国籍国政府から直接迫害を受けるおそれはないが同国内の政治団体関係者から迫害を受けるおそれがあり, | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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国籍国政府から直接迫害を受けるおそれはないが同国内の政治団体関係者から迫害を受けるおそれがあり,かつ同国政府から保護を受けられないため,「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」として難民に該当すると判断された事例


    退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民不認定処分無効確認請求事件
【事件番号】    東京地方裁判所判決/平成17年(行ウ)第114号、平成17年(行ウ)第115号
【判決日付】    平成19年2月2日
【判示事項】    1 国籍国政府から直接迫害を受けるおそれはないが同国内の政治団体関係者から迫害を受けるおそれがあり,かつ同国政府から保護を受けられないため,「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」として難民に該当すると判断された事例
          2 難民の認定をしない処分が無効であることの確認請求が認容された事例
【参照条文】    出入国管理及び難民認定法2
          難民の地位に関する条約1
          難民の地位に関する議定書1
          出入国管理及び難民認定法61の2
          行政事件訴訟法3-4
          行政事件訴訟法36
【掲載誌】     判例タイムズ1268号139頁

出入国管理及び難民認定法
(定義)
第二条 出入国管理及び難民認定法及びこれに基づく命令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 外国人 日本の国籍を有しない者をいう。
二 乗員 船舶又は航空機(以下「船舶等」という。)の乗組員をいう。
三 難民 難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)第一条の規定又は難民の地位に関する議定書第一条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいう。
三の二 補完的保護対象者 難民以外の者であつて、難民条約の適用を受ける難民の要件のうち迫害を受けるおそれがある理由が難民条約第一条A(2)に規定する理由であること以外の要件を満たすものをいう。
四 日本国領事官等 外国に駐在する日本国の大使、公使又は領事官をいう。
五 旅券 次に掲げる文書をいう。
イ 日本国政府、日本国政府の承認した外国政府又は権限のある国際機関の発行した旅券又は難民旅行証明書その他当該旅券に代わる証明書(日本国領事官等の発行した渡航証明書を含む。)
ロ 政令で定める地域の権限のある機関の発行したイに掲げる文書に相当する文書
六 乗員手帳 権限のある機関の発行した船員手帳その他乗員に係るこれに準ずる文書をいう。
七 人身取引等 次に掲げる行為をいう。
イ 営利、わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、誘拐し、若しくは売買し、又は略取され、誘拐され、若しくは売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、若しくは蔵匿すること。
ロ イに掲げるもののほか、営利、わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、十八歳未満の者を自己の支配下に置くこと。
ハ イに掲げるもののほか、十八歳未満の者が営利、わいせつ若しくは生命若しくは身体に対する加害の目的を有する者の支配下に置かれ、又はそのおそれがあることを知りながら、当該十八歳未満の者を引き渡すこと。
八 出入国港 外国人が出入国すべき港又は飛行場で法務省令で定めるものをいう。
九 運送業者 本邦と本邦外の地域との間において船舶等により人又は物を運送する事業を営む者をいう。
十 入国審査官 第六十一条の三に定める入国審査官をいう。
十一 主任審査官 上級の入国審査官で出入国在留管理庁長官が指定するものをいう。
十二 特別審理官 口頭審理を行わせるため出入国在留管理庁長官が指定する入国審査官をいう。
十二の二 難民調査官 第六十一条の三第二項第二号(第六十一条の二の八第二項において準用する第二十二条の四第二項に係る部分に限る。)及び第三号(第六十一条の二の十四第一項に係る部分に限る。)に掲げる事務を行わせるため出入国在留管理庁長官が指定する入国審査官をいう。
十三 入国警備官 第六十一条の三の二に定める入国警備官をいう。
十四 違反調査 入国警備官が行う外国人の入国、上陸又は在留に関する違反事件の調査をいう。
十五 入国者収容所 法務省設置法(平成十一年法律第九十三号)第三十条に定める入国者収容所をいう。
十六 収容場 第六十一条の六に定める収容場をいう。

(難民の認定等)
第六十一条の二 法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により難民である旨の認定の申請があつたときは、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定(以下「難民の認定」という。)を行うことができる。
2 法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により補完的保護対象者である旨の認定の申請があつたときは、その提出した資料に基づき、その者が補完的保護対象者である旨の認定(以下「補完的保護対象者の認定」という。)を行うことができる。
3 法務大臣は、第一項の申請をした外国人について難民の認定をしない処分をする場合において、当該外国人が補完的保護対象者に該当すると認めるときは、補完的保護対象者の認定を行うことができる。
4 法務大臣は、第一項の申請をした外国人について、難民の認定をしたときは、法務省令で定める手続により、当該外国人に対し、難民認定証明書を交付し、その認定をしない処分をしたときは、当該外国人に対し、理由を付した書面をもつて、その旨を通知する。
5 法務大臣は、第一項又は第二項の申請をした外国人について、補完的保護対象者の認定をしたときは、法務省令で定める手続により、当該外国人に対し、補完的保護対象者認定証明書を交付し、同項の申請があつた場合においてその認定をしない処分をしたときは、当該外国人に対し、理由を付した書面をもつて、その旨を通知する。

