市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)14条1項は、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利をも保障していると解するのが相当である
高松高等裁判所判決/平成8年(ネ)第144号、平成8年(ネ)第204号
平成9年11月25日
受刑者接見妨害国家賠償請求控訴事件
【判示事項】 1 市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)14条1項は、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利をも保障していると解するのが相当である
2 受刑者とその民事事件の訴訟代理人である弁護士との接見について、具体的に30分以上の打合せ時間が必要と認められる場合には相当と認められる範囲で時間制限を緩和した接見が認められるべきであり、接見を必要とする打合せの内容が当該刑務所における処遇等の事実関係にわたり、刑務所職員の立会いがあっては十分な打合せができないと認められる場合には、その範囲で刑務所職員の立会いなしでの接見が認められるべきである
【参照条文】 憲法32
憲法13
市民的及び政治的権利に関する国際規約14-1
監獄法45-2
監獄法50
監獄法施行規則121
監獄法施行規則127-1
監獄法施行規則条約法に関するウィーン条約31
国家賠償法1-1
弁護士法1
【掲載誌】 判例タイムズ977号65頁
判例時報1653号117頁
【評釈論文】 ジュリスト臨時増刊1135号200頁
事案の概要
1 本件は、受刑者であるXが刑務所内で暴行を受けたとして国を相手に国家賠償を求めた民事訴訟の代理人である弁護士らが、打合せのためにXとの接見を求めたところ、時間を30分に制限され又は接見を拒否されたこと及び接見の際に刑務所の職員が立ち会ったことが違法であるとして、X及び弁護士3名(1審原告)が、国(1審被告)を相手として国家賠償法に基づき慰謝料の支払いを求めた事案である。
2 本件における主要な争点は、刑務所長が、受刑者とその民事訴訟事件の代理人である弁護士との接見について、時間を30分以内に制限し又は接見させなかった措置及び刑務所職員を立ち会わせた措置が違法であるかどうかの点であるが、その前提として、監獄法45条2項をどのように解釈するか、また、同法50条に基づく同法施行規則121条で接見時間を30分以内としていること及び同規則127条1項で接見には監獄官吏がこれに立ち会うべきことを定めていることが憲法32条、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)14条1項に反するものかどうか、すなわち憲法32条、B規約14条1項が受刑者とその民事訴訟の代理人である弁護士と接見する権利を保障したものかどうか、保障しているとすればその内容はどのようなものか(時間制限及び接見の際の立会いなしの無条件のものかどうか。)が重要な争点となった。
憲法
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)14条1項
第十四条
1 すべての者は、裁判所の前に平等とする。すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。報道機関及び公衆に対しては、民主的社会における道徳、公の秩序若しくは国の安全を理由として、当事者の私生活の利益のため必要な場合において又はその公開が司法の利益を害することとなる特別な状況において裁判所が真に必要があると認める限度で、裁判の全部又は一部を公開しないことができる。もっとも、刑事訴訟又は他の訴訟において言い渡される判決は、少年の利益のために必要がある場合又は当該手続が夫婦間の争い若しくは児童の後見に関するものである場合を除くほか、公開する。
平成十七年法律第五十号
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
(面会の相手方)
第百十一条 刑事施設の長は、受刑者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く。以下この目において同じ。)に対し、次に掲げる者から面会の申出があったときは、第百四十八条第三項又は次節の規定により禁止される場合を除き、これを許すものとする。
一 受刑者の親族
二 婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の受刑者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため面会することが必要な者
三 受刑者の更生保護に関係のある者、受刑者の釈放後にこれを雇用しようとする者その他の面会により受刑者の改善更生に資すると認められる者
2 刑事施設の長は、受刑者に対し、前項各号に掲げる者以外の者から面会の申出があった場合において、その者との交友関係の維持その他面会することを必要とする事情があり、かつ、面会により、刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生じ、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがないと認めるときは、これを許すことができる。
(面会の立会い等)
第百十二条 刑事施設の長は、刑事施設の規律及び秩序の維持、受刑者の矯正処遇の適切な実施その他の理由により必要があると認める場合には、その指名する職員に、受刑者の面会に立ち会わせ、又はその面会の状況を録音させ、若しくは録画させることができる。ただし、受刑者が次に掲げる者と面会する場合には、刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合を除き、この限りでない。
一 自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し調査を行う国又は地方公共団体の機関の職員
二 自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第三条第一項に規定する職務を遂行する弁護士
(面会の一時停止及び終了)
第百十三条 刑事施設の職員は、次の各号のいずれかに該当する場合には、その行為若しくは発言を制止し、又はその面会を一時停止させることができる。この場合においては、面会の一時停止のため、受刑者又は面会の相手方に対し面会の場所からの退出を命じ、その他必要な措置を執ることができる。
一 受刑者又は面会の相手方が次のイ又はロのいずれかに該当する行為をするとき。
イ 次条第一項の規定による制限に違反する行為
ロ 刑事施設の規律及び秩序を害する行為
二 受刑者又は面会の相手方が次のイからホまでのいずれかに該当する内容の発言をするとき。
イ 暗号の使用その他の理由によって、刑事施設の職員が理解できないもの
ロ 犯罪の実行を共謀し、あおり、又は唆すもの
ハ 刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれのあるもの
ニ 受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれのあるもの
ホ 特定の用務の処理のため必要であることを理由として許された面会において、その用務の処理のため必要な範囲を明らかに逸脱するもの
2 刑事施設の長は、前項の規定により面会が一時停止された場合において、面会を継続させることが相当でないと認めるときは、その面会を終わらせることができる。
国家賠償法
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
弁護士法
(弁護士の使命)
第一条 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。