原告は,被告税務署長が所得税についてした更正のうち,申告額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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原告は,被告税務署長が所得税についてした更正のうち,申告額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定の各取消しを求めている訴えにおいて,株式の譲渡等に係る譲渡収入金額の認定に誤りがあると主張した。判決は,取引相場のない株式については,会社の純資産がその主要な価格の形成要因であることからすれば、純資産価額方式によることが合理的であるとして,処分を適法と認めた。

 

 

所得税更正処分取消請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所/平成9年(行ウ)第226号、平成10年(行ウ)第122号

【判決日付】      平成11年11月30日

【判示事項】      原告は,被告税務署長が所得税についてした更正のうち,申告額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定の各取消しを求めている訴えにおいて,株式の譲渡等に係る譲渡収入金額の認定に誤りがあると主張した。判決は,取引相場のない株式については,会社の純資産がその主要な価格の形成要因であることからすれば、純資産価額方式によることが合理的であるとして,処分を適法と認めた。

【判決要旨】      (1) 所得税法三六条一項、二項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、権利をもって収入する場合には、当該権利を取得する時における当該権利の「価額」と定め、さらに同法五九条一項二号は、法人に対し、著しく低い価額の対価として政令で定める額により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、譲渡所得の金額の計算については、その自由が生じた時に、その時における「価額」に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす旨を定めているところ、右にいう「価額」とは、当該資産等の客観的交換価値を指すものと解すべきであり、いわゆる市場価格をいうものと解するのが相当である。取引相場のない株式については、そもそもそれが自由な取引市場に投入されていないため、自由な取引を前提とする客観的交換価値の把握は極めて困難であって、でき得る限り合理的な方法によってこれを推認するほかはない。

             (2) 取引相場のない株式の価額の算定に課税実務上用いられている所得税基本通達二三~三五共-九に定める評価方法は、①最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額の売買実例がある場合にはその価額によることとしている②適正な売買実例がない場合でも、評価の対象となる法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する法人の株式の価額があるときには、その価額に比準して推定した価額を時価とする類似法人比準方式を認めており、この評価方法自由な取引を前提とする客観的交換価値により近似する評価を得ることが可能であること③さらに、右のいずれの方法も採り得ない場合の算定方式として、純資産価額方式を定めており、この評価方式は、会社資産に対する割合的持分という株式の基本的性格とも調和するものであり、会社の経営に対して支配的地位を有する株主の保有する株式の評価方法であることから合理性を有する。

             (3) 所得税の収入金額の計算において、取引相場のない株式を類似法人の株式の価額に比準して評価対象法人の価額を推認することが合理的であるのは、右の各法人間に、事業の種類、規模、収益の状況等株式の価額を形成する主要な要因についての類似性が存するとの前提があるからであり、右のような前提を満たす類似法人が存在しない場合には、他の法人の株式の価額との比準を行っても、当該法人の株式の価額について、意味のある推定結果を得ることは困難であるというべきである。そして、売買実例がなく、右のような類似法人も存在しない場合においては、株式が会社資産に対する割合的持分であり、株式の流通価格が市場において決定される場合についての当該会社の純資産がその主要な価格の形成要因であることからすれば、純資産価額方式によることが合理的であると解すべきである。

             (4)~(6) 省略

【掲載誌】        税務訴訟資料245号576頁

             LLI/DB 判例秘書登載

 

所得税法

(収入金額)

第三十六条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。

2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。

3 無記名の公社債の利子、無記名の株式(無記名の公募公社債等運用投資信託以外の公社債等運用投資信託の受益証券及び無記名の社債的受益権に係る受益証券を含む。第百六十九条第二号(分離課税に係る所得税の課税標準)、第二百二十四条第一項及び第二項(利子、配当等の受領者の告知)並びに第二百二十五条第一項及び第二項(支払調書及び支払通知書)において「無記名株式等」という。)の剰余金の配当(第二十四条第一項(配当所得)に規定する剰余金の配当をいう。)又は無記名の貸付信託、投資信託若しくは特定受益証券発行信託の受益証券に係る収益の分配については、その年分の利子所得の金額又は配当所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、第一項の規定にかかわらず、その年において支払を受けた金額とする。

(必要経費)

第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

2 山林につきその年分の事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その山林の植林費、取得に要した費用、管理費、伐採費その他その山林の育成又は譲渡に要した費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)

第三十八条 譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。

2 譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、前項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間のうち次の各号に掲げる期間の区分に応じ当該各号に掲げる金額の合計額を控除した金額とする。

一 その資産が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供されていた期間 第四十九条第一項(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)の規定により当該期間内の日の属する各年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるその資産の償却費の額の累積額

二 前号に掲げる期間以外の期間 第四十九条第一項の規定に準じて政令で定めるところにより計算したその資産の当該期間に係る減価の額

 

(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)

第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。

一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)

二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。