控訴人は、被控訴人から、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属

控訴人は、被控訴人から、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)による障害福祉サービス(居宅介護)の介護給付費を受給していたところ、65歳に達するに際し、被控訴人に対し、障害者総合支援法20条1項による介護給付費の支給申請(本件申請)をした。被控訴人は、控訴人は65歳に達したことにより介護保険法による居宅介護費の支給を受けることができるところ、同法による要介護認定の申請をしないために居宅介護サービスの支給量を算定することができないことから、居宅介護サービスでは不足するために上乗せすべき介護給付の支給量も算定することができないとして、本件申請を却下する決定(本件処分)をした。

 

 

 

              行政処分取消等請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/令和3年(行コ)第170号

【判決日付】      令和5年3月24日

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

障害者総合支援法

(他の法令による給付等との調整)

第七条 自立支援給付は、当該障害の状態につき、介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定による介護給付、健康保険法(大正十一年法律第七十号)の規定による療養の給付その他の法令に基づく給付又は事業であって政令で定めるもののうち自立支援給付に相当するものを受け、又は利用することができるときは政令で定める限度において、当該政令で定める給付又は事業以外の給付であって国又は地方公共団体の負担において自立支援給付に相当するものが行われたときはその限度において、行わない。

 

(申請)

第二十条 支給決定を受けようとする障害者又は障害児の保護者は、主務省令で定めるところにより、市町村に申請をしなければならない。

2 市町村は、前項の申請があったときは、次条第一項及び第二十二条第一項の規定により障害支援区分の認定及び同項に規定する支給要否決定を行うため、主務省令で定めるところにより、当該職員をして、当該申請に係る障害者等又は障害児の保護者に面接をさせ、その心身の状況、その置かれている環境その他主務省令で定める事項について調査をさせるものとする。この場合において、市町村は、当該調査を第五十一条の十四第一項に規定する指定一般相談支援事業者その他の主務省令で定める者(以下この条において「指定一般相談支援事業者等」という。)に委託することができる。

3 前項後段の規定により委託を受けた指定一般相談支援事業者等は、障害者等の保健又は福祉に関する専門的知識及び技術を有するものとして主務省令で定める者に当該委託に係る調査を行わせるものとする。

4 第二項後段の規定により委託を受けた指定一般相談支援事業者等の役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。第百九条第一項を除き、以下同じ。)若しくは前項の主務省令で定める者又はこれらの職にあった者は、正当な理由なしに、当該委託業務に関して知り得た個人の秘密を漏らしてはならない。

5 第二項後段の規定により委託を受けた指定一般相談支援事業者等の役員又は第三項の主務省令で定める者で、当該委託業務に従事するものは、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。

6 第二項の場合において、市町村は、当該障害者等又は障害児の保護者が遠隔の地に居住地又は現在地を有するときは、当該調査を他の市町村に嘱託することができる。

 

