所有権留保の自動車月賦販売において、割賦金不払を解除権の発生原因とし、かつ、売主が右解除とともに目的自動車の引揚げを予め買主に約諾させることは、契約の自由として許されるべきであり、公序良俗に反しない。
最高裁判所第3小法廷判決/昭和38年(オ)第128号
昭和39年3月31日
損害金請求
【判示事項】 自動車の月賦販売契約において,当事者間の特約により所有権を留保し,割賦代金の不払を契約解除権の発生原因とし,更に解除と共に目的自動車の引揚げを予め買主において約諾することは,契約の自由として許さるべきであり,公序良俗に反するものとは言えないし,特段の事情のない限り,この約諾に基づき目的自動車を引き揚げることを以って直ちに自力救済を容認するものとは解し難いとした事例
【判決要旨】 所有権留保の自動車月賦販売において、割賦金不払を解除権の発生原因とし、かつ、売主が右解除とともに目的自動車の引揚げを予め買主に約諾させることは、契約の自由として許されるべきであり、公序良俗に反しない。
【参照条文】 民法1
民法90
【掲載誌】 最高裁判所裁判集民事72号647頁
所有権留保
所有権留保(しょゆうけんりゅうほ)とは、売主が売買代金を担保するため、代金が完済されるまで引渡しの終えた目的物の所有権を留保するもの。売買契約中の特約により行われる。非典型担保の一つである。主な具体例は以下の通り。
クレジットカードによる商品購入: カード会員規約の条項に従い、代金完済までカード会社に所有権が留保されるのが通例である。
割賦販売: 売買契約等の条項に従い、代金完済まで売主または信販会社に所有権が留保されるのが通例である。なお、割賦販売における所有権留保は割賦販売法の規定により一定の規制を受けることになる。
所有権留保の法的構成
所有権留保の法的構成には所有権的構成と担保権的構成がある。
所有権的構成
目的物の所有権は売主に帰属する。判例は所有権的構成といわれる。
担保権的構成
目的物の所有権は買主に移転し、売主は代金を被担保債権とした担保権(物権)的地位を有する。
所有権留保の効力
対内的効力
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対外的効力
所有権留保物が譲渡された場合で考えると以下のようになる。
所有権的構成 買主は所有権者ではないから、第三者は目的物を善意取得しうるにとどまる。
担保的構成 買主は所有権を有するから第三者は所有権留保付の所有権を承継取得する。所有権留保について善意無過失であれば所有権留保のつかない所有権を取得する。
所有権留保権者の引渡請求は権利濫用法理により制限されることがある。
所有権留保の実行
所有権留保の実行方法は売買契約を解除して目的物の返還を請求する方法による。なお、割賦販売における所有権留保の実行においては割賦販売法上の規制を受ける。
民法
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人神代宗衛の上告理由一について。
所論は、原判決が被上告人主張のごとき売買契約解除と本件自動車の引揚げの特約が当事者間になされたことを、適切な証拠に基づかず、証拠の玩味をすることなく不当に認定したと主張するが、証拠の取捨判断、事実の認定は原審の専権に属するものであり、論旨は上告理由として採用できない。
同二について。
所論中、原審の事実認定を非難する点は、前示のごとく採用の限りでない。
原判決が「しかし、最も動的であつて、一たん占有を移転すれば所在の捕捉すら事実上困難になりがちな自動車の月賦販売において、当事者間の特約により所有権を留保し、割賦代金の不払を契約解除権の発生原因とし、更に解除と共に目的自動車の引揚げを予め買主において約諾することは、契約の自由として許さるべきであつて、公序良俗に反するものとは言えないし、特段の事情なき限りこの予めなされた承諾に基き目的自動車を引揚げることを以て、直ちに自力救助を容認するものとは解し難い」とした判断は、首肯できる。この判示をとらえて、原判決が自力救済を認め法秩序を紊る判断をしたとする論旨は、原判示を正解しないことに基づくもので採用できないし、原判決の右判断が契約自由の原則の限界を無視するものであると論難する点は、独自の見解にすぎないものであつて採用し難い。
また、所論は、本件自動車を被上告人が引き揚げるについて、上告人の留守中その家族である十三才の少年に対し被上告人の使用人がその旨を告げただけであるから、上告人としては空巣をねらわれたも同然であり、このような被上告人の行為は民法一条にいう権利の濫用にあたる旨主張するが、原判決が挙示の証拠関係によつて認定判示するところによれば、上告人は再三の請求にもかかわらず、残代金二〇〇、〇〇〇円の支払をなさず、被上告人においては前記特約に基づき売買契約を解除し本件自動車を引き揚げることとし、右自動車引揚げの数日前に被上告人会社の営業部員たる弁上勉が上告人方を訪れたが、上告人が不在であつたので、家人に右の趣旨を伝え、その頃上告人もこれを知つたこと、被上告人はその後訴外宮田経営の整備工場から本件自動車を引き揚げたが、その際右宮田より上告人に対する自動車修理代金三、九三〇円の支払請求を受けこれを被上告人において立替支払つたこと、被上告人は上告人に対し、その三日後の日付の内容証明郵便を以て、右契約解除の意思表示をなしたうえで自動車を引き揚げたこと及び原判示の期限までに未払代金の支払がない場合本件自動車を処分する旨の通知をしたが、右通知を受けとつた上告人から期限を経過しても回答がなかつたので、はじめてこれを他に売却したというのであるから、上告人が被上告人に空巣をねらわれたも同然であるとして権利濫用をいう所論は、すでに事実関係において前提を異にし、採用の限りでない。
同三について。
論旨は、所論代金支払について上告人が被上告人宛の約束手形を振り出し、その支払場所は上告人宅と定められていたのに、被上告人の支払呈示がなされなかつたことを以て、上告人の本件代金支払に不履行の責がなく、従つて被上告人の本件契約解除は無効であると主張し、その証拠として甲二号証の一ないし一〇の約束手形振出の控と原審証人井上勉の証言の存することを指摘して、この点につき何らの判断をなさなかつた原判決の違法をいうが、原判決の判文上は勿論記録を検しても、上告人が原審において右主張をしたことは認められず、右主張のあることを前提とする論旨は採用の限りでない。
同四について。
所論は、被上告人が昭和三六年二月四日所論自動車の引揚げをなした後同年二月九日付内容証明郵便による代金支払の催告をしたことを原審が認定判示しているとして、契約解除権行使の前提たるべき代金支払の催告以前に自動車引揚げをなしたことの非について原判決が何らの判断を示さない違法があると主張するが、右契約解除権行使ならびに自動車の引揚げは、原判決認定の前示約定に基づくものであり、所論のごとき代金支払の催告を前提としてなされねばならぬものでなく、所論内容証明郵便によつて未払代金を支払うべき旨上告人に通知したことは、契約解除の前提たる催告の趣旨としてなされたものと判示されてはいないのである。これを要するに、論旨は、原判決の判文を正解しないことに基づくものであり、原判決には、判決に影響すべき判断遺脱は存しないから、所論は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