航空機リース事件・契約の締結に当たって,税負担を伴わないあるいは税負担が軽減されることを目的とし | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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航空機リース事件・契約の締結に当たって,税負担を伴わないあるいは税負担が軽減されることを目的として,実体ないし実質と異なる外観ないし形式をとった場合には,当該実体ないし実質に従って課税されるべきであるとした事例

 

 

              申告所得税更正処分取消等各請求控訴事件

【事件番号】      名古屋高等裁判所/平成16年(行コ)第48号

【判決日付】      平成17年10月27日

【判示事項】      契約の締結に当たって,税負担を伴わないあるいは税負担が軽減されることを目的として,実体ないし実質と異なる外観ないし形式をとった場合には,当該実体ないし実質に従って課税されるべきであるとした事例

【判決要旨】      (1) 憲法84条(課税の要件)の租税法律主義の原則の重要な機能は、国民に対して経済活動における法的安定性と予測可能性を与えることにあり、その観点からすれば、租税賦課の根拠となるべき法令すなわち租税法は、国法秩序の一部を構成するものであるから、そこで用いられている概念は、基本的には他の国法のそれと整合する意味内容が与えられるべきであり、租税法における目的論的解釈の名の下に、一般法の概念と矛盾・抵触するものであってはならないというべきである。そうすると、租税法は国民の私的経済活動ないし経済現象を課税対象とするものであるが、これらについては、第一次的に私法によって規律されているから、その意味内容も、まず私法によって解釈されなければならない。

             (2) 国民が一定の経済的目的を達成しようとする場合、私的自治の原則ないし契約自由の原則が存在する以上、当該国民は、どのような法的手段、法的形式を用いるかについて、選択の自由を有するというべきであり、このことは、他の法的手段、形式を選択すれば税負担を求められるのに、選択の結果、これを免れる場合であっても基本的には同様というべきである。もっとも、特段の合理的理由がないのに、通常は用いられることのない法的手段、形式を選択することによって、所期の経済的効果を達成しつつ、通常用いられる法律行為に対応する課税要件の充足を免れ、税負担を減少させあるいは排除する場合には、租税回避行為としてその有効性が問題となり得るが、租税法律主義の観点からは、このような場合であっても、当該法的手段、形式が私法上は有効であることを前提としつつ、租税法上はこれを有効と扱わず、同一の経済目的を達成するために通常用いられる法的手段、形式に対応する課税要件が充足したものとして扱うためには、これを許容する法律上の根拠を要すると解すべきである。

             (3) 一般論としては、通常は用いられることのない契約類型の内容を把握するに当たっては、明示的な文言にもかかわらず、これを制限的に解釈し、あるいは逆に条項と条項の「行間」に明示されていない合意内容を読み込む必要が生ずることもあり得るというべきであり、また、契約書等の外形的資料は、それらが唯一絶対的な判断材料というわけではないから、隠された当事者の合意内容がどのようなものであるか(この場合、契約書は処分証書としての性格を有しないことになる。)、あるいは表示行為から推測される効果意思と真の内心的効果意思との異同を明らかにする必要を生ずる場合もあり得るというべきである。以上のような作業は、当事者の真意の所在を明らかにするという事実認定の問題であり、これに即して課税要件の充足を検討するものであるから、租税法律主義に反するものではないが、このことは、動機、意図などの主観的事情によって、通常は用いられることのない契約類型であるか否かを判断することを相当とするものではなく、まして、税負担を伴わないあるいは税負担が軽減されることを根拠に、直ちに通常は用いられることのない契約類型と判断した上、税負担を伴うあるいは税負担が重い契約類型こそが当事者の真意であると認定することを許すものでもない。したがって、選択された契約類型における「当事者の真意の探求」は、当該契約類型や契約内容自体に着目し、それが当事者が達成しようとした法的・経済的目的を達成する上で、社会通念上著しく複雑、迂遠なものであって、到底その合理性を肯認できないものであるか否かの客観的な見地から判断した上で、行われるべきものである。

             (4)・(5) 省略

             (6) 民法667条1項(組合契約)の組合契約が有効に成立するためには、①2人以上の当事者の存在、②各当事者が出資をすることを合意したこと、③各当事者が共同の事業を営むことについて合意したことの各要件が必要であるところ、この「事業を共同で営む」というためには、各当事者が同法673条(組合員の組合の業務及び財産状況に関する検査)に基づいて組合の業務や財産状況を検査する権利と、業務執行を1人又は数人の組合員に委任したときに、正当の事由がある場合には同法672条1項(業務執行組合員の辞任及び解任)に基づいて業務執行組合員を解任する権利を有している必要があり、また、各当事者が事業の成功に何らかの利害関係を有することが必要である。

             (7)~(11) 省略

             (12) 所得税法施行規則57条(取引の記録等)に規定する「正規の簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りょうに記録」するとは、所得金額が正確に計算できるように、資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引を、定められた会計処理の方法に基づいて、組織的かつ秩序的に記録することを意味する。

             (13) 省略

             (14) 青色申告承認取消処分をする場合に理由を附記した書面をもって通知することを必要としているのは、青色申告承認の取消しが、承認を得た者の種々の特典をはく奪する不利益処分であることから、取消事由の有無に関する処分庁の判断における慎重さと公正妥当性を担保してその恣意を抑制するとともに、取消しの理由を相手方に知らしめることによって、その不服申立てに便宜を与えるためであると解される。したがって、該当号数を示しただけでは取消しの基因となった具体的事実を知ることができない場合には、通知書に該当号数を示しただけでは足りず、その基因となった事実についても相手方が具体的に知り得る程度に特定して摘示しなければならないというべきである(最高裁判所昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁)。

             (15)~(18) 省略

             (19) 抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう(行政事件訴訟法3条1項(抗告訴訟))ところ、同訴訟は、民衆訴訟や機関訴訟などの客観訴訟と異なり、「法律上の利益を有する者」に限って提起することができるとされており、処分取消訴訟についても、当該処分によって自己の権利又は法律上の利益を害され、あるいはそのおそれがあり、その取消しによって上記権利又は利益が回復、保全される場合に、その提起が許されるものであるから、およそ、原告の法律上の権利、利益を害するおそれのないような処分については、そもそもこれを取り消すべき利益がなく、かかる処分の取消訴訟は不適法というべきである。

             (20)~(29) 省略

【掲載誌】        税務訴訟資料255号順号10180

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      Lexis判例速報5号92頁

 

憲法

第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

 

所得税法施行規則

(取引の記録等)

第五十七条 青色申告者は、青色申告書を提出することができる年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額が正確に計算できるように次の各号に掲げる資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引(以下この節において「取引」という。)を正規の簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りように記録し、その記録に基づき、貸借対照表及び損益計算書を作成しなければならない。

一 不動産所得については、その不動産所得を生ずべき法第二十六条第一項(不動産所得)に規定する不動産等の貸付けに係る資産、負債及び資本

二 事業所得については、その事業所得を生ずべき事業に係る資産、負債及び資本

三 山林所得については、その山林所得を生ずべき業務に係る資産、負債及び資本

2 青色申告者は、取引のうち事業所得、不動産所得及び山林所得に係る総収入金額又は必要経費に算入されない収入又は支出を含むものについては、そのつどその総収入金額又は必要経費に算入されない部分の金額を除いて記録しなければならない。ただし、そのつど区分整理し難いものは年末において、一括して区分整理することができる。

 

民法

(組合契約)

第六百六十七条 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。

2 出資は、労務をその目的とすることができる。