(支給要否決定等)
第二十二条 市町村は、第二十条第一項の申請に係る障害者等の障害支援区分、当該障害者等の介護を行う者の状況、当該障害者等の置かれている環境、当該申請に係る障害者等又は障害児の保護者の障害福祉サービスの利用に関する意向その他の主務省令で定める事項を勘案して介護給付費等の支給の要否の決定(以下この条及び第二十七条において「支給要否決定」という。)を行うものとする。
2 市町村は、支給要否決定を行うに当たって必要があると認めるときは、主務省令で定めるところにより、市町村審査会又は身体障害者福祉法第九条第七項に規定する身体障害者更生相談所(第七十四条及び第七十六条第三項において「身体障害者更生相談所」という。)、知的障害者福祉法第九条第六項に規定する知的障害者更生相談所、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第六条第一項に規定する精神保健福祉センター若しくは児童相談所(以下「身体障害者更生相談所等」と総称する。)その他主務省令で定める機関の意見を聴くことができる。
3 市町村審査会、身体障害者更生相談所等又は前項の主務省令で定める機関は、同項の意見を述べるに当たって必要があると認めるときは、当該支給要否決定に係る障害者等、その家族、医師その他の関係者の意見を聴くことができる。
4 市町村は、支給要否決定を行うに当たって必要と認められる場合として主務省令で定める場合には、主務省令で定めるところにより、第二十条第一項の申請に係る障害者又は障害児の保護者に対し、第五十一条の十七第一項第一号に規定する指定特定相談支援事業者が作成するサービス等利用計画案の提出を求めるものとする。
5 前項の規定によりサービス等利用計画案の提出を求められた障害者又は障害児の保護者は、主務省令で定める場合には、同項のサービス等利用計画案に代えて主務省令で定めるサービス等利用計画案を提出することができる。
6 市町村は、前二項のサービス等利用計画案の提出があった場合には、第一項の主務省令で定める事項及び当該サービス等利用計画案を勘案して支給要否決定を行うものとする。
7 市町村は、支給決定を行う場合には、障害福祉サービスの種類ごとに月を単位として主務省令で定める期間において介護給付費等を支給する障害福祉サービスの量(以下「支給量」という。)を定めなければならない。
8 市町村は、支給決定を行ったときは、当該支給決定障害者等に対し、主務省令で定めるところにより、支給量その他の主務省令で定める事項を記載した障害福祉サービス受給者証(以下「受給者証」という。)を交付しなければならない。

 

 

       主   文

 

 1 原判決を次のとおり変更する。

 (1)被控訴人が平成26年8月1日付けで控訴人に対してした障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律20条1項の規定による介護給付費の支給申請を却下する決定を取り消す。

 (2)被控訴人は、控訴人に対し、平成26年7月8日付け障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律20条1項の規定による介護給付費の支給申請について、サービスの種類を居宅介護、サービスの内容及び支給量を身体介護月45時間、家事援助月25時間とする介護給付費の支給決定をせよ。

 (3)被控訴人は、控訴人に対し、27万4240円及びこれに対する平成26年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 (4)控訴人のその余の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを5分し、その2を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

(略称は、新たに付するもののほかは、引用部分に係る原判決の例による。)

第1 控訴の趣旨

 1 本判決主文第1項(1)及び(2)と同じ。

 2 被控訴人は、控訴人に対し、134万9240円及びこれに対する平成26年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1 事案の要旨

 控訴人(昭和24年○月○○日生)は、千葉市(被控訴人)に居住し、身体障害者手帳(身体障害者福祉法15条)の交付を受けている障害者である。

 控訴人は、被控訴人から、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)による障害福祉サービス(居宅介護)の介護給付費を受給していたところ、65歳に達するに際し、被控訴人に対し、障害者総合支援法20条1項による介護給付費の支給申請(本件申請)をした。被控訴人は、控訴人は65歳に達したことにより介護保険法による居宅介護費の支給を受けることができるところ、同法による要介護認定の申請をしないために居宅介護サービスの支給量を算定することができないことから、居宅介護サービスでは不足するために上乗せすべき介護給付の支給量も算定することができないとして、本件申請を却下する決定(本件処分)をした。

 控訴人は、本件処分は違法であるとして、被控訴人に対し、①本件処分の取消し、②本件申請についての介護給付費の支給決定の義務付け並びに③国家賠償法1条に基づく損害賠償として134万9240円(自費で受けたホームヘルプサービスの料金14万9240円、慰謝料100万円及び弁護士費用20万円の合計)及びこれに対する平成26年8月1日(本件処分の日)から民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

 原判決は、②の介護給付費の支給決定の義務付けの請求に係る訴えを却下し、控訴人のその余の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が請求全部の認容を求めて控訴した。

 2 関係法令の定め、通知等

 次のとおり補正するほかは、原判決別紙「関係法令の定め」に記載のとおりであるから、これを引用する。

 (1)32頁3行目の冒頭に「(1)」を、18行目の末尾に改行して以下をそれぞれ加える。

 「(2)27条(障害者総合支援法施行令17条4号に規定する厚生労働省令で定める者)

