取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき,配当還元価額 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき,配当還元価額によって評価した原審の判断に違法があるとされた事例

 

 

              所得税更正処分取消等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成30年(行ヒ)第422号

【判決日付】      令和2年3月24日

【判示事項】      取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき,配当還元価額によって評価した原審の判断に違法があるとされた事例

【判決要旨】      取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき、当該株式の譲受人が財産評価基本通達においてその株主が取得した株式は配当還元価額によって評価するものとされている株主に該当することを理由として、配当還元価額によって評価した額であるとした原審の判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある。

【参照条文】      所得税法59-1

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事263号63頁

             裁判所時報1745号3頁

             判例タイムズ1478号21頁

             金融・商事判例1606号38頁

             金融・商事判例1602号10頁

             判例時報2467号3頁

             金融法務事情2155号66頁

 

所得税法

(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)

第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。

一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)

二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。

 

 

所得税法施行令

(時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)

第百六十九条 法第五十九条第一項第二号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に規定する政令で定める額は、同項に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額とする。

 

 1 事案の概要

 本件は,法人に対する株式の譲渡につき,譲渡人の相続人である被上告人らが,当該譲渡に係る譲渡所得の収入金額を譲渡代金額(1株当たり75円)と同額として所得税の申告をしたところ,当該代金額が所得税法59条1項2号に定める著しく低い価額の対価に当たるとして,更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことから,これらの各処分(東京国税局長の決定により一部取り消された後のもの。以下「本件各更正処分」という。)の取消し(更正処分については修正申告又は先行する更正処分の金額を超える部分)を求める事案である。

 争点は,当該株式の当該譲渡の時における価額であり,上告人(国)はいわゆる類似業種比準方式によって算定した1株当たり2505円を,被上告人らはいわゆる配当還元方式によって算定した1株当たり75円(譲渡における代金額と同額)を主張した。