不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した者が背信的悪意者に当たる場 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属

不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した者が背信的悪意者に当たる場合

 

 

              所有権確認請求本訴,所有権確認等請求反訴,土地所有権確認等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成17年(受)第144号

【判決日付】      平成18年1月17日

【判示事項】      不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した者が背信的悪意者に当たる場合

【判決要旨】      甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。

【参照条文】      民法162

             民法177

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集60巻1号27頁

 

民法

(所有権の取得時効)

第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

 

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 

事案の概要

 

 1 本件は,甲が専用通路として使用占有してきた土地について,これを時効取得した甲と,その取得時効の完成後に譲渡を受けて所有権移転登記を了した乙との間で,所有権取得の優劣が争われた事件である。

 2 本件事案の概略は,次のとおりである。

(1)乙は,鮮魚店を開業する目的で,徳島県鳴門市内の土地を購入し,所有権移転登記を了し,また,その間口を広げる目的で,その隣地である本件土地(地目ため池,地積52平方メートル)等を購入して所有権移転登記を了した。

(2)甲は,本件土地の西側に位置する土地を所有し,同地上に本件建物を所有している。

(3)本件通路部分は,コンクリート舗装がされており,現在,甲が公道(国道)から本件建物への進入路として利用している。本件通路部分は,甲の前主らが,乙による本件土地等の購入の22年前から専用進入路として使用占有し,9年前にコンクリート舗装したものである。

(4)原審の認定によれば,本件通路部分の大半は,乙の購入した本件土地等に当たる。

 3 本件本訴請求事件は,乙が,甲に対し,本件通路部分の一部が本件土地に当たると主張して,その所有権の確認を求めるとともに,コンクリート舗装の撤去を求めたものである。本件反訴請求事件は,甲が,乙に対し,本件通路部分について,主位的に所有権の確認を求め,予備的に通行地役権の確認を求めたものである。本件訴訟において,甲は,20年間本件通路部分を占有したことにより所有権又は通行地役権を時効取得したと主張したところ,乙は,甲の登記の欠缺を主張し,これに対し,甲は,乙が背信的悪意者に当たると主張した。

 4 原審は,「乙は,甲による取得時効の完成後に本件土地等を購入したものであるが,購入時,甲が本件通路部分をその専用進入路としてコンクリート舗装した状態で利用していること,甲が本件通路部分を利用できないとすると,公道からの進入路を確保することが著しく困難となることを知っていた。また,乙において調査をすれば甲が本件通路部分を時効取得していることを容易に知り得た」として,乙は甲が時効取得した所有権について登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないと判断し,乙の本訴請求をほぼ全部棄却し,甲の反訴請求を全部認容した。

 5 乙から上告受理申立てがあり,論旨は,民法177条の解釈の誤り,判例違反等をいうものである。

 6 本判決は,乙において,甲が取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても,背信的悪意者と認められる場合があるというベきであるが,その場合であっても,少なくとも,乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があると解すべきであるとして,時効取得についての背信的悪意者に当たる要件について,「甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時点において,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たるというべきである」と説示したものである。そして,「原審は,乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識していたことを確定せず,単に,乙が,本件土地等の購入時,甲が本件通路部分を通路として使用しており,これを通路として使用できないと公道へ出ることが困難となることを知っていたこと,乙が調査をすれば甲による時効取得を容易に知り得たことをもって,乙が甲の時効取得した本件通路部分の所有権の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に当たらないとしたのであるから,この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある」として,原判決を破棄したものである。