決には所論違法は存しないから、所論は、採用できない。

 同第6点について。

 所論は、原判決確定の(B)(ロ)線のうち(B)(F)間は、上告人所有の「1061番地ノ1山林」と被上告人所有の「1063番地山林」の境界ではなくて右「1061ノ1山林」と上告人の父松実所有の「1056番地山林」との境界であるとの主張を前提として原判決の理由そごをいうものであるが、原判決は、右松実所有の「1056番地山林」が所論(B)(F)線において被上告人所有の「1063番地山林」と隣接するとは判示していない。所論は、原審認定判示外の事実を前提として原判決の理由そごをいうものであって、採用の限りでない。

 同第7点ないし第12点及び第14点について。

 所論は、原判決の経験法則違反、判断遺脱、審理不尽、理由不備をいうが、いづれも畢竟するに原審の専権たる証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに過ぎず採用できない。

 同第13点について。

 所論指摘の第1審判決理由説示部分は、原審判決が引用しないところであるから、所論は、既に前提を欠くものであって、採用の余地がない。

 同第15点、第16点について。

 所論は、原判決の事実誤認、判断遺脱、理由不備ないし理由そごをいうが、所論指摘の点の原審認定は、原判決挙示の証拠関係に照し肯認できるところであり、これらの認定事実によって原判決が本件境界を判定した点に、所論違法は存しない。

 同第17点について。

 土地登録制度下、既登録地の境界確定の訴において土地台帳等の公簿及び公簿検証の結果は証拠として徘斥できないとか、明治時代の土地登録時の資料が存在する以上これによって境界の確定を図るべきであるとか、土地登録当時又は地券制度時代の占有状態によって判定すべきであるとかいう論旨は、すべて独自の所見を以て原審の専権たる証拠の取捨判断に異論を唱えるに過ぎず、原判決が昭和時代の占有状態のみを資料として本件境界を判定したとの所論は原判文を正解しないものである。

 よって、所論はすべて採用できない。

 同第18点について。

 所論は、原判決が占有状態によって筆界を確定し土地登録制度を無視したこと及び、時効援用がないにも拘らず時効完成を仮想したことをいうが、右所論は原判決を正解しないものであり、これを前提として原判決の違法をいう論旨は、採用の限りでない。

 同第19点について。

 上告人は、被上告人の「1063番地山林」の相続取得につき登記のないことを理由としてその所有権取得を否認し得る第三者には該当しないとして、上告人の所論主張を排斥した原審の判断は正当である。原判決には、所論判断遺脱、理由不備ないし理由そごはない。又、所論挙示の大審院判決も、境界確定の訴の当事者は係争相隣地の所有権者であることを要するとはいっているが、対抗要件を具備しなければならないとは判示していないから、原審判断が右判例に抵触するところはない。畢竟、所論は、独自の見解に基づくものであって、採用できない。

 同第20点について。

 所論は、原判決の甚しい事実誤認、判断遺脱、理由不備をいうが、その実質はすべて、原審の適法になした証拠の取捨及び事実の認定を非難するに帰着するものであって、採用できない。

 よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第3小法廷