 令第17条第4号に規定する厚生労働省令で定める者は、同条第1号から第3号までに掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める額を負担上限月額としたならば保護(生活保護法第2条に規定する保護をいう。以下同じ。)を必要とする状態となる者であって、同条第4号に定める額を負担上限月額としたならば保護を必要としない状態となるものとする。」

 (2)37頁10行目の末尾に頁を改めて以下を加える。

 「5 通知等

 (1)厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長・障害福祉課長通知(平成19年3月28日障企発第0328002号・障障発第0328002号。以下「平成19年課長通知」という。)

 本判決別紙1のとおり

 (2)平成27年2月18日厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課・障害福祉課事務連絡。以下「平成27年事務連絡」という。)

 本判決別紙2のとおり」

 3 前提事実

 次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2に記載のとおりであるから、これを引用する。

 (1)3頁18行目の「受けている」の次に「(身体障害者福祉法15条、身体障害者福祉法施行規則5条3項、別表第5号(身体障害者障害程度等級表))」を加える。

 (2)3頁22行目の「第51号」の次に「(平成26年4月1日施行)」を、4頁1行目の「基本合意」の次に「(以下「平成22年1月の基本合意」又は単に「基本合意」という。)をそれぞれ加える。

 (3)4頁9行目の「障害程度」の次に「(障害者の心身の状態を示すもの)」を、10行目の「受けていた(」の次に「障害者の心身の状態を示す」を、11行目の「区分は」の次に「平成26年4月1日から、必要とされる支援の度合を示す」をそれぞれ加える。

 (4)8頁21行目の末尾に改行して以下を加える。

 「 介護保険におけるサービス(以下「介護保険サービス」という。)については、利用者は、原則として費用の1割相当額を利用料として負担するとされているところ、これが過重なものとならないよう、低所得者について負担軽減措置がとられている。このうち、障害者総合支援法による居宅介護給付(ホームヘルプサービス。障害者総合支援法5条(原判決別紙「関係法令の定め」1(3)))を受けていた者であって、境界層措置(受給者が、その所得に応じた料金を支払うと生活保護を必要とするが、それより低い所得段階の負担料であれば生活保護を必要としなくなる場合に、より低い基準を適用して負担の軽減・免除をする措置)により定率負担額が零円であったものについては、65歳に達して介護保険の適用を受けるようになった(以下、このような状態を「介護保険への移行」等ということがある。)後も、介護保険制度下における支援措置により、介護保険サービスの利用料について全額が免除される(障害者総合支援法施行令17条(原判決別紙「関係法令の定め」2(3))、障害者総合支援法施行規則27条(原判決別紙「関係法令の定め」3(2)(補正後のもの))。(乙32、41、42)

 ところが、控訴人は、もともと上記の所得層に属する者よりも収入が低い非課税世帯であったことから、障害者総合支援法による境界層措置を受けるまでもなく、居宅介護給付の利用料の自己負担額が零円であった(障害者総合支援法29条3項2号(原判決別紙「関係法令の定め」1(11))、障害者総合支援法施行令17条4号(原判決別紙「関係法令の定め」2(3))及び障害者総合支援法施行規則27条(原判決別紙「関係法令の定め」3(2)(補正後のもの))ところ、介護保険に移行すると、(従前境界層措置の対象者でなかったために)前記支援措置を受けることができず、月額1万5000円の利用料の負担が生ずることとなっていた。」

 4 争点

 (1)障害者総合支援法7条関係

 ア 争点1 障害者総合支援法7条の規律内容、同法22条1項による支給要否決定との関係等

 イ 争点2 障害者総合支援法7条の「自立支援給付に相当するものを受けることができるとき」の意義

 (2)本件処分の違法性関係

 争点3 本件処分についての被控訴人の裁量権の逸脱又は濫用の有無

 (3)本件訴えのうち介護給付費の支給決定の義務付けを求める部分(以下、この部分を「本件義務付けの訴え」という。)関係

 争点4 本件義務付けの訴えの適法性(適法である場合には、義務の内容)

 (4)国家賠償請求関係

 争点5 本件処分の国家賠償法上の違法性及び損害