旧所得税法における時価の意義 所得税更正決定処分取消請求控訴事件 名古屋高等裁判所 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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旧所得税法における時価の意義

 

 

              所得税更正決定処分取消請求控訴事件

【事件番号】      名古屋高等裁判所判決/昭和45年(行コ)第23号

【判決日付】      昭和50年11月17日

【判示事項】      (1) 旧所得税法における時価の意義

             (2) 譲渡土地の時価の認定について、買主の転売価額を基礎として時点修正したものによることが合理的であるとされた事例

             (3) 譲渡土地には賃借権の負担が付着していた旨の納税者の主張が排斥された事例

             (4) 譲渡土地の時価の認定につき、同土地の転売価額を基礎とせず、いわゆる路線価方式によるべき旨の納税者の主張が排斥された事例

             (5) 土地の時価評価につき根抵当権が設定されていることを考慮すべきか

             (6) 譲渡土地の取得価額が分明でない場合、財産税調査時期における財産税評価額を時点修正したものをもって取得価額と認定するのが、相当であるとされた事例

             (7) 譲渡土地の取得価額に関する鑑定評価は、仮換地指定後の状況を所与として評価時点の価額を時点修正したものであり、物件的同一性ないし類似性及び時間的同一性ないし類似性に乏しい取引事例に比準したものであって、採用できないとされた事例

             (8) 譲渡土地につき従前支払った立退料は、譲渡経費にあたらないとされた事例

             (9) 資産の譲渡代金が保証債務の履行に充てられた場合、その求償権の行使不能と譲渡所得の成否

             (10) 旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)五条の二第二項の低額譲渡と買主の資力との関係

             (11) 昭和三七年法律第四四号による改正後の旧所得税法一〇条の六第二項(保証債務を履行するため資産の譲渡があり、その履行に伴う求償権の行使不能の場合の所得計算の特例)の規定は、昭和三七年一月一日前の事実に遡及適用することはできないとされた事例

             (12) 所得税法(昭和四八年法律第八号による改正前のもの)五九条二項(みなし譲渡の適用除外)の規定は、同法施行日(昭和四〇年四月一日)前の譲渡に遡及適用することはできないとされた事例

             (13) 課税処分が信義則に反する旨の納税者の主張が排斥された事例

【判決要旨】      (1) 旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)五条の二第二項にいう「その譲渡の時における価額」とは、当該譲渡の時における客観的交換価値(市場価値・時価)、いいかえれば、自由市場において、市場の事情に十分通じ、かつ、特別の動機をもたない多数の売り手と買い手が存在する場合に成立すると認められる価格をいうものと解するのが相当である。

             (2)~(4) 省略

             (5) 譲渡土地に根抵当権が設定されていても、当該根抵当権の被担保債権の債務者が右土地の譲受人以外の第三者である場合には、右抵当権の存在によっても右土地の客観的交換価値を減少するものではない。このことは、売買契約における売主の担保責任(民法五六七条)および買主の代金支払拒絶権(同法五七七条)等の規定に照らし明らかである。もっとも、一般の売買取引において、抵当債務の額、買主が所有権を失う危険の程度等をも考慮に入れて売買価額が決定されていることは否定しえないが、これらの事情は極めて不確定な要素を含むものであるのみならず、買主において後日抵当債務の弁済をしたときは債務者等に対し求償権を行使しうるのであるから、右土地の時価算定にあたり根抵当権の存在を斟酌する必要はないものというべきである。また、根抵当権の被担保債権の債務者が右土地の譲受人である場合には、買主において自らの債務を弁済して根抵当権を消滅させれば、買主は何ら負担の存しない土地を取得したことになり、根抵当権が実行されたとしても、右土地の競落代金をもって買主の債務が弁済され、残額は買主に交付されるから、右土地の交換価値のすべてを享受しえたことになるから、右土地の時価算定上根抵当権消滅のための費用を控除すべき理由はない。

             (6)~(8) 省略

             (9) 土地の譲渡代金が保証債務の弁済に充てられ、これによる求償権の行使が事実上不能であるとしても、右保証債務は、本件土地の売却により、その代金を取得すると否とに無関係に納税者がこれを弁済すべきものであるから、右代金を右債務の弁済に充てたからといって、本件土地の譲渡による所得がなかったとはいえず、また、求償権が事実上行使できないとの事情は、譲渡所得の成否に何らの消長をきたすものではない。

             (10) 旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)五条の二第二項の規定は、著しく低い価額の対価で資産の譲渡があった場合に、譲渡の時における価額により当該資産の譲渡があったものとみなして課税するのであって、当該譲渡契約の私法上の効力に何ら影響を及ぼすものではないから、譲渡価額を超える部分について売主に代金請求権が発生するものではなく、右部分を買主から回収することが事実上可能であるか否かは、同条の適用にかかわりがないというべきである。

             (11)~(13) 省略

【掲載誌】        税務訴訟資料83号502頁

 

昭和四十年法律第三十三号

所得税法

(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)

第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。

一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)

二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。

(贈与等により取得した資産の取得費等)

第六十条 居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。

一 贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)

二 前条第二項の規定に該当する譲渡

2 前項の場合において、同項第一号に掲げる相続又は遺贈により取得した次の各号に掲げる資産を譲渡したときにおける当該資産の取得費については、同項の規定にかかわらず、当該各号に定めるところによる。

一 配偶者居住権の目的となつている建物 当該建物に配偶者居住権が設定されていないとしたならば当該建物を譲渡した時において前項の規定により当該建物の取得費の額として計算される金額から当該建物を譲渡した時において当該配偶者居住権が消滅したとしたならば次項の規定により配偶者居住権の取得費とされる金額を控除する。

二 配偶者居住権の目的となつている建物の敷地の用に供される土地(土地の上に存する権利を含む。以下この号及び次項第二号において同じ。) 当該建物に配偶者居住権が設定されていないとしたならば当該土地を譲渡した時において前項の規定により当該土地の取得費の額として計算される金額から当該土地を譲渡した時において当該土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利が消滅したとしたならば次項の規定により当該権利の取得費とされる金額を控除する。

3 第一項の場合において、同項第一号に掲げる相続又は遺贈により取得した次の各号に掲げる権利が消滅したときにおける譲渡所得の金額の計算については、同項の規定にかかわらず、当該各号に定めるところによる。この場合において、第三十八条第二項(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)の規定は、適用しない。

一 配偶者居住権 当該相続又は遺贈により当該配偶者居住権を取得した時において、その時に当該配偶者居住権の目的となつている建物を譲渡したとしたならば当該建物の取得費の額として計算される金額のうちその時における配偶者居住権の価額に相当する金額に対応する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額により当該配偶者居住権を取得したものとし、当該金額から当該配偶者居住権の存続する期間を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額をもつて当該配偶者居住権の第三十八条第一項に規定する取得費とする。

二 配偶者居住権の目的となつている建物の敷地の用に供される土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利 当該相続又は遺贈により当該権利を取得した時において、その時に当該土地を譲渡したとしたならば当該土地の取得費の額として計算される金額のうちその時における当該権利の価額に相当する金額に対応する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額により当該権利を取得したものとし、当該金額から当該配偶者居住権の存続する期間を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額をもつて当該権利の第三十八条第一項に規定する取得費とする。

4 居住者が前条第一項第一号に掲げる相続又は遺贈により取得した資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が当該資産をその取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなす。

 

所得税法施行令

(時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)

第百六十九条 法第五十九条第一項第二号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に規定する政令で定める額は、同項に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額とする。