難民の地位に関する条約
第1条【「難民」の定義】
A   この条約の適用上、「難民」とは、次の者をいう。
(1)1926年5月12日の取極、1928年6月30日の取極、1933年10月28日の条約、1938年2月10日の条約、1939年9月14 の議 定書または国際避難民機関憲章により難民と認められている者。国際避難民機関がその活動期間中いずれかの者について難民としての要件を満たしていないと決定したことは、当該者が(2)の条件をみたす場合に当該者に対し難民の地位を与えることを妨げるものではない。
(2)1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができない者またはそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを 望まない者。
二以上の国籍を有する者の場合には、「国籍国」とは、その者がその国籍を有する国のいずれをもいい、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するという正当な理由なくいずれか一の国籍国の保護を受けなかったとしても、国籍国の保護がないとは認められない。
B    (1)この条約の適用上、Aの「1951年1月1日前に生じた事件」とは、次の事件のいずれかをいう。
(a)1951年1月1日前に欧州において生じた事件
(b)1951年1月1日前に欧州または他の地域において生じた事件
各締約国は、署名、批准または加入の際に、この条約に基づく自国の義務を履行するに当たって(a)または(b)のいずれの規定を適用するかを選択する宣言を行う。
(2)(a)の規定を適用することを選択した国は、いつでも、(b)の規定を適用することを選択する旨を国際連合事務総長に通告することにより、自国の義務を拡大することができる。
C      Aの規定に該当する者についてのこの条約の適用は、当該者が次の場合のいずれかに該当する場合には、終止する。
(1)任意に国籍国の保護を再び受けている場合
(2)国籍を喪失していたが、任意にこれを回復した場合
(3)新たな国籍を取得し、かつ、新たな国籍国の保護を受けている場合
(4)迫害を受けるおそれがあるという恐怖を有するため、定住していた国を離れまたは定住していた国の外にとどまっていたが、当該定住していた国に任意に再び定住するに至った場合
(5) 難民であると認められる根拠となった事由が消滅したため、国籍国の保護を受けることを拒むことができなくなった場合
ただし、この(5)の規定は、A(1)の規定に該当する難民であって、国籍国の保護を受けることを拒む理由として過去における迫害に起因するやむを得ない事情を援用することができる者については、適用しない。
(6)国籍を有していない場合において、難民であると認められる根拠となった事由が消滅したため、常居所を有していた国に帰ることできるとき。
ただし、この(6)の規定は、A(1)の規定に該当する難民であって、常居所を有していた国に帰ることを拒む理由として過去における迫害に起因するやむをえない事情を援用することができる者については、適用しない。

D         この条約は、国際連合難民高等弁務官以外の国際連合の機関の保護または援助を現に受けている者については、適用しない。
これらの保護または援助を現に受けている者の地位に関する問題が国際連合総会の採択する国連決議に従って最終的に解決されることなくこれらの保護または援助の付与が終止したときは、これらの者は、その終止により、この条約により与えられる利益を受ける。

E         この条約は、居住国の権限のある機関によりその国の国籍を保持することに伴う権利及び義務と同等の権利を有し及        び同等の義務を負うと認められる者については、適用しない。

F         この条約は、次のいずれかに該当すると考えられる相当な理由がある者については、適用しない。
(a)平和に対する犯罪、戦争犯罪及び人道に対する犯罪に関して規定する国際文書の定めるこれらの犯罪を行ったこと。
(b)難民として避難国に入国することが許可される前に避難国の外で重大な犯罪(政治犯罪を除く)を行ったこと。
(c)国際連合の目的及び原則に反する行為を行ったこと。

難民の地位に関する議定書
第一条 一般規定

1 この議定書の締約国は、2に定義する難民に対し、条約第二条から第三十四条までの規定を適用することを約束する。

2 この議定書の適用上、「難民」とは、3の規定の適用があることを条件として、条約第一条を同条A(2)の「千九百五十一年一月一日前に生じた事件の結果として、かつ、」及び「これらの事件の結果として」という文言が除かれているものとみなした場合に同条の定義に該当するすべての者をいう。

3 この議定書は、この議定書の締約国によりいかなる地理的な制限もなしに適用される。ただし、既に条約の締約国となつている国であつて条約第一条B(1)(a)の規定を適用する旨の宣言を行つているものについては、この宣言は、同条B(2)の規定に基づいてその国の義務が拡大されていない限り、この議定書についても適用される。



       主   文

 1 被告法務大臣が平成17年1月24日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項の規定による異議の申出には理由がないとの裁決を取り消す。
 2 被告主任審査官が同日付けで原告に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。
 3 被告法務大臣が平成15年11月14日付けで原告に対してした難民の認定をしない処分が無効であることを確認する。
 4 訴訟費用は,全事件を通じ,被告らの負担とする。

       事実及び理由

第1 請求
 主文と同じ。
第2 事案の概要
 本件は,本邦に不法残留していたとの理由で退去強制手続をとられ,被告法務大臣から出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)49条1項の規定による異議の申出には理由がないとの裁決を受け,被告主任審査官から退去強制令書発付処分を受けた外国人である原告が,難民である自分に対しては在留特別許可が与えられるべきであったからこれらの処分は違法であると主張してその取消しを求めるとともに(第1事件),難民認定申請に対して被告法務大臣がした難民の認定をしない処分が無効であることの確認を求める(第2事件)事案である。

 1 難民に関する法令の定め

 法務大臣は,本邦にある外国人からの申請に基づき,その者が難民であるか否かの認定を行う(入管法61条の2第1項)。

 入管法上,難民とは,難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)1条の規定又は難民の地位に関する議定書(以下「難民議定書」という。)1条の規定により難民条約の適用を受ける難民のことである(同法2条3号の2)。そして,難民条約1条A(2)及び難民議定書1条1・2によれば,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」は難民条約の適用を受ける難民であるから,この定義に当てはまる者が入管法にいう難民ということになる。